2012年12月29日土曜日

いまこそ日銀法改正でデフレ脱却のとき

自民党の安倍内閣に変わりましたが、彼らに期待することはとにかくデフレ脱却により経済を回復させることです。

ウェブ上では、10年くらい前から山形浩生らのリフレ論者が、インフレターゲットによるデフレ脱却を主張してきましたが、リーマンショック以降、英米欧がリフレ策を取り始めたことにより、ようやく日本でもインフレ目標が真剣に検討されるようになりました。

デフレとは持続的に平均物価が下がっていく現象のことです。すなわち現金の価値があがっていくということです。

平均物価がさがっていくと、以下のような弊害が起こります。

1. 現金の価値があがっていくということは、来年の1万円は現在の1万円よりも価値があるということです。1万円を借りて来年に1万円を返す場合には、金利を払っているのと同じことになります。この場合は名目金利は0%ですが、実質金利はデフレ率と同等になります。名目金利は0%以下にはなりえないため、デフレ下では実質金利が高止まりするために、企業や消費者は現金を持ちたがり、設備投資などを手控えることになります。そうなると現金は死蔵されて使われなくなり景気が悪くなります。

2. デフレによって物価が下がっても、正社員の給与などは急には下がりません。そうすると、相対的な人件費が高くなり、人件費負担が大きくなるために利益が逼迫されます。そのために全体の人件費を抑制する必要が生じて、失業者や期間労働者などにしわ寄せがいきますし、企業の投資が手控えられたり、正社員の解雇が行われたりすることになります。逆に安定して高給与を保証された正社員や、現金を主に所有する資産家には有利になります。失業者やローンを抱える弱者にしわ寄せがいくという点でデフレの弊害があります。

3. デフレ下では総供給にくらべて総需要が少なく、設備や人材などの生産力が遊休状態にあります。これは産業の効率を下げたり、失業の原因となります。すなわち本来なら働けるのに、無駄にされる生産力があるということです。生産力がすべて使われた状態に比べて、経済の成長力が阻害されることになります。高齢化して社会保障費が増大する日本にとって、経済成長することはきわめて大事なことです。

4. デフレであれば、通貨の価値が上昇するので、他国に比べて通貨高となります。通貨高は輸出企業の業績を悪化させ、輸入を増大させるので、日本の経済を悪化させ、総需要は一層低下します。

そのため経済にとっては、年率2%程度物価が上昇する、ゆるやかなインフレが望ましいと考えられています。

デフレの原因については、バブル崩壊やリーマンショックなどの資産価格下落により需要が一時的に下落すると、それによりデフレが生じて設備投資や消費などが手控えられます。それにより需要が下がり、さらなるデフレを引き起こすというデフレスパイラル論がよく言われます。

原因がどうであれ、デフレやインフレなどの物価水準の変動をちょうどよい水準に保つことは日銀などの中央銀行の責務です。

日本ではデフレが20年も続いており、それが深刻な不況や失業や円高などの原因の一つと考えられています。

デフレを退治する方法はシンプルであり、インフレ目標に従って、日銀がお金を刷って様々な資産を買い続ければよいのです。それは物価がほどよく上昇する程度でやめるのですから、それによってハイパーインフレになる恐れもありません。

日本のようにデフレ下で債務が大きい状況では、公共事業の増大などの財政政策の効果は限定的であると考えられます。公共事業の増大は、増税や、債務を増加させ将来の増税をもたらしたりするため、それだけ企業や消費者の需要を低減させるからです。公共投資を行うなら、老朽化したインフラの更新など、将来の税負担を先食いするようなものが良いのではないでしょうか。

またデフレ不況下で増税を行うことは絶対に避けるべきです。増税した分だけ需要が低減して、税収の低減を招くために、政府財政の改善につながりません。

デフレを退治するためには、日銀法改正が一番です。

政府が政治的圧力で日銀を脅かして従わせたように見えても、実際には日銀は裏で舌を出して、金融緩和策を骨抜きにするでしょう。自主的にインフレ目標らしきものを設定したとしても、実際にはそれを達成するための行動はとらず、デフレが続いても何の責任もとらないのではないでしょうか。これまで日銀はずっとそのような行動をとってきましたから。

日銀をきちんと従わせるためには、日銀法を改正して、インフレ目標を政府が設定できるようにして、もしそれが達成できなければ日銀総裁の解任などの政治介入が行えるようにすべきです。

政治的圧力というもやもやしたもので金融緩和するよりも、きちっとしたルールにもとづいて金融緩和するほうが、通貨の信認という観点からも望ましいのではないでしょうか。

安倍内閣に期待することは、とにかくそれだけです。全力で頑張って頂きたい。

参考文献

2012年12月8日土曜日

右傾化した自民党に政権を渡すのは危険だ

新井です。

政治的発言をして個人的に良いことなど何もありません。本人に政治色がついてしまい、反対派の人達を遠ざけることになるからです。

だからといって賢明な人たちが誰も政治の話をしなければ、この国はどうなってしまうのでしょうか? 愚かで声の大きい人たちが政治を牛耳ることになりますよね。

というわけで、私はここでもどんどん政治の話をしていきます。

さて、次の選挙の話ですが、色々と争点はありますが、私にとって最も注目しているのは、自民党の著しい右傾化と、維新の会などの右派勢力の伸張です。

「右派」という言葉には色々な意味がありますが、本記事では「政府による社会統制の強化」と言った意味で使うことにします。

自民党は政権にあった頃よりも著しく右傾化しており、いまや実質的には右翼政党となっています。

それは彼らの発表したこちらの憲法の改正案を見れば明らかです。こちらのウェブサイトは、左派寄りの見方ですが、自民党改憲案のどこに問題があるかを解説しています。

とくに私が問題だと思うのは第二十一条(表現の自由)に「公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない」という項目を追加したことですね。

(表現の自由)
第二十一条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、保障する。
2 前項の規定にかかわらず、公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない
これは戦前のような言論弾圧を可能とするものであり、自民党がどのような政権を目指しているかが如実に表れている文言です。

さすがに、いくらなんでも、こういうことを言っている人たちに政権を取らせてはまずいだろう、と思いますよ。

片山さつきのようなネット右翼が政界に飛び込んだような人[1][2]要職につけるつもりのようですし。片山さつきのtwitterでの発言をみてもわかるように、このような人が政権に入るのは極めて危険です。

自民党が日銀法改正に言及していることはデフレ対策の点から見て素晴らしいことだと思います。日銀はこれまでひどい仕事をしてきましたから。しかし、自民党の右傾化はきわめて危険であり、自民党を応援するわけにはいかないなあ、と思います。

言論の自由を失いたくない人は、なんとか穏健派の勢力を勝たせるべく頑張りましょう。投票したい政党がないのは事実ですが、このさい民主党でも共産党でもなんでもよいので、とにかく投票に行きましょう。個人的には「みんなの党」の経済政策にはわりと共感するのですが、彼らが右派勢力と連立する危険性が怖いですね。

「強い日本を目指すんだ!」という人もいるかもしれませんが、強い日本というのは自由なイノベーションから生み出される豊かな経済からしか生まれないのではないでしょうか。日本が中国に軍拡競争を挑んでも無益ですよね。

強い日本を生み出すのは、自由な社会によって生み出される科学技術とイノベーションだけだと思います。残念ながら日本には自由主義の政党というのがありませんが、統制主義政党にだけは政権を握らせてはならないと思います。統制主義は、時代遅れの規制によって、日本の経済や文化を滅ぼします。


ヒトラーは選挙で政権についたということをお忘れ無く。


参考情報:

  1. 朝日・東大谷口研究室共同調査:第46回総選挙:朝日新聞デジタル
  2. 各政党の政策を知ろう|「選挙に行こう」キャンペーン - 新経済連盟

2012年12月1日土曜日

選挙期間中にネットで政治を論じても違法ではない

選挙になると、ネットなどでどれだけ政治的発言をしても良いのか、ということが話題になります。

大阪弁護士会の壇俊光弁護士に問い合わせた結論から言うと、選挙期間中であっても選挙関係者以外は自由に政治的な発言をできるということです。

以下に壇俊光弁護士とのメールのやりとりを掲載します。


・新井

選挙期間中やそれ以外の期間でも、
ネットでどういう行為を行うと公職選挙法違反で犯罪になるのか、
どのあたりがグレーゾーンで、どのあたりがセーフなのか、
それについて解説して頂きたいなと思っています。

現状だと、どこまでがアウトなのか、みな分からず、
選挙が公示されたらとりあえず政治については黙っておこう、
みたいな状況になっていると思い、それはまずいと思うんですよね。

評論ならいいのか、評論でもダメなのか、などなど。
応援するのはダメなのか。○○に投票する予定というのはどうか、など。

・壇

結論としては、政治活動に該当しなければとくにいいというより、
金をもらっていなければ、何しても良いというのが基本です。

選挙活動: 特定の選挙につき特定の候補者または特定の立候補者予定者の当選を目的として、投票を得又は得させるために直接または間接に必要かつ有利な行為をすること

選挙活動は、公職選挙法上の規制あり。

政治活動: 政治上の主義、主張、若しくは施策を推進し、支持し、若しくはこれに反対し、又は公職の候補者を推薦し、支持し、若しくは反対することを目的として行う直接間接の一切の行為

政治活動は、公務員等でない限り特に規制ありません。

これに書いてますなぁ。
http://www.jsdi.or.jp/~y_ide/9610saki_qa.htm

で、実務ですが、政治活動と選挙活動の境目が難しいので、
関係者か、金をもらってなければ、まず大丈夫です。


ということで、実務的には一般の方が選挙期間中に政治について論じたところで、選挙違反と見なされることは考えにくいというご見解です。皆さん、安心して政治を論じましょう。

ただし特定の候補者への投票依頼を行ったり、明確に特定候補への支持を表明することについては注意が必要です。(公職選挙法、第百四十六条を参照)

現在の公職選挙法は不必要に禁止事項が多すぎて、公正な選挙をかえって阻害しているものであり、抜本的な改革が必要だと思います。

現在の公職選挙法では、ほとんどまともな選挙活動は行うことができず、著名人や地元の有力者などが有利な、不公正な制度になっていると思います。

単に「ネット選挙解禁」だけでなく、公職選挙法の抜本改革や、選挙公報の紙面の拡充(増ページ等)などを通じて、きちんと候補者に関する情報がうまく流通する制度とすべきです。また選挙カーのような有害無益な存在こそ禁止すべきです。

日本の法律は何でも「禁止禁止!」であり、日本の法制度全般を抜本的に改正して、規制を圧倒的に緩めることが必要なのではないでしょうか。それこそが日本の繁栄につながります。

2012年11月12日月曜日

騙されないための医学入門 - EBM(根拠に基づく医療)とは

わたしはつねづね、全ての人が、医学、経済学、法学の初歩を学ぶべきであると考えています。なぜなら、それらの知識は、人生において役立つ不可欠な知識であるとともに、実世界を理解する手助けをしてくれる大事な教養だからです。

(個人的にはそこにプログラミングも追加したいところですが、人生でどれくらい役立つかは疑問です。教養や知力を高めるという点では、すごく役に立つと信じていますし、仕事や学問の役には立つでしょう、しかしプログラミングそれ自体は人生において医学等ほど必要ではないですね。)

経済学を学ぶなら、スティグリッツの入門書か、クルーグマンのミクロ経済学を読めば事足ります。いきなり教科書だと経済学の考え方が分かりにくい点もあるので、先にエッセイ的なもの(ベッカー教授の経済学ではこう考える―教育・結婚から税金・通貨問題まで)を読んでおくのも良いでしょう。法学を学ぶなら、適当な刑法の入門書を読めば事足ります。どちらもさほど時間をかけることなくエッセンスを学ぶことが出来るでしょう。そして、それは確実にあなたの人生の役に立ちます。

ちなみにミクロ経済学と刑法を選んだのは、それらがマクロ経済学と民法よりも圧倒的にシンプルで分かりやすいからです。とりあえず分野の感じをつかむためだけなら、ミクロと刑法だけ押えておけばよいのではないかというのが、私の独断的意見です。

医学の世界だと、そこまでシンプルに一冊で全体を概観できる本というのは見当たりません。人間という複雑なシステムを扱う以上、一冊で全貌を把握しようというのは難しいのでしょう。そのうえ、世の中には「偽医学」の本や情報があふれており、本物の医者ですら偽医学を提唱したりする有様ですので、ややこしいですね。

それでも、人は医学を学んでおく必要があります。なぜなら本人の健康について最終的に責任を持つのは自分自身しかいないからです。医師の治療を受けるとしても、本人が知識を持って主体的に治療に取り組まなければ治らない病気は数多くあります。そもそも、本人が病気の危険性の認識や、治療の意欲をもたなければ、病院に行くこともなく、薬を飲むこともないのですから、どんな病気も治療できません。


残念ながら素人にとって医学を体系立てて学ぶというのは、かなり難しい行為です。そのような書籍も存在しません。そこで、本記事では、素人が医学を学ぶための一つの考え方を紹介しようと思います。

素人が医学を学ぶための切り口としては、3つの切り口があると思います。1つめが個々の病気について学ぶ方法です。2つ目が、薬について学ぶ方法です。3つめが、統計的な医学について学ぶ方法です。それに比べると、人間の身体の働きについて学ぶのは、学ぶことが膨大で難しいわりに成果があがりにくいので、素人向きではないでしょう。

本稿では、3つめの統計医学について紹介しようと思います。なぜかというと、医学にとって最も大事な考え方は統計であり、医学の発展は統計とともにあり、統計なくして医学はなりたたないからです。そして、統計医学について学ぶことは、世の中に氾濫する偽医学から身を守る方法になります。

ちなみに、個々の病気という観点から医学を学ぶことについては素人向けの良い資料が色々とあります。例えば、ウェブで読むならメルクマニュアル家庭版、本で買うならメイヨー・クリニック 健康医学大事典あたりでどうかと思います。

素人が薬学を学ぶための本は良い物が分かりませんので探してみます。見つかれば、また記事にしますね。


さて、統計医学とは言いますが、ほとんどの皆さんは「なぜ統計が医学と関係あるのか?」とお思いではないでしょうか。

なぜ統計が医学の役にたつのかというと、人間というのは個体ごとに大きなバラツキがあり、病気は確率的に発生し、薬は確率的に効果を発揮するからです。

ある病気にかかった人は、何もせずにいても20%の確率で治るとします。そのときに、Aという薬を飲んだ人も、同じく20%の確率で治るとしたら、その薬は全く効かないのと同じですね。しかし薬のメーカーは、その20%の事例を大々的に紹介して効能を謳うかもしれません。そのため薬事法などは、そうした宣伝を一部規制してはいますが、それでも偽医学やインチキ健康食品は世の中に蔓延しています。

医療では、必ず治療法を評価するときには個別の症例ではなく、統計的データによって評価しなければなりません。それも単なる統計的調査ではなく、実験によって立証される必要があります。

皆さんも「プラシーボ」という言葉について聞いたことがあると思います。

新薬の認可プロセスでは、同じ条件の患者を2つのグループに分けて、片方のグループに新薬を投与し、もう片方のグループには偽薬(プラシーボ)または既存の薬を投与して、その結果を比較します。結果を統計的に評価して、新薬が十分な効果を発揮していれば、薬として認可されます。

このプロセスには、ものすごい費用と労力がかかり、それが製薬会社の利益を圧迫し、医療費高騰の原因となっていますが、それでも省くわけにはいかない重要なプロセスです。

ちなみに、健康食品の宣伝やら、新聞の医学ニュースなどでは、「○○という薬を、試験管で○○という細胞に混ぜたところガンが消えた」とか「○○という薬を、マウスに投与したところガンが消えた」などという話がよく出てきますが、臨床医学的には全く意味のない話です。人間は試験管でもマウスでもありません。そのような新薬候補物質は無数とありますが、実際の薬として認められるのはそのうち何万分の一とか何百万分の一という世界です。


最近の臨床医学では、EBM (Evidence-based Medicine, 根拠に基づく医療)という言葉が一般的になりました。

それは臨床医学においては、常に質の高いエビデンス(証拠)を根拠として医療を行うべきである、という考え方です。エビデンスには以下の種類があります。一般的には、1が最も質が高いエビデンスであり、5はエビデンスとは通常見なされません。 [1]

1. システマティックレビュー (ランダム化比較試験のメタ解析)
2. ランダム化比較試験
3. コホート研究
4. 症例対照研究
5. 症例報告

システマティックレビューとは、ある治療に関する複数の研究成果の統計データについて、統合して統計的な分析(メタ解析)を行って、複数の研究成果を統合した質の高いエビデンスを提供します。 [2]

これによって特定の研究におけるバイアスを排除したり、複数の研究データ(症例数)を統合して質の高い統計データを得ることができます。医学研究には多額の費用がかかるので、個々の研究の症例数は限られたものになるため、メタ解析には大きな価値があります。

システマティックレビューの元祖かつ本家と言えるのが、米国のコクラン共同計画です。コクラン共同計画は世界のEBMの本山とも言え、臨床医学において最も信用できる情報源と見なされています。[3]


ランダム化比較試験は、先ほど述べたように新薬の承認などのさいに行われる研究であり、患者をランダムに2つのグループに割り付け、各グループにAという治療法と、Bという治療法のどちらかを行って、その結果を比較します。

現在は新薬の開発のさいには二重盲検法によるランダム化比較試験が必ず行われます。二重盲検とは、患者の治療を担当する医師も、患者がA/Bどちらのグループに属しているのか分からないようにするという方法です。患者と医師の双方が自分のグループを知ることができないので、「二重」盲検と呼びます。これにより、医師が治療や治療結果の判断に対してバイアスをかけることを可能な限り防ぎます。

この考え方は医学以外の分野にも容易に応用することができ、オーディオ製品や食品などの開発にも応用することができますし、マーケティングのA/Bテストなども同じ考え方ですね。人間という複雑でバラツキのあるものを研究するには、この方法しかありません。

手術などの他の治療法では、プラセボを投与することが難しいので、盲検(ブラインドテスト)を行うことは通常はできません。たまに「偽手術」といって、実際の治療を行わない偽の手術を行う実験もあるようですが、患者がそうした実験に参加したがるとは考えられないので、普通は無理でしょうね。その場合は、盲検することは諦めて、単なるランダム化比較試験を行います。

ランダム化比較試験は、個々の研究のなかでは最もエビデンスとしての質が高いと考えられています。しかし研究自体のデザインに問題があったり、発表バイアス(成果の良いものだけが広く公表される)があることもあるので、素人が個々の研究だけを見て、「この治療法はイケる!」と判断するのは危険です。

いわゆるトクホ(特定保健用食品)と言われる健康食品などは、ランダム化比較試験の結果に基づき認可されているようですが、それが優れた効能を保証しているとは限らないと私は思います。

一つには代用エンドポイントの問題があります。臨床試験の結果はエンドポイントとよばれる評価項目で評価されます。それには、「死亡率を下げる」「痛みをおさえる」など治療上の目的を達成したかどうかを評価する真のエンドポイントと、「食後の中性脂肪を下げる」など健康に利すると考えられる間接的な目標を評価する代用エンドポイントがあります。トクホの臨床試験では、短期間だけ代用エンドポイントが満たされれば良いという考え方のようです。それは必ずしも実際の健康への有用性を保証するものではありません。

いずれにせよトクホの試験は、新薬のように莫大なコストをかけて厳密に行われるのではない以上、眉に唾を付けて見た方が良いでしょう。厚生労働省がなぜこのような中途半端な制度を導入したのか不思議に思います。


コホート研究とは、ある集団についてライフスタイルや受けている治療などの要因について情報収集をしながら長期間の観察を行うことにより、何らかの要因(喫煙など)が健康に及ぼす影響について調査を行う研究手法です。

ランダム化比較試験に比べると、相関関係を見ることはできても、因果関係を直接に知ることはできませんので、その点でエビデンスレベルは低くなります。しかし、数多くの人間を長期間にわたって観察することができますので、ライフスタイルなどのもたらす長期的な影響を調べるには適しています。


症例対照研究はすでに病気にかかった人と、そうでない人がどのような要因にさらされていたかを調べて、病気の原因となる要因を探ります。研究が行いやすいのが利点ですが、統計的に質の良い情報を得るのは困難です。基礎医学研究や疫学研究では有用ですが、臨床上はあまり有用性がありません。 [4]


症例報告とは、一人または複数の患者の症例について「このような事例がありましたよ」という事例報告です。これは通常は考慮に値するエビデンスとは見なされません。ただし、発症した狂犬病という致死率100%の病気を、人類史上初めて治した症例報告には、素晴らしい価値があり、すぐに世界中の臨床家が真似をするようになりました。


治療法のエビデンスレベルについて知るには、学会等の発表している診療ガイドラインが有用な情報源です。診療ガイドラインには難解な物もありますが、一般向けに書かれたものもあり、わりとアップデートされており、役立つと思います。一般向けガイドラインのウェブサイトとしては、mindsがん情報サービス科学的根拠に基づくがん検診推進のページなどがあります。[5]

一般的な素人が治療法の善し悪しについて判断するには、そのような診療ガイドラインを参照することが良いでしょう。mindsにはコクランレビューの抄訳も掲載されています。コクランレビューは現在の臨床医学界において最も信用できる情報源と考えて良いと思います。一般人でも容易に分かる内容、例えば電動歯ブラシなら回転振動式が良いといった内容も掲載されています。


このようなEBMという潮流のせいで、医学研究者は統計学の高い知識が問われるようになり、医学者にとって数学は極めて重要なスキルとなりつつあります。マーケティングや広告の業界人が、じょじょに統計学者やプログラマーに置き換えられつつあるのと似ていますね。

しかし実際には医師の統計の知識は限られたものです。臨床医にとっても、正しく医学情報を理解するために統計の知識が必要なことを考えると、医学教育における統計学の重みを強化しなければならないかもしれませんね。

最後に付け加えておくべきことは、自分という人間は「統計」ではないということですね。5%の人にしか効かない強い副作用のある抗がん剤を使うかどうか、それを判断できるのは自分しかいないということです。当然ですが、医者は、その情報を提供することはできても、判断を下すことはできません。

ですから、医学を学ぶことが大切なのです。さっそく医学を学び始めましょう。ちなみに英語ができる方ならCourseraにも医学や統計学のコースがいくつかありますよん。

2012年10月18日木曜日

ARM社のビジネスモデルとIntelの将来


現在のスマートフォンやタブレットの大半はARM社のプロセッサで動いているのをご存じでしょうか? iPhone, iPad, Kindle, Nexus 7も例外ではありません。

ARM社は、製造設備を一切持たない半導体企業です。しかし、ただのファブレス企業ではありません。ARM社は、自社でプロセッサを製造販売することは一切なく、プロセッサの設計図を他社に販売して稼いでいるIP(知的財産)ベンダーなのです。

ARM社からCPUの設計図を購入したSamsungやTexas Instrumentsなどのメーカーは、CPUを自社で好きなようにカスタマイズして、自社や委託工場(ファウンドリ)でプロセッサを製造して利用したり外販したりします。


ARM社の強みは二点です。

一つには、ARMは低消費電力CPUに特化していることです。モバイル機器では、消費電力が最も重要な要素です。最近では、サーバーやノートPCでも消費電力が重要視されるようになってきました。

もう一つには、ARMは組み込み向けSoC(System on Chip, 統合型プロセッサ)に強みを持っていることです。SoCは、メモリ管理・ビデオ・ネットワークなどの周辺回路をCPUのチップに取り込むことで、実装面積の低減、消費電力の低減、コストの削減を実現します。これはモバイル機器に極めて重要な要素です。

ARMはカスタマイズ可能なCPUの設計図を販売していますので、購入したメーカーは独自の周辺回路や他社から買った周辺回路などを一つのチップにまとめて製造することができます。これはIntelのようにCPUを製造販売している企業には不可能な芸当です。

いくらIntelが強力な企業であっても、一社で全ての周辺回路を開発することはできませんし、多種多様なチップを製造販売することは困難です。

これがIntelのビジネスモデルを大きく脅かしています。


スマートフォンやタブレットは、PCの領域をどんどん切り崩していますし、今後もその流れは止まらないでしょう。そのうえ、ARMプロセッサは十分に進歩しており、今後はPC用としても使われるようになるかもしれません。

初心者ユーザーにとっては、複雑で使いこなすのが難しいWindowsやMacOSのPCよりも、AndroidやiOSのような使いやすいOSを好むのではないでしょうか。そうなれば、キーボードの付いたAndroidノートPCなどが市場に進出してくるのも時間の問題でしょう。

何よりIntelにとって恐ろしいのが、サーバー分野へのARMプロセッサの進出です。

先日、私がIBM BlueGene/Qの記事でも述べたように、サーバー領域においても消費電力や実装密度などが重視されるようになっています。System on Chipによる消費電力と実装密度の向上は、サーバー分野でもどんどん活用されていくでしょう。

サーバーは、PCと異なりWintelの牙城ではありません。Linuxさえ動けば良いという世界です。

数年後には、低価格サーバーというのはSoCのCPUとDRAMとSSDが一つの基板上に実装された、小さなカードのようなものになっていることでしょう。一つのサーバーラックに数千~数万のサーバーノードが実装され、仮想化というのは、サーバー資源の切り分けではなく、単なる管理用・可搬性向上の機能になるのではないでしょうか。(スケールアップよりスケールアウトが容易なことを考えれば、仮想化によるサーバー集約というのはコスト効率の劣る方法です。)

そのときに、サーバーでの勝者はIntelになるのかARMになるのか、興味深いところです。GoogleやAmazonのように大量のサーバーを必要とする企業はARM寄りになるかもしれませんね。

追記: (2012/10/21)

HPはすでにそのようなSoCサーバーを試作しているのですね。1Uあたり72ノードとのこと。おそろしや。

レンタルCTOはじめます

注: 写真はイメージです。
こんにちは、新井です。

個人の取り組みとして、新たにレンタルCTOという活動を始めてみようかと思います。すなわち非常勤の技術コンサルタントとしてベンチャー企業などにアドバイスを行う試みです。

昨今の経営環境では、IT技術の活用が必要不可欠となっていますが、一般企業が優れた技術者を見つけることは容易ではありません。しかし、経営陣にIT専門家がいなければ、ITを高度に活用してビジネスを行うのは難しいのが現実です。

そうした企業の技術参謀役として、ビデオミーティングなどによりアドバイスを行う「レンタルCTO」業をはじめます。


私は、日本を代表する著名技術者ではありませんし、最優秀の経営者でもないでしょう。しかし技術と経営の両方を分かっていて実践している人材という点では、日本では極めて稀少な部類かと思います。いわゆるコンサルタントなどと違い、いまもプログラミングや経営を自分で行っていますので、実用的な知見を提供できます。

これまで、有料動画配信モール、名刺管理ITサービスなどの企画・開発・運用までに携わってきました。動画配信モールは、現在では100TB以上のストレージ容量を運用する巨大なサービスとなっています。

この動画配信モールは、私に開発依頼があったときには、P2P技術を使って安価に動画を配信するという企画でした。しかし私がP2P技術のメリット・デメリットをお話しして、P2Pは今回の案件には適切ではないことをご理解頂き、最終的には通常のサーバーから配信する形式で開発することになりました。

日本でP2P技術で動画配信を行う事業は一つもうまく行かなかったことを考えると、この選択によってビジネスを失敗から救うことができました。

このように、適切な判断のできる高度な技術者を経営判断に活用することは、テクノロジービジネスにおいては必須であると考えます。「プログラムが書けます」というレベルの技術者と、経営判断をゆだねる技術者に求められる知識は全く別のレベルです。


私にとっても、レンタルCTO役をやることで、これから新規事業を手がけるにあたり、様々なビジネスから知見を得たり、新しく優秀な経営者の方々とお知り合いになれるのではないかと期待しています。

私自身の新規事業開発の時間もあり、コンサルティングに使える時間は限られていますので、先着3社までの限定でお受けさせて頂きます。

お互い相性が大切かと思いますので、まずは気軽にお問い合わせ頂き、チャットなどでお話しできればと思います。

お問い合わせは arai [at] mellowtone.co.jp まで。

レンタルCTO基本プラン
* 毎月10万円 (年商1億円以下の企業や個人事業主は毎月5万円に割引します)
* 4時間のビデオミーティングを2回/月
* メールとチャットは無制限 (回答までの時間は無保証)

お手伝いすること:
* IT活用ビジネスに関する企画のアドバイス
* 技術者の採用および、ITアウトソーシングに関するアドバイス
* 基本的な開発プロセスマネジメントに関するアドバイス
* 基本的なITセキュリティに関するアドバイス
* 技術基盤(アーキテクチュア)に関するアドバイス
* システム設計、開発、運用に関するアドバイス

得意な領域:
* ビジネスと技術にまたがる領域 (テクノロジービジネスの企画等)
* ウェブビジネス
* ITベンチャー企業 (受託開発業を除く)
* システム設計
* データベースアプリケーション
* システムの高速化

得意でない領域:
* 大規模エンタープライズシステム
* 大規模プロジェクト
* 市販業務パッケージの活用ノウハウ
* ゲーム開発
* ソフトウェア受託開発業
* 先進的な開発プロセスマネジメント (アジャイル、テスト駆動開発、継続的インテグレーション等)

2012年10月5日金曜日

厚生労働省は間違った日本の薬局制度を廃してバンコクの薬局を見習え


以前、日本での医薬品のオンライン販売規制について書いたことがありました。

そのときにも言及しましたが、日本の薬局というのは何だかおかしいです。

薬剤師がいることにはなっていますが、薬剤師は普通にレジを打っていたり立ち働いていて、とてもきちんと相談できるムードではありません。これなら薬剤師がいる必要がないですよね。何のために薬剤師を常駐させているのでしょうか?

置いている薬も、妙に古臭くて副作用が多かったり、効き目が薄いようなものが中心ですし、値段もやけに高いです。

第一類医薬品の分類もなんだかよく分かりません。リン酸コデインとエフェドリンを含むような比較的に危険な咳止め薬が第二類医薬品に分類されている一方で、ジクロフェナクナトリウム(ボルタレン)の塗り薬という比較的安全と思われる薬が第一類医薬品になっています。ジクロフェナクと同じ非ステロイド性消炎鎮痛剤であるインドメタシンなどは第二類です。

安全性によって分類されているというよりは、単に薬剤師の仕事を増やすためだけに分類されているように思えます。

第一類医薬品を買うときも、べつに懇切丁寧に説明してくれるわけではなく、単に薬剤師がやってきてレジを打って終わりです。なんのための第一類医薬品制度なのでしょうね?

日本では医療費の削減に躍起になっていますが、薬局で薬を買うより、医者に行って薬を貰う方が安いのでは、薬局で薬を買うのは忙しくて医者に行けない人だけになってしまいます・・・ 厚労省にとっての「医療費の削減」には、個人が負担する医療費は含まれないのでしょうね。アホかと思います。

「セルフ・メディケーション」などという言葉がありますが、一部の危険な薬を除けば、単に薬を貰うためだけに毎月医者に行く必要などないですよね。薬局で薬を買えば済む話です。またはアメリカのように一通の処方箋を数回に渡って使えるようにすればよいのです。

そうすれば医療費も削減できて、患者の時間も医者の時間も無駄にならなくなり、とても良いことです。その分、医者の診療時間をもっと患者ときちんと話をすることに使えるようになります。


さて、私は昨年の冬にバンコクに3ヶ月ほど住んでいましたが、彼の地の薬局には感心させられました。

バンコクの中心部は国際的であり、英語が通じますが、それは薬局でも例外ではありません。

高級百貨店エンポリウムに入っているBootsという英国資本の薬局では、薬剤師のいる相談カウンターがあり、眼鏡を掛けた美人薬剤師さんが英語で相談にのってくれます。

例えば、アレルギーの薬はないのかというと、セチリジン(ジルテック)と、最新のレボセチリジンがあり、レボセチリジンは眠くなりにくいが高い、などと説明してくれます。私が、日本の薬局で一般的なクロルフェニラミンはないのか? と聞いたら、「あるけど、そんな古い薬を飲んだら眠くなりますよ!」と言われました。

にきびの薬はないのかというと、抗生物質(クリンダマイシン)と過酸化ベンゾイルとトレチノインがある、と。抗生物質と過酸化ベンゾイルは即効性があり一日二回塗る。トレチノインは、初期はかえって悪化することもあるが長期的にきく。光線を避けるため寝る少し前に塗ること。などと説明してくれます。

これだけ説明してくれるなら、薬局に薬剤師がいる意義があるというものです。

また、古くて副作用の強い薬よりも、新しくて副作用の少ない薬を売るのも、理にかなっています。

薬にはタイで製造されている薬もあれば、海外から輸入している薬もあり、どれも日本の保険診療で貰う薬の3割負担額と同じくらいの金額です。これなら医療費の削減にもつながります。

日本の薬局制度も、このような形に見直して、もし薬剤師を常駐させるなら相談カウンターなどを設けて、ゆっくり相談ができるようにすべきではないでしょうか。そして新しくて安全な薬を安く買えるように、市販医薬品の認可制度を完全に見直すべきですね。

日本では薬局どころか病院ですら、英語が通じるところや通訳を用意しているところは、まれでしょう。このように外国人にとって不都合な体制では、外資系企業はどんどん東南アジアに逃げてしまいますよね。バンコクの大病院では、日本語の通訳までいて、日本語だけで診察を受けることができます。


どうにも日本の薬局制度というのは、厚生労働省が既存の国内弱小製薬会社や薬剤師や薬局を利するために作られたものとしか思えません。21世紀になっても未だにこのように省益ばかりで、国民無視の政策を推し進めるとは理解ができませんね。

厚生労働省というのは、日本の省庁の中でも最悪の存在なのではないでしょうか。レバ刺しは禁止するし、オンライン医薬品販売は禁止するし、それが裁判で違憲判決を受けても上告したりするし、これほど不合理で日本にとって害悪となっている存在が他にあるでしょうか?

あ、京都府警と検察特捜部があった・・・

2012年10月1日月曜日

メイシーのiPhoneアプリが登場しました

メイシーのiPhoneアプリが登場しました!

ユーザーの皆様のご要望にお応えして、メイシーのiPhone用アプリを開発いたしました。

http://itunes.apple.com/jp/app/meishi/id554894177

メイシーのiPhoneアプリでは、名刺データの検索・閲覧と、名刺をカメラで撮ってデータベースに登録する機能がお使い頂けます。

名刺データは、iPhone内に暗号化して保存されますので、飛行機の中など電波の入らないところでも閲覧が可能です。検索も非常に高速となっており、いつでもどこでも、さくさくとメイシーをお使い頂けます。

名刺データからは、地図を表示したり、電話をかけたりすることができますので、外出先での訪問先への連絡などに便利にお使い頂けます。

名刺交換したあとで、名刺をさっとカメラで撮って入力することができますので、タイムリーかつ手軽に名刺の追加が行えるようになりました。

是非、お試しください。

使ってみて、ご要望、ご不明な点、問題点などありましたら、お気軽にメイシーサポートまでご連絡頂ければと思います。

facebookのメイシーページへの「いいね」もまだの方はぜひお願いします!
http://www.facebook.com/mayseejp

皆様のご期待、ご要望に応えられますように更に業務に邁進していきたいと思いますので、今後ともよろしくお願いいたします!

2012年9月24日月曜日

Martin Fowlerの新刊 NoSQL Distilled を読んだよ

NoSQL Distilledは、Martin FowlerとそのThought Worksの同僚によって書かれたNoSQLへの簡単な概略書です。ページ数も薄く、150ページ程度しかないのですが、英語が苦手な我々日本人には、かえってありがたいですね。概略書といっても、日本の本とは違い、実際に実運用で使った人にしか分からない、深く突っ込んだ考察も随所で行われています。

本書では、なぜNoSQLを使うのか、という理由を、水平スケーラビリティ、プログラムの容易さ(プログラムに適したデータモデルの利用)という2つとしています。

NoSQLの水平スケーラビリティについては改めて言うまでもありませんが、プログラムの容易さというのは興味深い観点だと思いました。いわゆるリレーショナルモデルとプログラム言語のデータモデルとのインピーダンスミスマッチを解消する手段としてNoSQLを使うという考え方です。

キーバリューストアやドキュメントデータベースなどでは、一つのレコードをAggregateというひとまとまりのデータと考えることで、配列やハッシュなどのごちゃまぜになったデータ構造をうまく保存できるとしています。この部分については、NoSQLのデータ構造をうまく説明していますので、一読の価値ありです。

またNoSQLの持つスキーマの柔軟性は頻繁な変更のあるシステムと相性が良いのではないかと指摘しています。

また本書では、NoSQLといっても水平スケール指向のものだけでなく、Graph Databaseのように一つのサーバーだけで動かすことを中心にした種類のものにも言及されています。

ドキュメントデータベースなどは、JSONなどのデータにたいして柔軟なクエリを行うこともできるので、一つのサーバーだけで動かすのでもメリットがあるのではないかと考察されています。DynamoDBなどにも対応して欲しい機能です。

但し、本書では依然としてRDBMSがデータベースの第一選択肢に止まり続けるだろうと述べています。私としても、本書を読んだ限りでは、NoSQLの利用は一部の大規模システムなどに止まるのではないかという印象を受けました。より広く使われるには、NoSQLソフトウェアやそれを取り巻く環境がもっと成熟してくることが必要ですね。

本書は列指向データベースのようなOLAP用のデータベースには触れられていなかったのが残念です。私の読解力では、本書で触れられているColumn-Family Storeというものが、Key-Value Databaseとどのように異なるのか全く理解ができませんでした。

2012年9月9日日曜日

NoSQL、CAP定理、BASE、Eventual Consistencyについて深く考えてみた

最近はNoSQLなどといって分散データベースがやたらに流行です。私もDynamoDBを使ってみようと思って色々調べているところですが、学べば学ぶほど奥が深くて恐ろしくなってきます。

まず第一に言っておきますが、現在のところ、いわゆるKey-value store型のNoSQLのメリットは「書き込みのスケーラビリティ」であって、それ以外には大きなメリットはありません。

DynamoDBの場合は「管理不要」「高信頼性」というおまけが付きますので、また話は少し別ですけどね。

他のオープンソース製品を自分のサーバーにインストールするのであれば、RDBMSほどこなれていないNoSQLを運用するのは大変な苦痛と危険が伴うでしょうね。前の記事にも書いたように分散システムを運用するというのは困難かつ苦痛を伴う仕事ですから。

ですから、すさまじい数のアクセスがあるようなシステムでなければ、NoSQLを選択する意味はないでしょう。

データベースに関しては、高いサーバーを買ってなんとかなるなら、高いサーバーを買ってPostgreSQLでも動かしているほうがトータルではずっと安くあがると思いますよ。Xeonを80コア積んだHP DL980Fusion-IOを突っ込んでも1500万円あればおつりが来る時代ですからね。


さて、ここから先はだいぶ込み入った技術の話をします。私も専門家ではなく、Amazon Dynamo[1]の論文を読んだ程度で話をしています。間違っているところがあればご容赦を。

最近喧伝されているBrewerのCAP定理[2]という理論がありますが、一貫性(Consistency)、可用性(Availability)、ネットワーク分断耐性(Partition tolerance)の3つのうち2つまでしか同時に得ることができないという話です。

このPartition toleranceを誤って「分散」と捉えて、「クラウドでは分散は必須なのだから一貫性か可用性のどちらかを犠牲にするしかない」と言っている人たちがいます[3][4]。これは大きな間違いです。分断耐性とは、ネットワークが分断した場合にも動作できるかどうかという話であり、現実にネットワーク分断など滅多に発生しない以上、一貫性も可用性も問題なく確保できます。

ネットワークが分断した場合でもアクセスできるという特性は、DNSやCDNや巨大P2Pネットワークなどには必要な特性かもしれませんが、通常のシステムには不要と言えます。また、これはキャッシュやデータ伝搬の仕組みを使えばアプリケーション側で実装できます。従って、この定理は分散データベースとは何の関係もありません。

BASEはここでACIDと対比されていますが、このBASEもどちらかといえば、データベースのスケーラビリティの話というよりはキャッシュなどアプリケーションよりの話に思います。

この古い学会発表をもとに現代のNoSQLを語るのは、はっきり言って無意味ですし、有害だと思いますね。


NoSQLがしばしばconsistencyを犠牲にするのは決してCAP定理のためではなく、スケーラビリティを確保するためであると考えて良いでしょう。

DynamoDBではconsistent readをサポートしていますが、その場合、(Dynamoと同じquorumによる実装なら)特定の条件下では無限のスケーラビリティが失われるはずです。

Dynamoは、ハッシュキーによってデータを格納するノードを変えていますが、このとき同じハッシュキーに読み書きが集中したとしても、consistencyを犠牲にすれば、ノード数に比例した性能を得ることができます。なぜなら、その場合は同じハッシュキーのデータを格納するNノードのうち1ノードだけに書いたり読んだりすれば良いからです。

また、読み書きのどちらか一方がヘビーな場合にはconsistentでもスケールすることができます。書き込みヘビーなら、書き込みは1ノードに行い、読み込みは全ノードに行えば、読み込みがスケールしない代わりにconsistentです。読み込みヘビーならその逆ですね。

それに対して、consistentに読み書きの双方を行う場合には、最低でもNノードの過半数にたいして書き込みと読み込みを行わねばならず、ノード数に比例したスケーラビリティが得られないことになります。

そこでeventual consistencyという話がでてくるのであり、CAP定理とは何の関係もない話なのです。ハッシュキーが十分に分散していればconsistentでもスケーラブルで可用性ある分散データベースが作れるはずです。


しかしこのように一つの値についてconsistencyが確保されたとしても、残念ながらACIDが実現されるわけではありません。なぜならCAP定理やDynamoDBの言うconsistencyというのは、ACIDのconsistencyとはレベルが違うからです。前者は、最後に完了した書き込みのデータが常に読み出されるというだけの話です。後者では、複数のレコードやテーブルやインデックスにまたがる一貫性が必要です。

(ここから先は適当な推測で書いてます)

ACIDを実装するためには、基本的には、トランザクションマネージャが全てのトランザクションを受け付けて、順番を管理して、順番が入れ子になった書き込みなどが起きないように管理する必要があります。これはスケーラビリティを大きく損なう事態です。ですので、NoSQLではACIDを実装することは本質的価値を損なってしまうのです。

一貫性のある書き込みができなければ、データベース全体として不整合な状態が生まれてしまうこともあります。インデックスを管理するためにもatomicな書き込みが不可欠です。

NoSQLでSQLがサポートされないのは、実装の複雑さもさることながら、整合性のあるクエリを行うためにはスケーラビリティが犠牲になることが理由の一つかもしれませんね。

(適当な推測おわり)

システムのうち、80%くらいの動作は不整合性を許容できるかもしれませんが、残りの20%ではどうしても整合性が必要です。そのときにはアプリケーション側で排他制御や整合性の管理を行う必要がでてきます。それではアプリケーションの開発効率を著しく下げてしまいます。

それが、NoSQLは特別にアクセスの多い場合だけ有効であり、普通のシステムで使うことはあり得ないという理由です。


ということで私はNoSQL全般には懐疑的なのですが、Amazon DynamoDBのように管理負担を軽減してくれるものであれば、もう少し広い利用価値があるような気がします。

実用になるプログラムを書こうとすると、どうしてもデータベースを扱う必要性がでてきますが、RDBMSを使うのは初心者や趣味プログラマ等には重荷であり、小さなプログラムを書くモチベーションを下げています。

DynamoDBを使うことで、もうちょい簡単にシステムが作れるようにならないかな、と思って少しアイデアを温めています。

NoSQL Distilledという新刊や、牛の本などの名著を読みながら、もっと勉強していこうと思います。

[1] Dynamo: Amazon’s Highly Available Key-value Store, Giuseppe DeCandia, et al.
[2] Towards Robust Distributed Systems, Eric A. Brewer
[3] Cloudの技術的特徴について --- ScalabilityとAvailability ---, 丸山不二夫 
[4] 結果整合性(Eventual Consistency)についての分かりやすいプレゼン資料 - Publickey




2012年9月2日日曜日

「アントレプレナーの教科書」から学ぶ「顧客開発モデル」の方法論

弊社がバイブルとしている書物の一つに「アントレプレナーの教科書」という本があります。この本では、連続起業家であるスティーブ・ブランクが新規事業立ち上げの方法論を明確なプロセスとして表現しています。

顧客開発モデルでは、顧客を見つけるために仮説設定と検証を繰り返していくプロセスを明示しています。顧客の困っていること=ニーズは何か、という仮説を立て、それを早い段階からインタビューして検証します。プロトタイプを作成する前にも、質問などによってニーズがあるかどうかを検証していくことを推奨しています。

顧客のところにでかけていっても、すぐに自分の製品について説明したり、「どんな機能が欲しいか」聞いたりするのではなく、まずは顧客がどのように仕事を進めているか、どのような課題を抱えているか、その課題を自社の製品がどう解決できるか、そういうことを調べていきます。

世の中には起業本が山ほどあふれていますが、これほど「実用的」かつ「実践的」な起業本は少ないでしょう。

製品立ち上げのプロセスを4つの大きなステップ、「顧客発見」「顧客実証」「顧客開拓」「組織構築」に分けて、それぞれを数十の小さなステップに細分して説明しています。それによって細かい実践の方法がカバーされています。

起業本の革命児とも言える書籍であり、アメリカでは本書を元にして「リーン・スタートアップ」などの新しい理論や書籍が次々に誕生しました。

この本は素晴らしい本なのですが、ちょっとした弱点があります。

分かりやすく読みやすい本ではあるのですが、分厚く細かく書かれているので、再読したり、事業の最中にちょっと参考にするには重い感じがするということです。

もう一つには、ステップが細かく書かれているのは良いのですが、具体的に書かれすぎていて、実際の事業に当てはめるときにかえってわかりにくいという点です。

そこをカバーするフォロー本として「顧客開発モデルのトリセツ」という電子書籍が出版されました。この本は、アントレプレナーの教科書を読んだ二人の読者が、その本をフォローする解説本として自費出版した本です。

100ページほどの簡潔な電子書籍となっており、いつでもどこでも何度でも読み返しながら顧客開発モデルについての理解を深めることができるようになっています。

私も「アントレプレナーの教科書」を毎回読み返すのは荷が重いと思ってましたので、この電子書籍が出版されたことは福音だと思っています。

顧客開発プロセスを別の角度から見直すことで、顧客開発モデルについてより詳しく、深く理解することができますからね!

ギーク達の破滅の物語

私は普段フィクションは漫画しか読みません。小説や映画などは時間がかかりすぎるとおもって敬遠しています。しかし、主人公がギークとなれば話は別です。

ギーク(geek)とは、私の定義では、理系男性で、自閉的な性格傾向をもつ変人たちのことです。優秀なプログラマーには、このような性格類型を持つ男性が多く居ます。

ここに紹介する三編の小説は、どれも英国の小説で、皮肉で、滑稽でもあり、やや文学的でもあり、主人公のギーク(科学者またはプログラマー)が冒険をして恋をして破滅するという物語です。

ギーク達がもつ幼稚な愛情、または愛情の欠如が物語に乾いた歪みをもたらします。

ギークは他人が苦手であり、他人とあまり関わろうとしない傾向があります。しかし完全に孤独を好むわけでもなく、彼らが他人と関わるときには常に危うさが伴います。

ギークは恋愛が苦手であり、性欲が薄かったり、愛情が薄かったりします。しかし(以下同文)

そうした彼らが人間と関わり社会と関わるときにどのような問題を引き起こすか、冷めた語り口で、ギークの視点から見ていったのが、これらの物語です。

これらの中でも、「ソーラー」で描かれた、ギークのくせに徹底して俗物で好色で無責任でデブでハゲでチビのマイケル・ビアードという人物に好感と親近感を抱きました。

彼は、他人に興味がなく、他人への誠実さへの欠片も無いくせに、セックスとお金と賞賛が大好きという最低・最悪の人物です。そのくせ、血も涙も無い凶悪人物というわけでもなく、徹底して小人物なのです。

このような人物に嫌悪感を持つ人もいるかもしれませんが、私は彼にこそ人間性の真実を見いだします。俗悪な人物でありながらも、成功と虚栄と求めて、人類の発展に貢献してしまったりする、そんな生き様こそ人間的であり人間の真実だと思うからです。

家族愛にあふれた人たちもいれば、他者を顧みずに数式やコードを愛する人もいる、そんな人間の多様性というものが、この人類の発展を生み出してきたのですから。

日本にもこれくらい俗悪なギークがどんどん増えて、俗悪なベンチャー企業をどんどん立ち上げてくれたら面白くなるのになあ、と思いましたよ。もっと欲望にまみれて生きていきましょう。

2012年8月21日火曜日

ひよこ党結党宣言

先日の「出馬してみた」の精神に基づき、本日2012年8月21日、新党「ひよこ党」を結党します。とりあえず私一人しかいない政党で、今後もなんの活動予定もありませんが、結党宣言を書いたので、ここに載せます。

とりあえずfacebookページを作ったので「いいね」してくれると喜びます。

githubにレポジトリを作ったので、誤字脱字などありましたら、pull requestを送ってください。

みんなも新党旗揚げするといいんじゃないかな?


ひよこ党綱領

2012年8月21日、「出馬してみた」の精神に則り、ここにひよこ党を設立する。

ひよこ党は、自由、博愛、理性の原則に拠り、日本を多様かつ寛容で国際的な自由主義・自由経済・民主主義のリーダーとするべく、現実的で理性的な政策を提唱・実行していく。

ここに本党の三大価値観と行動規範を明記し、今後の活動の礎としたい。

* 三大原則

** 自由

自由ということは、21世紀に社会が繁栄するために最も大切なことであると信じます。

21世紀の社会では、価値はイノベーション(改革)からしか産まれません。イノベーションを生み出すのは自由な社会です。規制でがんじがらめの社会からはイノベーションは産まれません。

自由な経済、自由な文化活動、自由な市民生活、自由な政治活動を保証することが国家の果たすべき最も大切なつとめであると強く信じます。

極端に安全性を重視するのをやめ、規制を減らすことにより、日本経済は発展し、より住みやすい国になるでしょう。


では、自由主義とは政策の検討過程においてどのような働きをするのでしょうか? 実例に則して見てみましょう。

私はタバコの煙が苦手で、喫煙できる店などにいると、すぐに健康を害します。個人的には、公共の場所はすべて禁煙であるべきだと思います。しかし、それを法律によって強制するべきではないと信じます。なぜなら、法で絶対的に禁止せずとも、間接的に禁煙の場所を増やす政策をとることができるからです。

例えば、喫煙できる店を免許制にして、その免許に対して税を課すとか、優れた排煙装置を義務づけるなどすれば、必然性もないのに喫煙可能にしている店は減ることになるでしょう。

かといって我々は自由放任主義(レッセフェール)にも与しません。なぜなら市場は失敗するからです。

日本にはスターバックスができるまで禁煙の喫茶店というものは皆無でした。スターバックスはあっという間に日本で大人気になりましたが、それまで「禁煙の店に行きたい!」という非喫煙者のニーズは完全に市場から無視されていたのです。市場が必ずしも良い働きをするとは限りません。もし欧米で反喫煙の動きが無ければ、そうした市場は永遠に開拓されなかったかもしれません。

またタバコのように依存性がある事柄は、自由放任主義に馴染みません。なぜなら人間はそうしたものに対して必ずしも合理的な判断を下せるとは限らないからです。タバコなどの麻薬類や賭博などに関しては規制が正当化されると思います。

しかしながらタバコやアルコールの全面禁止という政策がうまく行くはずはありません。そうすれば禁止をかいくぐる人がでるでしょうし、自分に害を与える行為であっても完全に禁止するのは行き過ぎたパターナリズム(父権主義)であると考えます。重い課税などによって対処をしていくのが穏当であると考えます。

** 博愛

自由な経済や自由な社会を作るということは、社会のあちこちで競争が生じるということです。経済や労働の面だけではなく、恋愛や結婚、学習や文化活動などあらゆる点において競争が生じます。

競争それ自体は素晴らしいことですが、競争に負けた人を救う仕組みが必要です。

全ての国民がなんとか衣食住を得て、教育を受け、基本的な医療を受け、子供を養っていける最低限の社会保障は守らねばなりません。人々が生まれによって可能性が閉ざされることが無いように最大限の配慮をするべきです。

また、社会が競争のメリットを得るためには、不正な競争、不公正な社会慣行や不公正な取引から人々を守る必要があります。年齢や性別によって雇用差別が行われたり、国籍や人種によって住宅が借りられなかったりするような問題に対しては厳正な対処が必要です。

日本人は高い勤勉さや道徳心を持ち、世界中で高く評価されています。しかし日本は自殺率も高く、幸福度もGDPから見て十分に高いとは言えません。それには、寛容さや多様性の低さが理由の一つではないかと考えます。

人を単一の尺度で測り、上下関係や社会慣行によって縛ることが、人々の社会適応を難しくしており、それが不幸、不効率をもたらしている可能性があります。

強固な上下関係にもとづく長期間労働は国民の不幸や精神状態の悪化をもたらしているでしょうし、上下関係にもとづく自由な発想や闊達な議論の阻害は、経済的不効率をもたらすでしょう。

また寛容性の無い社会では、国際化やイノベーションの恩恵を受けにくくなります。多様性と寛容さを持った社会作りをしていくことが望まれます。

** 理性

いまの政治を悪くしている最大の原因は、政治においては人々が理性的に行動しないからです。

多くの人は、具体的なテーマであり、かつ自分の仕事などの経験も知識もあり真剣に取り組んでいることであれば、理性的に考えれば、それなりに良い答えを見つけることができます。

ビジネスのような分野では、多くの人が切磋琢磨して、結果的に競争によって、良い事業だけが残ります。そのために我々はすぐれた製品やサービスを享受することができます。

しかし政治においては、主権者である国民は政治について詳しい情報も持っておらず、真剣に取り組んでいるわけでもありません。さらに意思判断を行うべき対象は、多数の人の価値観や利害が絡み合う難しい事柄ばかりです。

そして新聞やテレビなどのメディアは速報性を重視しますので、物事のもつ多面性や複雑さを無視する傾向にあります。

そのためどうしても感覚的、感情的な意思判断を行うことになり、選挙や世論は必ずしも良い決定をもたらしません。

私たちは、社会科学と自然科学の知見を活用し、情報公開と透明性を旨として、感情にながされない論理的で冷静な政治を行います。とくに経済的合理性を大切にして政策を行います。

* 行動規範

** 保守主義の原則

「ものごとがそうなっているのは、そうなったからだ」(コンサルタントの秘密、G・M・ワインバーグ著、63ページより)という原理を尊重します。

すなわち、今の社会の在り方というものは、これまでの人々の在り方や努力の結果としてここにあるものです。そこに良くない点があったとしても、それはそれなりの経緯をへてそのようになっているということです。

むやみに今の社会の在り方を否定して、闇雲に改革に走るべきではありません。

なぜ今の社会がこうであるのかを真摯に見つめて、安全に少しずつ変革を行い、それによって損失を被る人を尊重しながら進めていきます。

小さな変革であってもリスクが少なくメリットの大きいものを、大げさな改革より優先します。

どうせ抵抗する人がいる以上、そんなにすぐに変化を起こすことなんかできっこないのですから。他人のやり方を強制的に変えさせることはできないし、他人にやりたくないことをさせることもできないのです。(コンサルタントの秘密、G・M・ワインバーグ著、166~170ページ)

私たちは理想よりも現実と実利をつねに大切にします。

** 党派主義からの脱却

理想よりも現実を大切にすべきだといっても、票を取るために嘘をついたり、世論におもねって間違った政策を実行したり、意味も無く他の政党を攻撃したりすることは、国民を裏切る行為です。

私たちは、得票数や支持者を増やすことにこだわりません。

私たちの目標は議席を取ることではなく、日本や世界をより良い場所に変えることです。

誰が言ったことであれ、良いことには賛成するし、悪いことには反対します。

** 情報公開の原則

今の日本の問題点の一つは、政府による分かりやすい説明がないことです。現状の情報公開の体制・手法は、分かりにくく、問題の全貌を理解するに足るものではありません。

私たちは可能な限り、全ての情報をわかりやすく公開します。とくに「何が問題なのか」「なぜこのように考えるのか」「どういう手が考えられるのか」などを重視して公開します。

世の中の問題について、マスメディアよりも深く多面的に掘り下げた分析を公開します。

例えば、福岡空港のアップグレード検討プロジェクトなどは良い情報公開を行っていたと考えます。「なぜアップグレードが必要なのか」「どのような手法が考えられるか」などといったことを分かりやすく公開し、現空港の増設案が決定されました。


2012年8月14日火曜日

PBKDF2によるパスワード暗号化の手順

会員制ウェブサイトのように、ユーザからのパスワードを保存するシステムでは、必ずパスワードを暗号化して復元できないようにして保存しなければなりません。なぜなら、もし情報漏洩が起こったときにユーザのパスワードが漏洩してしまったら、他のウェブサイトなどへも侵入され、致命的な結果につながりえるからです。

もしあなたが技術者でなくても、技術者や外注先にたいしてパスワードの暗号化保存を要件に入れるべきです。そのときはこの記事をお見せください。

(もちろん全てのウェブサイトで使うパスワードを変えるのが望ましいでしょうし、もし可能ならパスワードに頼らないハードウェアトークンによる認証などの強力な仕組みを採用するのが良いのでしょうが、現状では皆がそこまでできていないのが現実かと思います。)

これまでですと、パスワード保存にはSHA1やMD5のハッシュ関数の適用などによって暗号化していることが多かったかと思います。しかし、いまどきではSHA1関数などは一瞬で計算が終わってしまいますので、総当たり攻撃をされると弱いという問題があります。

それを多少なりとも改善するのがPBKDF2によるパスワード暗号化手法です。

PBKDF2はパスワードから暗号鍵を導出するための関数ですが、SHAなどのハッシュ関数(HMAC)を繰り返し何千回もかけることにより、総当たり攻撃に時間がかかるようにしています。

PBKDF2はOpenSSL 1.0.0以降から実装されましたので、簡単に利用することができます。以下はRuby 1.8.7でのコードですが、他の言語でもOpenSSLを使えば簡単に利用できるかと思います。[1]

require 'openssl'
key = "hogehogehogehoge" # 秘密の文字列
user.salt = OpenSSL::Random.random_bytes(16).unpack('h*')[0]
user.iteration = 10000
user.hashed_password = OpenSSL::PKCS5.pbkdf2_hmac(password,user.salt+key,user.iteration,16,"sha256").unpack("h*")[0]
user.save

この10000という数字が繰り返し回数ですので、これを増やすことによって安全性を高めることができます。この数をユーザーごとにデータベースに保存しておけば、途中で繰り返し回数を高めて安全性を強化することもできますね。

saltというのは、ユーザーごとにランダムの文字列をパスワードに加えることで、ユーザーごとに暗号化結果が異なるようにし、総当たりをやりにくくするとともに、推測をしにくくします。これはデータベースに保存しておかないと認証できなくなってしまいます。

keyというのは、saltに秘密情報を付加しておくことで、データベースだけが流出した場合に、鍵を総当たりしにくくするための付加鍵です。これは私の思いつきなので、意味があるかどうかよく分かりません。

PBKDF2は、他にもAESなどの暗号鍵をパスワードから導出したりすることにも利用することができます。[2]

弱点としては、こうした計算量に依存するものは、クラウドやハードウェアの力によってかなりのスピードで破ることができてしまうことがあります。[2]

計算速度が命なので、同じような関数をRubyやJavaやPHPなどで独自実装することは避けるべきだと思います。Cで記述されたOpenSSLのような高速な実装を使わないと、すぐに破られてしまうでしょう。

また、PBKDF2関数を単に2回適用することで繰り返し回数を単純に増やすのと同じ結果を得ることはできないようですので、既存のパスワードを定期的に強化していくのは難しいのかなあと思いました。(このへん方法があれば知りたいです)

パスワードに依存しない認証方式がもっと普及すればいいんでしょうが、一向に普及する兆しもないですね。OpenIDといっても、結局は他の同種のサイトに依存してるだけですし。

参考:
  1. パスワードのハッシュに使うべきPBKDF2、Bcrypt、HMACの各言語実装一覧 - Dマイナー志向
  2. PBKDF2 - Wikipedia, the free encyclopedia

2012年7月21日土曜日

IBM BlueGene/Qのセミナーを受けてきたよ


IBM東京本社で行われたBlueGene/Qのセミナーを受けてきました。ブロガー向けセミナーということで、IBMの顧客でもなんでもない私がセミナーを受けてきました。2時間超にわたるセミナーの全貌を紹介するわけにはいきませんので、いくつかポイントを記しておきたいと思います。

BlueGene/QはIBMが開発したスーパーコンピューター(HPC)です。

HPCは、通常のコンピュータでは行えないような大規模な科学計算を行うことを目的に作られたコンピュータです。流体力学など、複雑な非線形現象のシミュレーションに主に使われます。計算科学という、理論、実験に続く、第三の研究手法を実現しています。

BlueGene/Qを使ったSequoiaという米ローレンス・リバモア研究所のHPCが、日本の富士通による"京"から世界最高速の座を奪取したことで話題になりました。BlueGene/Qは、他にも多くの顧客に導入されており、HPCのTop20に数多く食い込んでいます。

BlueGene/Qの特徴は、低消費電力(他機種にくらべ、2倍を超える電力効率)、省スペース("京"にくらべ、1ラック当たりの性能が17倍)であることです。

なぜ低消費電力と省スペース性が重要になるかというと、現在のHPCは、とてつもなく巨大で電力をバカ食いするようになっており、それが性能を頭打ちにする限界になっているからです。

電力を食えば、熱を出すので、その熱をうまく排出しなければなりません。スペースを食えば、それだけ長い距離の配線をせねばならず、配線だけでも大変なことになります。

日本の"京"は、たしかに高性能なのですが、BlueGene/Qに比べると電力効率やスペース効率で劣るために、巨大な体育館のような専用の建物を必要としています。これでは、普通の研究所などに導入することができません。

"京"は、「2位じゃダメなんですか?」という言葉で有名になりましたが、世界最高速のHPCを作ること自体は、科学的、産業的にはあまり重要な意味の無いことです。HPCは科学に使われて初めて意味をなします。研究所などに導入しやすいBlueGene/Qのようなシステムを作って、多くの大学や研究所に導入して誰でも使えるようにすることこそ意味があることです。その点では、BlueGene/Qの導入実績を見れば大成功といえます。

IBMの説明によると、"京"も、電力効率で、他の通常のx86+GPUベースのHPCに比べると優れているということです。しかしBlueGene/Qの圧倒的な効率の前には、それもかすんでしまいます。

IBMはBlueGeneシリーズを10年以上前から研究しており、一貫して低消費電力にフォーカスしてHPCを開発してきたということです。組み込み用のPowerPCプロセッサを低電圧、低周波数で動かすことで、高いワット当たり性能を確保しています。

また組み込み用プロセッサをSoCとして、通信回路など全ての回路を一つのチップにまとめています。外部に必要なのはDRAMだけです。それと水冷機構を使うことで、驚くべき高密度実装を可能にしています。ラック当たり16,384コアという驚異の密度です。

そのため、計算機室にサーバラックを4つか5つならべれば、世界最高クラス(ペタフロップス級)のHPCが手に入るという寸法です。水冷なので、工事などはちと面倒かもしれませんが?

BlueGene/Qも、その他のHPCと同じようにLinux+MPIという並列プログラミング環境による標準的なコードを動かすことができるそうです。一つのプロセッサあたり16コアを含み、64スレッド並列で動かすことができます。各コアとメモリはクロスバーで接続されSMPとして動作します。(Intelがクロスバーを諦めてNUMAにしているのとは対称的ですね。なぜ設計思想が違うんだろう?)

IBMでは、BlueGene/Qの他にも、x86ベースのHPC、Power7ベースのHPCを販売しています。顧客によって、スレッド当たりの性能や、I/O性能などのニーズが異なるため、多様なラインアップとしているそうです。

今後しばらくハイエンドのHPCはBlueGene/Qの独壇場となるでしょう。100年以上前からコンピューティングの最先端に居続けるIBMという企業の実力は驚くべきですね。我々ウェブデベロッパには全くご縁が無い企業ではありますが・・・

IBMもPower 7を使った大型HPCプロジェクトのBlue Watersの開発に失敗し、プロジェクトから撤退していたりするので、もちろん彼らも万能というわけではありませんが。

"京"はそもそも完成した計算機の性能で一位を目指すのではなく、製品自体の効率や売上で一位を目指すべきでしたね。

参考記事:

2012年7月20日金曜日

A/BテストツールのOptimizelyを使ってみた


Optimizelyは、ウェブサイトのA/Bテストを行うための洗練されたソフトウェアです。

A/Bテストとは、ダイレクトマーケティングでは昔から使われてきた手法で、顧客に対して2種類のダイレクトメールなどを行って、反応が良いものを選び出す、実験の手法です。

これによって、マーケティングのような感覚的な分野においても、データをもとに改善を積み重ねる経営を行うことができるようになります。

最近では、ウェブサイトにおいても顧客にN通りのパターンを見せて、どれが購買に結びつくかなどのA/Bテストを行うことが増えてきました。

A/Bテストツールには色々なものがあり、Google Analyticsなど無料のものもあります。

その中で、Optimizelyは有料ですが、使いやすさに特化されており、話題を集めています。

Optimizelyを使ってA/Bテストを行う場合、HTMLエディタを使ってWYSIWYGで変更内容を編集する方法と、Javascriptを自力で書く方法があります。

静的コンテンツであれば、HTMLエディタで簡単に編集することができますので、プログラマ不要でA/Bテストを行うことができます。

動的コンテンツは、自力で変更案を適用するJavascriptを書かなければなりません。それでも結果測定、集計や統計検証などは自動で行ってくれ、美しいグラフも書いてくれるので、それなりに役に立ちます。

実際に弊社でもちょっとした文字の変更などを試してみたのですが、クリック率の0.7%改善という結果が得られました。しかし、もっと大幅な改善を期待する場合には、変更案を考えるのがなかなか大変だなー、と思いました。

円高の昨今ですから、月79ドルの利用料は高いものではありませんが、月間20,000ページビューを超えると1,000ページビューあたり7ドルという高額の追加料金を取られるので、それは結構問題です。

Google Analyticsなら無料で使えますから、そちらの機能で満足できる人は、あえてOptimizelyを使うまでもないでしょうね。でもたぶんGoogle Analyticsのウェブテスト機能では物足りないし、サポートも足りないので使い物にならないと思いますけど。

今の時代、A/Bテストを使ってウェブサイト反応率を改善していくのは常識になりつつあります。われわれウェブ業界人はA/Bテストツールの一つや二つは使えるようになっておく必要があるのではないでしょうか。

2012年7月12日木曜日

Amazon DynamoDBがウェブのインフラを塗り替える

Amazon Web Services (AWS)は、すごい勢いで機能を増やしており、いわゆるクラウド業界の中で圧倒的な存在感を示しています。AWS = クラウドと言っても過言では無いでしょう。

AWSは、他のレンタルサーバーやホスティングと比べたり、自社でデータセンターを借りるのに比べると、だいぶ割高な設定になっています。しかし、その機能は他のサービスを圧倒しています。

AWSがすごいのは、分散ストレージであるS3などの分散システムを管理不要で提供していることです。

分散システムには、耐障害性、性能(スケーラビリティ)などの点で大きなメリットがありますが、実際に分散システムを管理運用するのはとても面倒で煩雑な作業になります。弊社でも分散ストレージを自社開発運用していますが、かなりややこしく、可能な限りやりたくない作業です・・・

とくに分散システムのソフトウェア開発者と、分散システムの管理運用者が異なる場合には、ハードウェアとの相性や、ソフトウェアの細かい癖、ソフトウェアのバグなどを克服してうまく分散システムを運用するのは至難の業となります。

そのため、弊社では、わざわざ自前で分散ストレージのソフトウェアを自社開発しています。機能が少ない簡易的な自社製品の方が、機能が多くて挙動が完全に把握できない他人の作品よりもマシだからです。

その点で、自前でソフトウェアを開発し、サービスを自前で運用しているAmazon Web Servicesは、分散システムの理想型と言えます。これができる企業は、世界でも多くはないでしょう。

Amazonのさらなる強みは、Salesforceのようなエンタープライズ業界の企業と違って、ずっとセンスの良いAPIや使い勝手の良いUIや分かりやすいドキュメントを提供していることです。


さて、本題に移ります。

先日登場したAmazon DynamoDB (分散NoSQLデータベース)には私も強い興味を抱いており、このたびAmazonが開催したDynamoDBセミナーに参加してきました。そこから得たDynamoDBの情報と印象をお伝えしたいと思います。

私はMongoDBなどの既存のNoSQLには極めて懐疑的な見方をしていました。先述のように、分散システムを運用し、期待通りの性能を安定してたたき出すにはかなりの苦労が伴います。それを考えると、どうしても極めて高いスケーラビリティの必要なソーシャルゲーム業界など以外では有用性はないだろうと考えていました。

しかしDynamoDBは違います。テーブルを作成し、必要なスループット(毎秒の読み書き数)を設定するだけで、勝手に分散データベースを自動で作成・運用してくれます。スループットはリアルタイムに変化させることも可能です。これなら何の苦労もなく分散データベースを運用することができます。

DynamoDBの特徴は、極めて簡単な運用、驚愕のスケーラビリティ(高い書き込みスループット)、高可用性の3つです。スケーラビリティは驚くほどで、最高で、秒間200万リクエストの実績があるそうです。データは自動的にリージョン内の3つのデータセンターにレプリケーションされ、高い可用性を誇ります。

DynamoDBの弱点は、現時点では機能がめちゃくちゃ限られていることです。複雑なクエリはもちろんのこと、テーブルにプライマリキー以外のインデックスを貼ったり、バックアップを取ったりする機能すら標準では備わっていません。なんとデータ型も、整数と文字列とそれらの集合の4種類しかありません。

複雑なクエリを実行したり、バックアップを取ったりするためには、Elastic Map Reduce (Hadoop)を利用して、Hiveというクエリマネージャを使ってクエリを実行する必要があります。これははっきりいってややこしいです。

しかしワークショップに参加して、実際にコーディングをして使ってみて思ったのは、実際には意外と色んな用途に使いやすいかもしれないということです。

EC2から同リージョンのDynamoDBにアクセスする場合、レイテンシは極めて短く、データも高速に転送されます。そのため、誇張気味に言うと、ローカルにあるファイルのような感覚で扱うことができます。これなら、小規模システムの場合は、インデックスなど使わずとも、フルスキャンを多用しちゃってもいいのかな、と思いました。

かなり曲者で使いこなしが難しい印象のDynamoDBですが、既にかなり導入実績があり、どんどん売上が伸びているそうです。ソーシャルゲームなどの業界にとっては福音と言えるのでしょう。

将来的に、二次インデックスがサポートされ、データ型もいろいろと実装されてきて、複雑なクエリをうまく実行できるライブラリなどがでると、ソーシャルゲーム業界に限らず、一般のシステムも一部はこれで置き換えられていくのではないかなと思います。RDBMSの運用はいささか面倒ですからね。

EC2, S3, DynamoDB, Cloudfrontの登場によって、スケーラビリティや高可用性を実現するということはお金さえ払えば誰にでもできる仕事になってしまったな、という印象です。

弊社としても、今後はAWSの使いこなしに力を入れていこうと考える次第です。


ところで、Amazonワークショップ内で、2時間で「並列的にニコニコ動画のタグをクロールして集計するスクリプト」を書いたので、おまけとして以下に乗せておきます。DynamoDBの並列性を確保する機能であるConditional PutとAtomic Counterを活用することで、簡潔に並列集計を実現しています。

require 'uri'
require 'net/http'
require 'kconv'
require 'rexml/document'
require 'rubygems'
require 'aws-sdk'

AWS.config({
  :access_key_id => "",
  :secret_access_key => ""
})

dynamo_db = AWS::DynamoDB.new(:dynamo_db_endpoint => "dynamodb.ap-northeast-1.amazonaws.com")
videos = dynamo_db.tables["nicovideo_videos"]
videos.load_schema
tags = dynamo_db.tables["nicovideo_tags"]
tags.load_schema

# タグ収集、カウント

loop {
  vid = (rand * 17392999).to_i
  video_id = "sm#{vid}"

  puts video_id
  begin
    url = URI.parse("http://ext.nicovideo.jp/api/getthumbinfo/#{video_id}")
    http = Net::HTTP.new(url.host, url.port)
    result = http.get(url.path)

    xml = REXML::Document.new(result.body)

    next unless xml.elements['//title']

    title = xml.elements['//title'].text
    puts title
    videos.items.put({"video_id" => video_id, "title" => title},{:unless_exists => "video_id"})

    xml.elements.each('//tag') { |tag|
      tag_name = tag.text
      puts tag_name
      t = tags.items.put({"tag_name" => tag_name, "count" => 1}, {:unless_exists => "tag_name"}) rescue nil
      unless t
        t = tags.items.at(tag_name)
        t.attributes.add({"count" => 1})
      end
    }
    puts "\n\n"
  rescue Exception => e
    p e
  end
}

# 集計

rank = {}

tags.items.select { |tag|
  count = tag.attributes['count'].to_i
  tag_name = tag.attributes['tag_name']
#  puts "#{count}: #{tag_name}"
  rank[count] ||= []
  rank[count] << tag_name
}

rank.keys.sort[-10..-1].reverse.each_with_index { |count, i|
  puts "#{count}件: #{rank[count]}"
}

2012年6月25日月曜日

ファーストサーバの事故から考えること

つい先日、ファーストサーバというホスティング企業が多数の顧客の全データを喪失するという前代未聞の事故が起こりました。

twitterやfacebookでは技術者や弁護士など、様々な方々が色んな観点からの議論を始めています。

私としても、今回の事故から得られた教訓と、弊社でのデータ保全の取り組みについてお話ししたいと思います。


大規模障害の概要と原因について(中間報告) ファーストサーバ サポートWEB

こちらに中間報告があがっていますが、オペレーションミスによりサーバの削除タスクをバックアップ環境を含めた全サーバに対して適応してしまったという前代未聞の事故です。

動的にサーバのプロビジョニング(構成管理)を行う場合には、バグやオペミスによりデータを誤って消してしまうということは考えられますので、その点では作業手順やプログラムの安全品質については厳重な管理が必要と考えられます。

本質的な原因としては、このファーストサーバでは、ある時間の静的なバックアップ(スナップショット)を保存しておらず、そのために本番環境でのオペミスがバックアップまで波及してしまったということが言えます。

ホスティング企業では、膨大な顧客データを保持しており、銀行などのシステムに比べれば圧倒的に割安な価格でストレージ環境を顧客に提供していると考えられます。そのため、膨大なデータのスナップショットを取得するようなストレージ環境が用意できなかったことは原因の一つかと考えられます。

きしだなおきさんとも話したのですが、致命的ミスと言えるのは、待機系(スタンバイ)サーバと、バックアップを混同してしまっていたことだと考えられます。

待機系サーバというのは、あるサーバが故障で動かなくなったさいに代わりに立ち上げるサーバであり、そのデータは常に本番環境と同じデータを保持している必要があります。そのため、本番環境で行われたオペミスなどは待機系サーバにも波及してしまいます。

それに対し、バックアップというのは、基本的には「ある時点のデータ」を保存して、オペミスを含むデータ損失事故を防ぐというものです。

これはIT技術者にとって基本的知識だと思われますが、その点の配慮が無かったことが最大の敗因でしょう。


弊社では、データベースは毎日スナップショットを取得しており、データベース以外のファイルについてはバックアップでの上書きや物理削除を禁止する運用によって、データ損失事故を防ぐという思想で運用しております。

この思想により、今回のようなオペミス一回でデータ損失という事態は発生しないようになっております。

また、常時スタンバイサーバへのデータベースのレプリケーション(複製)を行っており、サーバ故障時には、バックアップ時点から更新されたデータについてもデータ損失を防ぐようになっております。

今回の事故の報に接し、大変に身の引き締まる思いであり、弊社としても、より一層のデータ保全への取り組みや投資を強化して行く所存です。

追記:

向井さんの見解として、まさかデータを消すような操作とは思わないから一気に全部のサーバに更新を適用しちゃったんじゃないの? という見解がありました。そうなってくると昔ながらのテープバックアップなども再導入を検討するべきなのかもしれませんね。テープドライブが急に売れ出すという事態があるかもしれません。

再追記:

ちなみに私はファーストサーバ社を批難する意図でこの記事を書いているわけではありません。どんなシステムも100%のデータ保全性を保証することはできません。スナップショットを取る、テープにバックアップする、といったことはコストに大きく跳ね返ってくる選択肢です。

ファーストサーバ社がどれだけのデータ保全性を謳っていたのか分かりませんが、Amazon EC2であればAmazon EBSのデータは保全性が低いことが前提であり、顧客の判断でAmazon S3にスナップショットを取ることになっています。もちろん、そのスナップショットの保存は有料です。Amazon S3では低保全性モードでは、料金が安くなります。

サービス提供企業にとってデータ保全は事業継続性の上で非常に重要な問題ですが、利用者としてもホスティングというサービスが必ずしも高いデータ保全を目的として運用されるものではないこと、自社のデータについて最終的に責任を負えるのは自社しかいないことは考慮すべきであると思います。

2012年6月23日土曜日

メイシーにSalesforce連携機能がつきました!

弊社の超簡単名刺管理サービス「メイシー」にSalesforceとの連携機能がつきました。

ワンクリックでSalesforceに名刺データをインポートすることが可能です。

Salesforceを活用するのに、いちいち顧客情報を入力するのは面倒であり、営業社員の貴重な時間をとるのは無駄ですよね。そのために名刺入力コストの安いメイシーをぜひご活用ください。

引き合いが多ければ、取り込んだ名刺の自動でのインポート機能なども開発していきますので、ぜひ弊社営業担当までお気軽にお問い合わせください!

メイシーは、名刺をスキャンしたり、名刺を宅急便で送るだけで、人間のチェックを経てデータベース化して、オンラインで利用できるようになるという弊社の名刺管理ツールです!

ぜひこの機会にご利用くださいませ。

2012年6月18日月曜日

起業という幻想 - アメリカンドリームの現実

この本は、平均的な起業家は、いかに華やかなものとはかけ離れており、泥臭い敗残者達であるかを描き出した本です。

起業家の多くは、転職を繰り返し、そのあげくに失業し、小さな会社を立ち上げて自営業とはなるものの、その会社も永遠に成長することがなく、ほとんどが自分一人だけの事業のまま終わる。という起業の現実を描き出しています。

本書では、起業というものは基本的に、仕事の無い人が、なんとか仕事を作り出そうとする試みであり、仕事が無いところ(田舎や発展途上国)でこそ起こるということを示しています。そうした人々はサービス業や建設業など自分の働いていた業界において、少ない資本で起業します。そして、その結果はあまり芳しくなく、大企業で働くよりも少ない成果しかもたらしません。


本書の問題点は、全編が「既存の○○という考え方は間違っている」という形で記述されており、むやみに既存の「幻想」なるものを攻撃するばかりの書き方である点です。少なくとも日本においては、起業なるものにそんな素晴らしい幻想を抱いている人は滅多にいないと思うので、著者の攻撃的な姿勢には鼻白むばかりです。

また著者はしばしば統計的事実をむやみに一般化して全てのケースに適用しようとしています。

さらに最も大きな問題は、意図的に「ベンチャー起業家」と「自営業者」を混同し、ベンチャー起業家への期待を自営業者の低パフォーマンスという証拠で否定するというミスリーディングな論調です。この本で述べていることは「自営業者」に関することばかりであり、ベンチャー論はほとんどありません。


それでも、本書はいくつかの重大な示唆を与えてくれます。

まず一つは、転職を繰り返したりしたあげく、あてもないのに起業するのは極めて危険だということです。無能な人が無能であるがゆえに起業するというのは、(当たり前ですが)危険です。自分の貯金を投じて、低い収入に甘んじたあげく、倒産して最後に残るのは借金だけという結果に終わります。若いうちならともかく、年を取ってそういうことをするのは、まさに致命的かもしれません。

日本における常識人の認識としては、起業家とは無職の一類型であるというものですが、まあ、それは当たらずとも遠からずなのでしょう。

もう一つは、もし起業するなら「起業に適した産業を選ぶ」「チームで起業する」「株式会社を作る」「ビジネスプランを策定する」「資本を多く調達する」「頑張って事業を長く存続させる」「大学院を出てから起業する」などをすることで成功の確率を高めることができるということです。スタンフォード大学院を出て、シリコンバレーでベンチャーキャピタルから投資を受けてITスタートアップを立ち上げるほうが、どっかの田舎町で美容院や建設業を立ち上げるよりも良いということです。

また、この本を読むことを通じて、自営業者とベンチャー企業の違いを感じとることが出来ます。


私のように無能な起業家の一員としては、こうした本を読むのは本当に不愉快極まりない体験なのですが、これから起業しようとする人は読んでおいても良い一冊です。

たいして優れた本では無いので、起業と関係の無い人はわざわざ読む必要はないでしょう。


ところで、本書の著者は、零細起業家はろくでもない無職もどきなので補助金などを投じるべきではないと言っています。

その意見について、私は半分賛成でもあり、半分反対でもあります。

既に職がある人に補助金を与えて起業させる試みは危険であると思います。起業とは失敗することが大半なのですから、わざわざ有職者を道に迷わせる必要はありません。

しかし世の中には私を含め、既存の社会や会社には適応できず、自営業として何とか生き延びている零細・弱者が大勢居ます。そうした人の存在を無視するべきではないとも思います。

たとえばコンサルタントの栢野克己氏などは「弱者」「零細」「社長」「人生逆転」に特化したコンサルティング・講演などを専門にされています。

現実の多くの起業は泥臭いものなのですから、TechCrunchのような華やかなストーリーよりも、栢野克己、竹田陽一神田昌典などのような弱者向けの本こそが多くの人の役に立つのだと思います。

ま、補助金がそうした弱者救済の役に立つかどうかはさておき、社会には華やかな成功者だけでなく、底辺で泥水をすすって生きている大勢の人がいるのだ、ということを忘れないでもらいたいものです。

「起業という幻想」の著者が、そのような弱者たちの苦闘を小馬鹿にする姿勢でなければ、もっとずっと良い本が書けたと思うのですが・・・

「出馬してみた」の時代へ

私は、先日行われた第二回ニコニコ学会βにて、セッション「イノベーションと社会規範」の座長を務めました。

当セッションではWinny事件の最高裁での無罪判決を受けて、Winny開発者の金子勇さま、メタ・アソシエイツ代表の高間剛典さま、法学者で法政大学准教授の白田秀彰さま、経済学者で駒澤大学准教授の飯田泰之さまをお招きしてパネルディスカッションを行いました。

セッションの内容についてはCNET Japanの記事「悪い面だけ注目してもろくなことがない--Winny事件から見た社会規範」が良くまとめられていますので、こちらをご参照ください。

セッションでは、過度に批判的な「世論」が社会を抑圧的にしている問題点としてあげられました。その対応策としては、もっと個人が気軽に政治参加をしてみることが一つの方策としてあげられました。


白田氏が提案されたのは「出馬してみた」です。

いまの公職選挙ではネット上での選挙運動など、様々な選挙運動の方法が禁止されています。また供託金の金額も高いために気軽に立候補することができなくなっています。そこでネット上で仮想の出馬をして、実際の選挙と同じ時間軸で選挙戦を戦い、どれくらい得票できるかやってみるという方法です。

政治上でも消費者参加型コンテンツが増えて行くことは面白いかもしれません。「政策議論のプラットフォーム」などと大上段に構えると疲れてしまいますが、「出馬してみた」が簡単にできてしまうプラットフォームなら面白く参加できるかもしれませんね。やりっぱなし、言いっ放しでいいんじゃないかと思います。極端に他人を不快にさせるような人が登場した場合、どのように規制するかという問題はありますが、まあ、突っ込みどころ満載の偏った場所になってしまっても、それはそれで一つの結果です。


私としても、色々な政治運動、社会活動をみなが気軽にやっていくことが社会をよくしていくと考えます。

Winny事件ではウェブサイトと寄付金口座を作るだけという「支援してみた」程度の支援で1500万円を集めて最高裁での勝利に結びつけることができました。

また医薬品ネット販売規制でも、一中小企業であるケンコーコムが高裁において勝利を得ました。

著作権法改正での「ダウンロード犯罪化」については津田大介氏らMiauの面々が議員に働きかけて、議論無しで国会に提出されるという最悪の事態を防ごうとしました。残念ながら今回は負けてしまいましたが、津田氏らの動きには、議員たちから一定の反応が得られています。

日本では一個人の力は無力であるかのようなことを言う人が多くいますが、実際にはこれだけ多くのことがなしとげられているのです。一人一人が声を上げて動くことが、これからの日本には大切だろうと思います。ぜひ皆さんが少しずつでも政治を自分のものと考えて動いてくれれば良いな、と思います。

実際に政策について「本当にこれを実施したらどうなるだろう」ということを深く考えることで、単なる批判者、傍観者として政策について考えるよりも、ずっと深い理解をできるようになるのではないかと思います。

まず隗より始めよということで、私も自分の時間の2~3割くらいは政治社会活動に使おうと考えています。ちょっとした政治活動が社会を変えていくということが見えてくれば良いなと思います。このブログにも社会の話題が増えるかもしれませんが、ご了承くださいませ。

2012年6月3日日曜日

CourseraでStanfordの授業をオンラインで無料で受ける


スタンフォードの授業が無料で受けられるCourseraというサイトが登場してるのをご存じですか?

これはMIT Open Coursewareのように教材が投げっぱなしで置いてあるというものではなく、予め決められた期間にコースが設定され、ビデオ授業・小テスト・課題の組み合わせによって、きちんとペースとモチベーションを保って学ぶことができるという仕組みです。

きちんとテストや課題をこなしていれば、最後にはPDFで修了証書がもらえます。これもちょっと嬉しい仕掛けです。

授業は数週間のコースで終わるように作られており、基本的には教科書などを買わなくてもついて行けるような作りになっています。

フォーラムが用意され、一緒に学んでいる学生たちと交流することができるので、分からないところを質問したりすることができます。プログラミングの課題ではテストケースを提供してくれる学生がおり、とても役立ちました。

アルゴリズムの授業(Algorithms: Design and Analysis, Part I)機械学習(Machine Learning)の授業を受けましたが、どちらもとても面白い授業でした。数学が苦手な人であっても、計算機科学の要素を学べるように工夫されています。アメリカの一流の教授というのはすごいな、と思いますね。こんな良質の授業は、そこらの大学ではなかなか受けられないのではないでしょうか。

プログラマであっても計算機科学の知識を持っていない方は多いと思いますので、そういう人にとってはぴったりの授業です。

6月11日より、アルゴリズムの授業の第二回が始まるようですので、是非とも受けてみてください。英語力がいまいちでも、字幕がでるので何とかなりますよ。もし何とかならなければ英語の学習が必要ですね・・・

今はスタンフォードの計算機科学のコースばかりですが、これからは他の大学から、医学、社会学など様々な分野の授業が登場する予定になっています。

私のように大学に行けなかった人間にとっては福音とも言えるサービスです。今後のさらなる発展に大いに期待したいものです。

同時に、大学に行って正規に学ぶことはとても大事だなと思わされました。大学に行ける機会がある人はぜひ大学に行ってしっかり学ぶべきでしょうね。

ですが、大学に行くにはお金も時間も体力も多く使います。21世紀の知識社会においては、誰もがずっと学び続ける必要があります。そうした社会の中では、こうしたオンラインコースの必要性は増す一方でしょう。18歳の若者よりも、社会経験を経た30歳の大人の方が、学べる知的能力もモチベーションも高いのではないでしょうか。

2012年5月31日木曜日

ビジネスアイデア100連発 (1)

ビジネスで大事なのは人でありアイデアじゃない、という人は大勢います。アイデアよりも、それをどう実現するかが大事だ、という人もいます。

確かに起業においてアイデアとは最も大事なものではないかもしれません。しかしダメなアイデアで起業したら、どうにも成功しようがないのも事実だと思います。

かといってアイデアを後生大事に抱え込むのも馬鹿馬鹿しい気がします。どうせアイデアなんてただの思いつきですからね。

そこでビジネスのアイデアというのはどんどん表に出していって、みんなでアイデアを交換し合って良い物に発展させたら、より良いものが生まれるのではないでしょうか。また、それを見て興味を持ってくれる人がいるかもしれません。

ビジネスのアイデアというのは、「これから起業しよう! で、なにをすればいいんだろう?」というときにポッと良いものが思いつくものでもないのです。アイデアとは普段からつねづね考えている人のところにやってくるものだとおもいます。

これから起業する人々や、起業家の皆様の発想を少しでも刺激することを期待して、私のアイデア集の中からアイデアを紹介していこうと思います。最終的には100個のアイデアが紹介できればよいのですが、そこまで発想が続くかどうか・・・

このアイデアで、もし本当に事業をしたい人がいればご自由にどうぞ。但し著者は一切の保証も責任も負いません。私も将来このアイデアを使って起業することもある、かもしれません。

これらが素晴らしいアイデアだなんて思っていないので、色々とご高評頂ければと思います。「こうすれば面白い」「ここが良い」「ここはこうだからダメじゃないか」などなど。

では、最初の5つのアイデアを紹介します!

(1) NPO法人 スギを切り倒せ

さて一発目から非営利事業で恐縮ですが、NPO法人の企画です。花粉症に苦しむ人から資金を募って、杉林を切り倒して、別の木を植林するという社会事業です。スギ花粉症をこの世から根絶するというアイデアにお金を出したい人もいるかと思います。オペレーションコストがかかりそうなので、それなりの募金が集まらないとまわらないのがきついですね。

(2) 複数人のビデオチャットによるお見合いサービス

出会い系サイトやらお見合いサービスやら色々なものがありますが、コストが高かったり、信頼性がなかったりするのが問題点です。知らない人といきなりやりとりしてくれ、と言われても困ってしまいますしね。

海外ではオンラインビデオデートのサイトなども出てきているようですが、知らない人といきなり一対一でビデオチャットというのも、かなりきついものがあるかと思われます。

そこで、モデレータ(社員)と一緒に複数人でビデオ会議をしたら良いのではないでしょうか。雰囲気をずっと真面目に安心感のあるものにすることができ、ニーズが高まるかと思います。コスト的にも、お見合いパーティと出会い系サイトの中間くらいで提供できるのではないでしょうか?

(3) 複数の女性をいちどにデリバリして選べるデリヘル

日本には性的サービスを提供するお店が山のようにありますが、そうした店が顧客満足をどれくらい提供できているか疑問があります。そうした店では、女性を写真で選ばなければならず、実際に来るまで、どのような人が来るのかあまりよく分からないという問題があります。

そこで、女性が複数人でお客さんのところに行って、その中から選べるようにすれば、顧客満足度は大いに高まるのではないでしょうか?

もしお客さんがある女性を気に入る率が40%しかなかったとしても、確率的独立性を仮定すれば、n人連れて行った場合の満足率は1-(1-0.4)^nとなり、3人連れて行けば78.4%の満足率を得ることができるわけです。これは圧倒的な優位性となります。なぜ採用されていないのか不思議なくらいです。

(4) タイ式かき氷のチェーン店

旅行ブログ「ひよことらべる」でも書きましたが、タイ式のかき氷は最高にうまいです。荒削りのかき氷にゼリーなどのトッピングを乗せ、そこにシロップとココナッツミルクをかけるというものですが、ほんと最高です。

米国西海岸では韓国発祥のフローズンヨーグルトのチェーン店(RedMangoなど)がすごく増えているそうです。バンコクや東南アジア各国でもよく見かけました。日本にもGoldenSpoonといった店がありますね。

私が昔やっていたブログでは、だいぶ昔に「RedMangoを日本でやれば流行る!」と書いたのですが、残念ながら日本にはいまだに上陸していないですね。日本ではデザートのチェーン店は難しいのでしょうか?

次に狙えるのはタイ式かき氷ではないかと思います。飲食ビジネスのネタを探している方は是非! アメリカでタイ式かき氷を展開するのはどうでしょうか?

(5) お話マッチング

これもNPO的なネタです。

世の中に高齢者など孤独でしょうがないという人は山ほどいると思います。その一方で、仕事に困っている若者も大勢います。そこで、両者をマッチングさせて、時給制で若者などに高齢者とお話してもらうようにしたらどうでしょうか?

いや、こういうサービスはすでにありそうだな・・・ 検索してないですけどね。

2012年5月22日火曜日

ルポルタージュの魅力

日本には良いジャーナリズムが無いと嘆いていた最近の私ですが、書籍に目を向ければ、この数ヶ月の間に素晴らしいルポルタージュが沢山出版されていました。

「父・金正日と私 金正男独占告白」は、あの北朝鮮の金正男とインタビューすることに成功した日本人ジャーナリストによる著書です。空港で偶然出会って名刺を渡したことから始まるやりとりは、最初は警戒されつつも、徐々に本音を引き出すことに成功します。

150通のメールと、7時間のインタビューからなる本書では、金正男が良識有る常識的な人物であることを描き出すとともに、北朝鮮はもはや指導者層やその近くに居る人間であっても制御不能になってしまっていることを伺わせます。北朝鮮が改革・開放に舵を切る日はいつ訪れるのでしょうか?

韓国語が堪能な著者が、単身切り込んで世界的なスクープを獲得した迫力が本著の最大の魅力でしょう。「いま出版されると立場がまずい」という金正男氏を押し切って出版された本書は、ジャーナリズムの持つ非情な側面も伺わせます。本著が正男氏の立場を悪くしないことを切に願うばかりです。


「毒婦。木嶋佳苗100日裁判傍聴記」は、あの木嶋佳苗の裁判を、昔からネットで有名なフェミニストであった著者が傍聴したルポルタージュです。連載が話題になっていたそうで、実家の母もこの本の話をしていました。本屋で見かけたとき、何気なく立ち読みして、その迫力に思わず買ってしまいました。

著者は、この事件の背景を、おもに木嶋佳苗と被害者との関係性から描いていきます。フェミニストや女性の視点を交えながら、ときには揶揄するような軽い口調で、この奇怪な事件を解きほぐしていきます。この視点はとても成功しており、事件の全体像を男女関係という切り口からシンプルに説明することができています。

木嶋佳苗そのものは、単なる反社会性人格障害の連続殺人者であり、それほど興味のもてる対象とは思えませんでしたが、その周りにいる被害者たちとの不思議な関係性が少しもの悲しく、興味深いものでありました。


「ネットと愛国 在特会の「闇」を追いかけて」は、「在日特権を許さない市民の会」という最近目立っている排外主義運動のグループに深く切り込んで書き上げた力作です。

ネット右翼や在特会については、私も憂慮して見ていましたが、これまで良い書籍などがなく実態をつかめないままでいました。本書は、在特会という実体に対しジャーナリストとして肉薄して取材を重ねることで、もやもやしたネット右翼というものの一片を見えるようにした点で大きな意義があります。

本書では、在特会の会員や、それを取り巻く人々と、多くのインタビューを重ね、在特会はなぜ生まれたのかを探ろうとします。

週刊誌上がりのフリージャーナリストである著者は、まさに我々が日本のジャーナリストというと想像するような人物です。やたら熱く、フットワーク軽く取材をして、対象との距離をどんどん縮めていきます。こうした従来型のジャーナリズムがまだまだ活躍しており、素晴らしい本を書いていることに、とても勇気づけられました。日本のジャーナリズムというのも捨てたもんじゃ無いな、と思います。

ネット右翼といった危険な差別思想を生み出すことになったインターネット業界も真摯に反省し、対策を打っていく必要があるのではないでしょうか。Winny裁判の壇俊光弁護士が言うように、発信者情報開示請求を行いやすくする法整備をするなどの法改正も必要でしょう。匿名で何を言っても責任を問われないネット社会というのは、言論のあるべき姿ではないと思います。

この三冊はどれも素晴らしい書籍なので、ぜひ一度、書店で手に取ってみることをお勧めします。

2012年5月21日月曜日

バンコクでノマドライフを送る

ごぶさたしております。新井です。

三ヶ月のバンコク生活を終えて、先日、日本に帰って参りました。

バンコクはとても暮らしやすい街で、生活費も安いので、フリーランスの人のノマド滞在先にはぴったりではないでしょうか。フリーランス生活には、将来の展望が無いのですから、住みたいときに海外に住むくらいの役得がないときついかなと思います。

というわけで、バンコク滞在についてお話しします。

・バンコクの魅力

バンコクの魅力は、物価(とくにホテルなど)が安いこと、治安が良いこと、飲食店や買い物などの楽しみが充実していること、飯がうまいこと、人々が感じが良いこと、乾期(11月~4月)には気候が良いこと、あたりでしょうか。いままさに発展を続けている国の繁栄と力強さや、その中にも残る庶民の生活など、色々な側面を楽しむことができます。(雨期は雨ばかりなので、雨期の滞在は全くお勧めしません。)

・住まい

友人が管理人をしているシェアハウスの主寝室(専用バスルーム付き)を借りました。一月に12000バーツ(35000円くらい)で、プールとメイド付き。清潔で快適な部屋でした。

そうしたシェアハウスはcraigslistなどで入居者を募集しているようです。現地には日本人のやってる不動産屋なども多くありますので、部屋探しにはあまり困らないのではないでしょうか。

ホテルでも一泊3000円も出せば中心部の綺麗な部屋に泊まれますし、そこそこの部屋で良ければ1500円くらいでも十分にあるんじゃないかと思います。

・働く場所

スターバックス、トンロー店(ソイ11にある方)がお勧めです。空いていて、電源のある席が多いです。電源のある席は人気なので、電源タップを持って行くのをお勧めします。

バンコクにはやたらスタバが多いので、働く場所にはまず困らないと思います。

・インターネット

バンコクでは、インターネット接続の速度はまずまずです。日本や韓国のように超高速ではないですが、十分満足できるレベルだと思います。

i-mobile 3gxという3Gモバイル接続サービスは、100バーツで1GB使えるという安価な設定です。MBKというショッピングモールにいくと、3GモデムとSIMカードを買うことができます。あとはセブンイレブンでtop upカードを買って、こちらのページから残高追加することができます。

・食事

庶民的な食い物屋に行けば、一食30~40バーツくらいで食べられます。120円以下ですね。一食の量が少ないので、自然と痩せることができます。最初は足りないと感じますけど、すぐに慣れます。間食も充実してますしね。

・言葉

バンコク中心部ではだいたいどこでも英語が通じるので言葉で困ることもまずありません。現地ではタイ語のレッスンを受けていたのですが、あまり使う機会がないので上達しないまま帰国してしまいました。英語ができないのはタクシーの運ちゃんくらいですね。

・治安

バンコク中心部では治安は良いです。滞在中、治安の心配をしたことはありませんでした。

・交通

公共交通機関では到達出来ない場所が多いので、そういうところへはタクシーかバイクタクシーを使うことになります。バイクタクシーは便利なので、がんがん使ってしまいますが、交通安全の意識の無い国ですので、事故る確率は高いです。

・トイレ

駅にトイレがないので、トイレの近い人は、トイレ使える場所を憶えておくほうが良いと思います。ショッピングセンターがどんどん増えているので、昔より安心になりました。

・ビザ

観光ビザは3ヶ月有効です。日本人はビザ無しだと30日なので、長期滞在には観光ビザを取る必要があります。日本で取るとやたら必要書類が多いので、近隣諸国で取るのが良いでしょう。

本格的に移住するとなると、フリーランスでビザを取るのはなかなか難しそうです。何らかの会社を設立しないといけないでしょうね。バンコクには移民弁護士みたいな人が大勢居ますので、まずそういう人に相談するのが一番と思います。

日本企業は沢山あるので、そこで働くならビザは手に入れやすいと思いますが、給料は全く期待できませんし、外国企業や現地起業を含めても、先端的なITの企業は皆無です。

身分が保障されなくても良いのであれば、「ビザラン」という方法もあります。3ヶ月に一度出国し、観光ビザを取り直して戻ってくるという方法です。あまり長く続けていると、ビザ取得を拒否されたりすることもあるようですが、わりとこの方法で滞在してる人は多いです。ベトナムとタイに半々ずつ住んで生活しているという人もいました。

2012年4月11日水曜日

起業をする人が知っておくべき、起業の現実とは

起業とは何でしょうか。この数年のウェブ世界では起業論がブームになっているようにも思います。やってみるまでわからないことも沢山あるでしょうが、やってみなくてもわかることもいくつかあると思いますので、私の経験も交えて起業論を話してみます。

・心構え

独立や起業することは良いことなので、「やってみれば」と言いたいところですが、起業することはやはり責任が重く、ピンチも沢山やってくるので、気軽に薦めるわけにも行きませんね。

起業する前には、とにかく大ピンチを想定してやったほうがよいでしょう。

仕事は全くこない、もしくは仕事を納期までに終わらせられず顧客に大損害を与える、迂闊にも仕事を安請負して大変なことになる、破産して多大な借金を背負う、病気になる、従業員は出社拒否になる、共同創業者とも喧嘩して残ったのは自分一人、新規事業は数年間売上がほぼ0のまま、平日も土日も朝から夜までずっと仕事でそのうえ雑用ばかり。

こんなことは多くの社長が経験していることです。

起業家にとっては「失敗が当然」なのです。

社長には、何事にも自分で責任を持つ責任感が必要な一方で、「失敗して、自分や家族や顧客や従業員や金融機関に多大な迷惑をかけても、自分は大丈夫、なんとか生きていける」という考えがないと危険です。利益と現金以外のことには無頓着な気持ちでないとやっていけません。「失敗しても命まで取られることはない」と、覚悟を決めてやるしかないのです。これだけの責任を負うというのは大変なことです。

「借金をしない」「事務所を借りない」「従業員を雇わない」「請負契約には強い免責条項を入れる」というルールを厳守すれば、こうした責任の大半から逃れることができますので、まずは責任を負わずに独立自営したい人は考えてみると良いでしょう。

さて、起業するにあたりいくつかの分類があるので、以下で見ていきたいと思います。

・フリーランスと起業

一言に独立するといっても、単に会社を離れて一人でフリーランスとして独立する場合もあれば、従業員を雇うなどの投資をして新しく企業を興す場合もあります。

フリーランスは単に契約形態が違うだけで、仕事自体は自分が一人でこなしているので、起業というほどのものではないでしょう。フリーランスは、とても能力があり、営業活動もしっかりできる人であれば、暮らしていくことは難しくないでしょう。コツは、営業活動(講演、執筆、業界活動等)に十分な時間を割くことと、必要な給与の2倍以上の時間単価を課金することです。

フリーランスは、起業の練習段階として捉えることもできますし、プロフェッショナルの究極の働き方として捉えることもできます。どちらにしても大事なことは、一社の専属にならないことです。もし一社専属であれば、フリーランスではなくて単なる契約社員ですから・・・

フリーランスは、請負契約の責任にさえ気をつければ、ほぼリスク0で独立できますので、やってみる価値もあるでしょう。ただし中年以上のサラリーマンの場合は、独立しても仕事が取れなかったときに、再就職できる見込みがあるかどうか要注意です。ちなみに独立前に見込み顧客がいない場合は、独立しても絶望的ですのでやるだけ無駄でしょう。副業からスタートするのが無難かもしれませんね。

それに対して、人を雇う、設備や製品に投資をする、などをすれば起業であると私は考えます。起業については以下に述べていきます。

・製品企業と人材企業

起業して会社を作る場合であっても、製品を作る企業になるのか、人的サービスを売る企業になるのかということは、大きな違いであるとよく言われます。後者は、いわゆるソフトウェア企業での受託企業ですね。

人的サービスを売る企業は、投資の必要性が少なく、社長の能力や営業力を活かしたり、下請けの仕事や小さい仕事を取ってくることができますので、参入しやすく、小さく始めることが容易であると言えます。

問題としては、参入が容易なため競争が激しく薄利で低成長になりやすいことと、景況の波に対応しにくいことの2つがあります。市場自体が低成長の場合には、差別化と営業努力が要求されます。

それに対して、製品を作る企業の場合には、投資も必要ですし、うまく製品が売れるかどうか分かりませんので、新規参入は圧倒的に難しくなります。売れたとしても数年間くらい時間がかかることも普通です。いきなり新米社長が製品を作るのは非常に難しいものです。

かといって人材企業を作ってから製品企業に転換するというのも、とても難しいのです。一つの会社の中に、淡々と他社の仕事をこなしてお金を稼ぐ部門と、金になるかわからない新しい製品を作る部門を並立させるということは、どれだけ困難か想像してみてください。人材企業として成功して利益がでていれば、そうした贅沢もできるかもしれませんが、薄利でやっている人材企業にとっては、そんなことは不可能なのです。既存の従業員が、かえって足枷になってしまうのです。

最悪なのは、「何か新しいビジネスをやるぞ」「製品を作るぞ」と言ってスタートして、なし崩し的に受託企業・下請け企業になってしまい、「本当は製品が作りたい。受託なんてしたくない」と言っているケースです。

まあ、人生にはそういう時期もあるかもしれません。が、それを長く続けたら人生最悪ですし、そういう会社の従業員になることも最悪なので絶対に避けるべきです。受託をやるならやるで、本気でやらなければ生き残っていくことなど出来ないのですから。

・新規市場と既存市場

他にも企業には色々な分類の仕方があるかと思いますが、「目新しさ」ということは一つの大きな要素です。

これまでなかったような全く新しい市場を作り出すのか、現在も競争相手がいて普通に商売をしているところに、ちょっとだけ違うものを投入してお金を儲けるのか。

全く新しい市場で、既存のお客さんや競争相手のいないところに乗り出すのは、基本的には自殺行為です。大成功する場合もあるでしょうが、99.99%は大失敗するでしょう。それで大きく成功している例が目立つだけで、その陰には無数の死者がいるのです。

インターネット業界では、今も昔も「それでどうやって金が儲かるのか?」というビジネスで起業する人が後を絶ちません。残念ながら「便利で面白いソフトウェアを作りました」では商売にはならないのです。基本的には、確実にお客さんが金を払ってくれるものを作らなければいけないのです。もしくは、とてつもない数のユーザを獲得できるようなものを作ってうまく普及させる必要があります。

新規市場に乗り出すからには、「どんなことをしてでも自力で新しい市場を開拓する!」という覚悟と、それだけの能力が必要不可欠です。その根性がないのなら、既存市場にしておいた方が無難でしょう。

もちろん、コカコーラに対抗して新しいコーラを発売するとかいうことも自殺行為ですが、それでも本当に違いが分かるほど美味しいコーラならマニア層が多少なり買ってくれる可能性はありますので、いくらかマシと言えます。

でもWindowsに対抗して新しいOSを作るとか、弥生会計に対抗して新しい会計ソフトを作るというのは、ほぼ無理でしょうね。ネットワーク効果や、顧客にロックインが発生する分野では、すでにシェアの大きい企業に対抗しての新規参入は困難ですから。

起業がかっこよいからやってみる!というのも悪くないとは思いますが、成功の見込みのないソフトをうだうだ開発し続けて、そのあげく失敗して非正規労働者に転落では悲しすぎます。自分の「起業」が単なるモラトリアムではないか、それを確認するために「これで本当にお金が稼げるのか?!」と問い続けるべきでしょう。

・大きく賭けるか、小さく賭けるか

起業にはもう一つ重要な分類があります。急成長を狙うベンチャーをやるか、それとも自分にとってちょうどよいペースでやるか、です。

急成長を狙う場合は、基本的には投資家からの投資を受けて、うまくお金や人材を活用することによって、急成長を狙うということになります。これにはビジネスモデルも大事ですし、経営者や創業者にはかなりの能力が要求されることになります。また、失敗を前提として、投資によって資金調達することで個人のリスクを軽減します。ストレスや困難は大きいでしょうが、これはこれで個人的なリスクの少ない方法です。

自分にとってちょうどよいペースでやる場合は、基本的には投資を受けず、徐々に自己資金での成長を目指していくことになります。場合によっては政府金融機関から融資を受けたりすることもあるでしょうし、従業員も徐々に雇うかもしれません。大事なことは何事も無理をせず徐々に進めることです。会社を清算したときに多大な借金が残らないように、つねにキャッシュフローに気をつける必要があります。

副業として開始をして、本業の給料などをつぎ込みながら行う、バイトしながら行う、というのも一つの方法です。副業なんかでうまく行くのか? と言う人もいるかもしれませんが、副業でうまくやれるくらい高いモチベーションの無い人は、本業にしても失敗するに決まってますよ。

粗利が年間数千万円の会社など、吹けば飛ぶような零細企業ですが、もし一人だけでやっているビジネスなら素晴らしい事業です。売上が何億円あっても、多くの従業員と、負債の個人保証を抱えていれば、個人的には全く裕福とは言えません。

起業家にとっては失敗が標準なのですから、失敗してもダメージが少なくて済むように常に心がけるべきです。

・起業家のエコシステムとは何か

起業家のエコシステムということが良く話題になります。起業がもっと盛んになるにはどうしたら良いか、という議論が盛んです。投資が受けられれば良いとか、メンターやアドバイザーがいれば良いとか、そういうことが言われますが、私は以下のように考えます。

まず、お金に関して言えば、投資というのはあくまで利益が生まれてこその投資ですので、ベンチャー企業が売上や利益をあげられることが前提です。現状の日本では、ソフトウェア企業にお金を投じたからといって、それが利益につながる関係がまだ見いだせていないように思います。米国のように市場が巨大で、企業買収が盛んな場所では違うのかもしれませんが・・・

メンターやアドバイザーも良いかもしれませんが、そもそも成功した起業家が表に出てこない日本では、メンターたり得る人がほとんどいません。自分で起業したことない評論家やコンサルタントの人は、たまに意見をもらうアドバイザーやコンサルタントには良くても、メンターとは言えないでしょう。また、一緒に仕事をして責任を取ってくれる人こそが、本当の指導者です。Googleにおけるエリック・シュミットのような人がいれば起業家は大きく成長できるでしょうね。

とにかく主役たり得るのは起業家だけではないでしょうか。

起業家が魅力的な商品を作れば、消費者や企業などの顧客も食いついてきますし、新しい市場も立ち上がります。起業家が魅力的な会社を作れば投資家も食いついてきます。成功した起業家がどんどん生まれればメンターも投資家も買収も増えてくるでしょう。

まずは独立してフリーランスになるもよし、一人でしこしこ製品を作るもよし、人材サービス企業を作るもよし、一人一人がやれることをやるしかありません。

一つだけ大事なことは「くさらないこと」だと思います。これまで起業する人を数多く見て来ましたが、ほとんどの人は売上があがらなかったり、思うようにいかなかったりして「くさって」意欲を失ってしまいます。意欲を失った、死んだような会社を続けて、そんなところが従業員を雇っているのは最悪なことだと思います。

そんなに簡単に起業がうまく行くようなら世界は億万長者だらけですよね。

私も独立してからもう10年くらいにもなりますが、まだまだ商売では初心者中の初心者です。本当に思うように行かず失敗ばかりですが、とにかく失敗を糧にして、成功した人たちから学び、なんとかくさらないでやっていきたいものです。

追記: ちなみに起業を止めようと思ってこの記事を書いたわけではありません。私のようなダメな起業家がなんとか10年間も喰って来れたんですから、あなたもきっとやれますよ! 起業は楽しいですよ。

2012年2月21日火曜日

メイシーに項目追加機能がつきました!


メイシーにも続々とお客様が増えており、新しいご要望を頂いております。

今回は、名刺データへお客様独自の項目を追加できる機能を実装いたしました。これにより、名刺データにfacebookアカウントなど独自の項目を追加して、より便利に管理していくことが可能となります。

これからもご要望には可能な限り対応していきますので、お気軽にご要望をお寄せ頂ければと思います。よろしくお願い致します。

日本から逃げた先に幸せはあるのか?

2月2日から3ヶ月の予定でバンコクに滞在中の新井です。こちらにお立ち寄りの方、在住の方など、是非お気軽にお声がけ頂ければと思います。

こちらでタイ語を学んだりしながら、のんびり暮らしています。と言いたいところですが、スケジュールのきついプロジェクトがあるので毎日バリバリ仕事をしています。

私は、これまでロンドンやソウルなどに3ヶ月くらい長期滞在して語学を学んだり遊んだりして暮らしてきた経験がありますが、今回も同じような遊学の予定です。前回までと違うのは、今回はフルにインターネット接続された状態で、日本と同じように仕事をこなしながら生活するということです。

べつにバンコクに永住しようとか、仕事を見つけようとか、そういう考えがあるわけではありません。単にバンコクにしばらく暮らしてみたくなっただけです。10年前とは違い、いまは高速なインターネットが容易に手に入る時代ですので、このように海外に長期滞在をするのは簡単になりました。

さて、最近ちまたでは、日本はもうダメだから海外に逃げようとか、富裕層が海外に逃げるとか、そのような言説が目立ちます。

ですが、そのような人たちは、はっきり言ってまともに結果を考えているとは思えません。逃げた先にどのような幸せがあるのか、それが全くわかりません。

「日本が軍事独裁国家になり戦争に突入するから逃げろ」という妄言を吐いた人もいましたが、世界で日本よりも戦争や独裁から遠い国というのは数少ないような気がします・・・ この人の住んでいるアメリカ合衆国という国は、あちこちで戦争をやっていて大勢の戦死者を出し、テロ対策のために空港で全乗客を全裸スキャナーで検査するような国だったような気もしますが?

バンコクは物価も安く、とても暮らしやすい国です。しかし、この国で住み続けるためにはビザというものが必要です。この国では、起業家がビザを取るルールはなかなか厳しいようで、簡単に取るというわけにはいかなさそうです。

こちらで日本人の現地採用の仕事を探すと、だいたい5万バーツ~6万バーツ(13万円~15万円)というのが給与の相場です。一時的に海外で仕事をする体験は悪くないかもしれませんが、長期的に働くとなると将来の貯蓄やキャリアパスに不安を感じます。いつまでもタイに住んで働けるとは限らないのですから。タイだって、どんどん成長して生活費もあがるでしょうし、おそらくは日本人の居場所も少なくなるでしょう。

外国で働くということは、ビザの問題と、能力発揮の問題があり、とても難しいことだと思います。ビザを考えると起業家やフリーランスという選択肢はまず不可能です。能力を発揮するという点からも、外国人が仕事をするのはどの国でもすごく不利になるでしょう。言語力で劣るだけでなく、人脈、文化の理解、法制度など全ての面でマイナスなのですから。

海外に住むということは、法的に極めて脆弱な条件に置かれることになります。ちょっとした軽犯罪ひとつで追い出されたり、政治的に問題発言をしただけで追い出されたりするかもしれません。会社を辞めれば、次の仕事を見つけるまでにビザが切れてしまうかもしれないのです。

たしかに金型や溶接の技術者など、一部の特殊な技能を持つ方は、タイの方が好待遇を得られるということもあるかもしれません。極めて優秀なソフトウェアエンジニアや研究者はアメリカにいったほうが好待遇を得られるでしょう。しかし、そういう例はごく僅かです。バンコクでは現地採用の日本人のプログラマの給料は5万バーツ(13万円)程度です。

税制のために富裕層が海外に逃げるという意見を持つ人もいますが、脱税を目的とする場合は日本と縁を切る覚悟が必要ですね。日本にある程度滞在している場合には、日本で課税される可能性があるわけですから。税金が安くなるからといって、日本と縁切りするほど魅力ある税金の安い国があるでしょうか? 香港やシンガポールは永住するにはちょっと退屈ですよね。

もちろん私は、国際的であることは素晴らしいことだと思っています。プログラマで英語ができないとか、ちょっとあり得ないと思うので、さっさとセブ島にでも留学すべきだと思います。海外体験を積むことも素晴らしいことだと思います。

日本人ならいつでも世界に飛び立てるのに、世界がどんなに魅力的だということを知らずに死ぬのはもったいないです。ラオスの山奥で農業をして暮らす人々も、サンフランシスコでソフトウェアの仕事をして暮らす人々も、どちらも出会う価値のある人々です。まあ、私は結局のところ、日本人以外では韓国人が一番つきあいやすいと思いますけどね。文化的に近いので。アメリカ人とかは個人的にはちょっと付き合いにくいです。

海外に行けば、日本がいかに素晴らしい場所であるか、戦後の日本人がいかに頑張ってアジアの人々の尊敬を勝ち取ってきたか、そんなことを学ぶこともできると思います。

海外で一旗あげるぞ! 武者修行だ! 留学だ! 起業だ!という野心に燃える方は素晴らしいので是非がんばってほしいものです。海外で楽しく暮らすぞ! という方も、楽しいので是非いらしてください。

しかし「日本はもうダメだ」などというマイナスな考え方をばらまく人は、海外に行った先に何があるのか、もう一度考え直して欲しいものだと思います。

私には、ちょっと世界のどこかの国で、日本人が働いて暮らすとして、日本よりも楽に良い待遇や環境が得られる場所というのは思いつきません。そこに住む日本人達は、彼らなりの思いや経験を経て、死にものぐるいで頑張って、ようやくそこにいるのではないでしょうか。戦争や政変でも起こらない限り、日本人にとって、海外の方が暮らしやすいなどという日は来ないでしょう。

追記: 誤解を招く部分があるので追記しますが、私は海外留学も海外就職もとても楽しくて良いことだと思っています。どんどんやるべきです。ただ「日本はもうダメだ」と悲観的なことを言うのはやめてほしいなあ、というだけです。

あと起業家でもビザが取りやすい国もあるそうです。いま私がいるタイはすごく厳しいようですが、そうでもない国もあるみたいですね。日本で起業家ビザを取ろうとしている友人から、日本もわりと取りやすいという話を聞きました。


追記2: (2017年2月9日) 本稿ではセブ留学を薦めていましたが、現在はセブ留学はあまり推薦しない立場です。語学留学の目的は、現地で言葉を実用することによって語学の学習を大幅にスピードアップすることです。

しかしフィリピン留学は、セブシティやマニラ市の治安が悪いこともあり、語学学校がやたら詰め込み型であることもあり、毎日6~8時間もアホみたいに授業ばかり受けて帰ってくるという話をよく聞きます。

これでは語学留学の目的に反しており、日本からSkype英会話の授業を受けまくっても同じことだと思います。授業は一日3~4時間も受ければ十分。あとは宿題を終えたら街に出て会話するべきです。それがセブシティやマニラ市では治安が悪いため多くの日本人にとって難しいので、あまりおすすめしないということになります。

また、きわめて質が低い学校が多いという話もよく聞きます。そもそも一日に授業を8時間も受けさせるような学校は、外国語教育について全く知識がないと考えてよいでしょう。

各国で大学が運営する正規の語学学校では、集中コースでも一日4時間で週20時間程度の授業です。それ以上の授業時間を設けても効果が薄いということなのでしょう。予習復習などもありますしね。

フィリピンでももっと治安の良いところはあるでしょうし、治安が悪くてもがんがん遊びに行ける人もいるでしょう。だからフィリピン留学をすべて否定するわけではないですが、万人に勧められるものではないかな、と。

じゃあ、どうやって英語を学べばいいんだ? と言われるとよくわかりません。僕はなんとなく普通に暮らしているうちに数十年かけて自然に英語ができるようになってしまったので、英語を真面目に学習したことがないんですよね。だって日本に住んでいても英語って普通に読んだり聞いたりするじゃないですか。趣味や仕事で深掘りしていけば必ず使うでしょう。

2012年1月29日日曜日

Winny事件を最高裁での勝利で終えて

先日、Winny事件での最高裁判決があり、無罪という結論になりました。金子さんが逮捕されてから7年にもなります。この記事では、私の立場からのWinny事件の感想をまとめたいと思います。

私は、金子さんが逮捕された直後からウェブサイトを立ち上げて支援活動を行い、無数の方々から1500万円もの支援金を頂いて、弁護費用に充てることができました。このように広い範囲からご支援を受けての弁護活動というのは日本では珍しい事例なのではないかと思います。

私は、何らかの政治的バックグラウンドや活動歴や人脈があるわけではなく、全くの知らない人々から支援を受けて、それを弁護団に届けただけの無名の一般人、ということになります。ありがたいことに、いまだに無名のままでいます。

私は金子さんとは面識がありましたので、金子さんが善良な人であるということには、ある程度の確信がありました。金子さんの人柄がなければ、あれほどの支援を受けることは難しかったでしょう。

刑法にも若干の知識がありましたので、法的にかなり無理をしての逮捕であるということも想像が付きました。刑法学の教員をしている友人に薦められて読んだ刑法入門の本が、まさか実際に役立つ日が来るとは思ってもいませんでした。

警察が社会の規範を一方的に定めるべきではないという私なりの考え方もありました。社会の規範は、あくまで国民の意思をもとに国会で法律として定められるべきです。警察や検察が勝手に勇み足で、法的に無理な逮捕・起訴を行うべきではありません。

しかし、まさかこのように多額の支援が集まるとも、最高裁まで戦って無罪が勝ち取れるとも思ってもいませんでした。

今だから言うことができますが、個人的にはWinnyのファンというわけではありませんでした。ファイル共有ソフトウェアはどうしても違法コピーの牙城となりがちですし、流出した情報が回収困難になるなどの問題があると考えていました。

しかし、法的根拠もないのに警察が開発者を逮捕する、ということは全く話が別です。

そのようなことが行われれば、法的に曖昧な領域での技術開発や事業推進が行われなくなってしまいます。新技術や新事業というのは、しばしば法的に曖昧なものですから。

それどころか、検察はライブドア事件によって日本のベンチャー市場を完全に破壊してしまいました。あれから、いまだに日本の新興市場は低迷を極めています。

日本の株式市場には、明らかに異様な仕手筋の企業がのうのうと上場を続け、一部上場企業のオリンパスは多額の粉飾をしても平然としています。その一方で、ライブドアは、ただ目立っていたというだけで、検察によって潰されてしまいました。堀江さんは、いままさに監獄の中にいます。

日本の警察は、パチンコのような違法ギャンブルを黙認することによって自分たちの利権のタネとする一方で、村木事件のような数々の冤罪を生み出しています。検察や警察にはもっと厳しい目が向けられてしかるべきです。

もちろん日本は素晴らしい国であり、優れた民主主義の法治国家であることは間違いありません。Winny事件でも、無数の多くの人々から支援の声があがり、最終的に無罪を勝ち取ることができました。

しかし今回のように、多くの人が声をあげていけば、この国はもっと良くなっていくのではないかな、と思います。私も、この経験を生かして、今後とも何かの機会があれば、いろいろと活動をしていこうかな、と思っています。

最後に、これまでの皆様のご支援に心より厚く御礼を申し上げるとともに、今後とも皆様が社会を変えるために立ち上がっていくことを願ってやみません。今回の勝利は、1円でも寄付して頂いた皆様のものです。まちがいなく。

2012年1月14日土曜日

海外送金のWestern Unionが日本再登場

Western Unionは少額国際送金のグローバルスタンダードです。

これまで数年間の間、日本では取り扱いがなくなっていましたが、最近、便利になって復活しました。

銀行で海外送金をする場合、書類の記入も多く面倒ですし、一回の送金ごとに6500円くらいの多額の手数料がかかります。

Western Unionであれば、受取人の名前さえ指定すればお金を送信することができます。相手が身分証明書を持ってない場合でもパスワードにより送信できるという機能があり、それにより身分証などの整っていない後進国でも利用可能となっています。

手数料も5万円までなら1500円と割安です。

企業でも少額の送金にはWestern Unionを使うところがあるようです。先日、中国の電子機器メーカーにサンプルを発注したときは、Western Unionか銀行送金で決済してくれ、と言われました。

ヴィクトリア朝時代のインターネットによれば、Western Union社は、もともと電信の会社として設立され、19世紀に世界でも最も早く電信送金を実現した会社だということです。いまになってもそのサービスを継続しているのだから、非常に息の長いオンラインサービスということになりますね!