2017年5月13日土曜日

睡眠リズム障害とともに生きる - 睡眠相後退症候群(DSPS)と非24時間睡眠覚醒症候群(Non-24)とは何か

(cc) Derk-Jan DijkSimon N. Archer

睡眠リズム障害(概日リズム睡眠障害)という病気はあまり知られていない病気の一つです。

睡眠リズムとは、人間の体内時計によって寝る時間が決まることです。このリズムが社会的に適切な時間からずれてしまい、希望する時間に寝たり起きたりすることができない病気、それが睡眠リズム障害です。

この病気は、社会の理解があることで患者の人生はだいぶ楽になります。ぜひこの記事によって多くの人に睡眠リズム障害について知ってもらいたいと思います。

ちなみに私もこの病気にかかっているので、私がいつも変な時間に行動していたり、先の予定が決められないことに疑問を持っている方も読んでみてください。理由が少しわかると思います。ちなみに本稿ではまず先に病気の概要を説明し、それから私の個人的なストーリーを書きます。

私がかかっている非24時間睡眠覚醒症候群という病気は、きわめてまれな病気であり、その当事者が書いてる話というのはレアだと思いますよ:)


睡眠リズムとは何か?


まず睡眠リズムという概念自体をあまりよく知らない方もいるのではないでしょうか。時差ぼけなどの存在はよく知られていますが、通常は意識することはないですよね。

人間がいつ眠くなるかには、二つの大きな要因があります。

一つ目は、どれくらい長い時間起きているか、どれくらい睡眠が不足しているか、ということです。これをHomeostatic Sleep Driveと言います。起きてから長く起きていれば睡眠の必要性が高まって眠くなるというシンプルな仕組みです。

もう一つは、自分の体内時計によってだいたい何時に眠くなり、だいたい何時に起きるのかということが制御されています。身体の中には本当に時計のような働きをする仕組みが備わっており、人間は決まった時間に活動するようになっているのです。これをCircadian Rhythm (サーカディアンリズム、概日リズム)と言います。これが睡眠リズムの正体です。

体内時計は、自分がいつ起きていつ寝るかなどによって影響される一面もありますが、基本的には惰性によって毎日同じリズムを維持しようとします。

そして人間は寝るべきときに寝るようにできており、寝るべきでないときに寝ると、うまく寝れない、そして起きるべきでないときに起きているとやたら眠い、という風に出来ています。

そのため海外旅行や交代勤務などによって、急に大きく違う時間に寝たり起きたりしようとすると、実際にいつ寝て起きるかに関係なく、それまでの睡眠時間に眠くなってしまったり、それまでの活動時間には眠れなくなったりします。

睡眠リズムの働きは、人によってかなり違いがあると思われています。時差ぼけがきつい人もいれば、シフト制で交代勤務を行ってもわりと平気という人もいます。

この働きが狂ってしまい、思うように寝られなくなるのが睡眠リズム障害です。

睡眠リズム障害とは何か?


端的に言うと、夜眠れない、朝起きられない、昼間に眠くなる、夜に眠くない、というのが睡眠リズム障害です。

時差ぼけや、交代勤務によって生じる心身の不調、これも睡眠リズム障害の一つです。それぞれ、時差症候群、交代勤務睡眠障害と呼ばれます。

時差ぼけを体験したことがある方はよくわかると思いますが、疲れていて眠いはずなのに熟睡できないとか、ちゃんと寝たはずなのに昼間に猛烈な眠気に襲われるとか、こういう症状は睡眠リズム障害の典型的なものです。

たまに海外旅行や出張で時差ぼけになるくらいなら命に別状はありませんが、世界中を飛び回る仕事や、看護師や工場勤務などで交代勤務をしてる人の場合、命に関わるような重大な病気や、精神疾患にかかったりします。そうではなくても交代勤務は寿命を大きく縮めると言われています。

本稿で紹介する睡眠相後退症候群(DSPS)非24時間睡眠覚醒症候群(Non-24)は、時差もなく、交代勤務でもなく、普通に暮らしているだけなのに、なぜか睡眠リズムがずれてしまい、常時、時差ぼけや交代勤務のような状態になってしまうという病気です。

睡眠相後退症候群は、寝る時間が極端な夜型になってしまい、朝方にならないと寝られない、そして朝にどうやっても起きられないという病気です。

これは比較的に良く見られる病気(1000人に1.3-1.7人)です。思春期には10人に1人くらいがこの病気になると考えられています。人間は思春期には夜型になる傾向が強まるためです。

人間は遺伝的に夜型と朝型が決まっていると言われており、精神医学では「朝型夜型質問紙」というチェックシートまであるくらいです。

単に夜型で、夜になると調子が良くて、朝は弱い、だけど特に困ってないという程度の人は病気とは言えないでしょうが、それが生活や仕事に重大な問題を来すようになると病気になってきます。この中間の人も大勢いるでしょう。

朝が極端に弱くなり、どんなに努力しても絶対に起きられないような状態にまでなることがあるのがこの病気の特徴です。単なる睡眠不足というレベルではなく、仕事をクビになるような状況でも起きられないほどです。

自分を不眠症と思っている人でも、遅い時間なら普通に眠れて、朝起きるのが異常に難しいという場合は、この病気にかかっている可能性があります。

非24時間睡眠覚醒症候群は、毎日体内リズムがどんどんずれて、寝る時間と起きる時間が毎日遅くなっていくという、とても珍しい病気です。(興味深いことに、毎日睡眠リズムが早くなっていくという患者はほぼいません)

ちなみにこの病気にかかっている人の多くは全盲の人であると言われています。

患者数も少なく、詳しいことはあまりよくわかっていませんが、定期的に昼夜逆転してしまい、昼に行動するときと、夜に行動するときがあるため、日常生活だけでなく、人生や仕事や家族生活などに壊滅的な打撃を受ける極めて重篤な病気です。

きちんとした情報は、専門的な医学書を含めてほとんどありませんが、日本語で書かれた記事としては日経サイエンス 2016年1月号に詳細な記事があります。この病気で悩む人は必読と思います。幸いに一つの記事だけをダウンロード購入することができます。

人によっては、この病気でなくても、仕事をやめて家で生活していると昼夜逆転してしまうことが良くありますが、この病気の場合は、それとは異なり、昼型を維持するために最大限の努力をしても昼夜逆転してしまうというどうしようもない病気です。

この二つの病気については、以下のような遺伝的な要因が絡み合っており、完全に健全な人から、かなり睡眠リズムが不安定な人、そして完全な病気の人まで、さまざまな段階があると私は考えます。

  • 睡眠リズムのズレやすさ: たまたま夜更かしをしたり、深酒をしたり、寝坊をしてしまったときに、どれくらい睡眠リズムがズレてしまうか?
  • 睡眠リズムの頑固さ: 時差ぼけになったり、用事などで普段よりも早起きしたり早寝をしたりするときに、どれくらい睡眠や起床が難しくなるか?
  • 生まれつきの朝型夜型の違い: 夜型の人ほど昼夜逆転の危険は高まるでしょう。
  • 不眠症や不眠体質: さくっと寝付ける人は、不眠症の人より、睡眠リズムの悪影響を受けにくいでしょう。
  • 睡眠時間の長短: 毎日9時間以上眠るロングスリーパーの人は、必然的に睡眠リズムがずれやすくなるのではないかと推測します。

さて、最後に私の個人的なストーリーを話します。なぜならNon-24は珍しい病気であり、ほとんど医学的な情報がないため、一人一人のストーリーを話すことが他の患者の助けになると思うからです。

とりとめのない話ですので、興味のある方だけお読みください。

毎日睡眠時間がずれている私の話


私は、非24時間睡眠覚醒症候群にかかっており、それは私の人生に壊滅的な打撃を与えています。

私は、自分が再来週に何時に起きて、行動して、何時に眠ることができるのか、予想ができません。そのため、他人と先のことを約束して、一緒に行動する予定を入れるというのはとてもリスキーなことです。約束を守るために24時間ほど徹夜したりすることも良くあります。

面白いことに、徹夜をするのは、早く起きるよりも、どちらかといえば簡単なのですよ。徹夜は頑張ればできるけど、早く起きるのは、意志の力ではどうにもならないほど難しいです。仮に起きることができたとしても、会話や仕事などの知的な作業は一切できません。布団から這い出して、飛行機に飛び乗るくらいが関の山です。

当然、学校に行ったり、会社勤めをしたりすることはできません。

これは年々ひどくなっています。24歳のときに3ヶ月韓国語を学びに学校に行ったときは、なんとか起きて授業の80%くらいに出席して修了証をもらうことができました。しかし36歳のときに3ヶ月中国語を学んだときは50%も出席することができませんでした。

睡眠リズム障害がひどくなっている理由の一つは、私が寝たい時間に寝ることと、起きたい時間に起きることを完全に諦めてしまったせいでもあります。

夜に眠れないからといって、布団の中で悶々としたり、睡眠薬を大量に飲んだりすることは、極めて苦痛に満ちた体験です。精神的にも最悪の状況に追い込まれます。

そのため私は無理に寝るのをやめて、眠れないときは普通に起きて仕事をしたり音楽を聞いたりしています。そして明らかに眠れそうにないのに睡眠薬を飲むことをやめました。


さて、ここで具体的な私の睡眠リズムの一例をお見せします。私は2004年くらいから睡眠日誌を付けているのですが、そこから2016年5月の記録をお見せします。Sと書かれた部分が寝ている時間です。


見事に毎日睡眠時間がずれているのがお分かりになるかと思います。途中で大きくジャンプしているところがありますが、それは寝る時間が朝8時とかになってしまったため、明るすぎて、寝るのを放棄して徹夜したためです。


どうしてこうなった?


なんで僕はこんなことになってしまったんでしょうか?

僕は生まれたときから不眠症だったと親に言われています。幼児のときから夜になってもなかなか寝ない子で、寝かせつけるのがとても大変だったと言われました。自分の記憶がある限りでも、小さい子供のときからずーっと不眠症でした。毎日、寝るのが苦痛で苦痛で仕方なかったです。

父親もひどい不眠症で、いつも夜眠れなくて困っています。

睡眠とはまた別の問題もあり、学校や権力が大嫌いであり、また若い頃は精神的に不安定だったこともあり、中学校のときに学校に行かなくなりました。それから大学などに行こうかと思ったこともありましたが、その頃には睡眠障害が本当にひどくなっており通える状態ではありませんでした。そのためいまでも学歴は中卒です。

もともと不眠症は、学校に通っているときから、かなりひどかったので、いつかは睡眠が維持できなくなったと思いますが、学校に行かなくなり自堕落な生活を始めたこともあり、すぐに睡眠は取り返しがつかないほど悪くなってしまいました。それから気づいたときには昼夜逆転が常態化していました。その頃は、まだNon-24と言い切れるほど、ひどくはなかったと思います。寝れなくて悶え苦しんではいましたが…。

さらに最近、検査してわかったのは、私は睡眠時無呼吸症も持っているということです。たぶんそれが10代後半で悪化して、どうやっても絶対に朝起きられない状態の悪化を招いたと思われます。いまはそれを治療して、だいぶ起きやすくなりました。

年々、夜に寝て、朝起きることを諦めていき、それにともなって精神状態は良くなったんですが、2014年くらいから夜に寝ることを完全に放棄してしまったため、綺麗にNon-24のグラフを描くようになってしまいました。

なぜ睡眠がどんどん後ろへずれていくの?


僕の睡眠について確実に言える2つのことは「早く起きても早く寝ることが出来ない」ということと「睡眠リズムを前に倒すことが絶対にできない」ということです。

普通の人はたぶん早く起きて早く寝るということを続けることで、睡眠リズムを多少なりとも前に進めることができるんじゃないかと思うのです。(ただし健常人であっても睡眠リズムを前に進めるのは難しく、後ろに遅らせる方がずっと楽だと言われています。これは西向きと東向きの旅での時差ぼけのなりやすさに関係しています)

しかし僕の場合は、どんなに頑張っても睡眠リズムを一定に維持することが限界で、それを前に進めることは全くできないのです。さらに無理矢理に早く起きても、夜に早く寝ることができず、睡眠不足がたたって余計に睡眠リズムを悪化させるだけになってしまいます。

僕は本当にNon-24なのか?


最後にちょっとちゃぶ台返し的なことを言いますが、私はNon-24だと医師からはっきり診断を受けたことはありません。これまで数名の睡眠専門医にもかかりましたが、Non-24を診断できる医師には一度も会ったことがないですから…。

時間生物学の研究者は多くても、臨床医学的に概日リズム睡眠障害を研究してる人は多くないのかなという印象を受けます。書籍や情報も少ないですしね。その数少ない情報源によれば、重度のDSPSと晴眼者のNon-24は隣接する疾病であると書かれていますので、明確な線引きがあるわけではないのかもしれません。


私も100%のときにずっと睡眠がずれていくわけではないのです。ここにあげるように2016年2月では、わりと外界に同調したリズムで過ごすことができています。

ただ、多くの期間では、睡眠リズムを予測することができず、毎日睡眠がずれていくという現象がある以上、実質的にNon-24としての困難な症状を持っているということです。

また、もし私が朝8時~夕方17時に寝るようなリズムに同調して生活することができたとしても、それではまともな社会生活を送れないですし、明るい中で寝るのも困難ですから、社会生活上は全く意味が無いのです。基礎研究者にとっては大きな違いでしょうけど。

治療法は?


治療法については、まだまだ研究中で、不確実な情報が多いため、本稿では紹介しません。下記に記載する参考資料を読んで、睡眠専門医と相談してください。

病気が治せなくても、社会的にこの病気が障害として認められ、また生まれつき夜型の人が大勢いるという事実が認識され、学校や会社などが時間に縛られない学び方/働き方を提供してくれるようになれば、多くの人がずっと幸せに生きることができるようになると思うのですが…。

参考資料

2017年5月1日月曜日

家庭用医薬品の世界の変化を予測する

日本では、なぜか家庭用医薬品は処方箋医薬品(医療用医薬品)よりもずっと高いという状態が続いています。もちろん医療用医薬品は保険で3割負担なのですが、10割負担だとしてもその薬価は家庭用医薬品よりずっと安いものが多いかと思います。

医師や薬剤師の時間を使ったあげくに薬が安く買えるという逆転状況は、資本主義の原理に反しており、日本の医療費を増大させる原因になります。

医薬品業界には「薬九層倍」という言葉があり、薬は原価の9倍で売れるなどと言われています。

これは家庭用医薬品の世界では、薬店などの流通業界が大きな権益を握っていることや、家庭用医薬品への参入が厳しく制限されていることがあると思われます。

現在は厚生労働省が、薬剤師や薬局薬店などの利益を重視しているため、このような無法がまかりとおっていますが、そのうちに財務省や政府から圧力がかかって状況が変わることでしょう。日本の財政状況を考えれば10年以内に劇的な変化があってもおかしくありません。

では、どう変わるのか。

まず家庭用医薬品への参入規制が緩められ、ジェネリック医薬品製造会社が大々的に乗り出してきて、通販などの流通手段で大幅に安い薬を売ることになると思います。抗アレルギー剤を90日分まとめて3000円とか、そういう世界になると思います。

もうちょっと医師による指導が必要なような薬では、いちど医師が診察して処方したら、あとは薬剤師とのやりとりだけで長い期間の処方が受けられるリフィル処方箋の導入もありえるでしょう。

処方箋医薬品の通販による販売も可能となり、さらに家庭用医薬品の通販もさらに進むでしょう。

ただし、これらの改革には日本医師会の強い反発があるので、政治的には実現するのはかなり難しくなるでしょうね。

厚生労働省は間違った日本の薬局制度を廃してバンコクの薬局を見習え | 日に以て親しむ-新井俊一ブログ 

以前もこのような記事を書きましたが、私は今は10年~20年のうちには変化があるかなという予想をするようになりました。日本の医療費は年間40兆円という恐ろしい水準になっており、もはや政治的圧力などをかまっていられる状態ではないと思いますので。

さらに踏み込んで、インド製ジェネリックを輸入して日本で正規販売できるようになれば、大幅に薬剤費を下げることが可能なのですが、日本政府はそこまでは踏み切れないでしょうね…。