2010年10月26日火曜日

ストーリーとしての競争戦略 - 楠木建

一橋大学の教授による競争戦略の本です。

「ストーリーとしての競争戦略」というと、物語のようなもので競争戦略を語るのかと思ってしまいますが、そうではありません。戦略を、時間軸上に展開されるビジネス上の打ち手、すなわち決定や目標(構成要素)と、それらをつなぐ因果関係の線で、一つのグラフとして捉えるということです。そのグラフを本書では「ストーリー」と呼んでいます。

私はこれまで競争戦略の本をあまり読んでいませんので、本書が初めて読む本格的な競争戦略論の書籍ということになります。

本書は、著者独特の考え方の紹介に止まるものではなく、競争戦略の全体像を広い視点で分かりやすく描いています。競争戦略の初学者にとっては、うってつけの本と言えるでしょう。本書の説明と論理は非常に明確であり、本書を読み終えてから、私が企業戦略を考えるときの視野が一気にクリアになった観すらあります。

弊社でも全員でこれを読んで「戦略とは何か」ということについて共通の視点と語彙を持てるようにする予定です。

私にとって一つの嬉しい驚きは、これを書いたのが日本人であるということです。日本人には、分厚くて、網羅的で、事例が豊富で、分かりやすく、面白く、論理的で、学習的であるような教科書的な本を書くことは出来ないと思い込んでいたので、本書には驚かされました。

また、このような骨太の本がベストセラーとなって話題になっているのも、とても嬉しいことです。日本には優秀な方がまだまだ大勢いるのでしょうね。

以下、しばし本書の内容を紹介します。

本書の骨子は、ビジネス上の打ち手と、それをつなぐ因果関係を組み立てて、全体の相互作用として他社が真似の出来ない優位性を手に入れ、長期的な利益を確保するということです。

打ち手は、差別化要因(SP)と、組織能力要因(OC)に分かれており、即効性のあるSPと、徐々に蓄積していくOCの組み合わせによって、強力なストーリーを組み立てるというものです。

ストーリーは、個々の打ち手が一つのコンセプトのもとに、一貫性を持ってつながり、それによって競争優位を確立します。そして、そこには他社が真似出来ないクリティカル・コア(奇手、妙手)があり、模倣を防ぐということです。

一貫性とは、すなわち各打ち手の間が、明確に実証された因果関係でつながり、さらに一本ではなく複数の線でつながっているということです。ゴール(競争優位)に向かって、複数の点と線が絡み合いながら突き進んでいくということです。

本書の視点は、経営全体を捉えており、そして論理的ですので、この枠組みは経営を理解する上で、確実に視界をクリアにします。また細かい部分まで作り込まれており、実務と照らし合わせて理解することが容易です。

ただし完全に新規起業する会社や新規事業にとって、創業当初から徹底した競争戦略の打ち手を考えるというのは難しいでしょう。実際には試行錯誤しながら試せる打ち手を全て試していくというものが最初のフェーズになります。それから顧客が見つかり、組織として回るようになってから、本書にあるような競争戦略の出番となると思われます。

試行錯誤しながら打ち手を決める方法については、「アントレプレナーの教科書」のような書籍が参考になると思われます。

もし当初から完全にシナリオを決めうちに描いて突撃すると、本書にあるウェブバンの事例のような破滅的展開が待ち受けてるかもしれません。そのシナリオは、想像に基づくもので、因果関係の確かさが不明確すぎるからです。

経営戦略に興味のある方であれば、皆さん読まれることをおすすめします。

2010年10月23日土曜日

プロフェッショナル・サービス・ファーム

日本のソフトウェアビジネスの95%を占める受託開発産業についての理解が深まるのではないかと思い、本書を読んでみました。

本書は米国におけるコンサルティング、法律事務所、会計事務所、投資銀行などの専門的サービスを提供する組織の経営について書かれた本です。そうした「ファーム」といわれる組織のパートナー(経営者)に向けた書籍です。

おもに米国におけるパートナー経営の「ファーム」について書かれています。日本では同種の組織は、数量や歴史も数少なく、とくにIT業界においては皆無に近いので、あまり参考にならない部分も多いかと思われます。

「専門的サービスとは何か」というような基礎的な事項よりも、高度なレベルの経営論が中心ですので、本書を役立てられるのは、既に大所帯の「ファーム」を確立している一部の組織だけではないかと思いました。

充実した内容の書籍ですが、私にとっては無用の本でした。ただし、クライアントとの関係確立や営業論などを書いた部分は有用でしたが。



目次:

  1. 基本的問題
  2. クライアントの問題
  3. 人材の問題
  4. 経営管理の問題
  5. パートナーシップの問題
  6. 分散と集中の問題
  7. 総括

大空襲と原爆は本当に必要だったのか

刺激的な邦題の本です。原題も刺激的で"Among the Dead Cities - Was the Allied Bombing of Civilians in WWII a Necessity or a Crime?"というタイトルです。

英国人の哲学者である著者が、おもに第二次大戦における英国によるドイツ都市への無差別爆撃をテーマに、連合国によるドイツや日本の都市への無差別爆撃は、不可避のことであったのか、道義的犯罪であったのかを緻密に分析した書籍です。

本書では、イギリス空軍の戦略、爆撃を体験した人の話、爆撃に反対した人々、爆撃に賛成した人々など様々な視点から、無差別爆撃の犯罪性を明らかにしていきます。

著者は、連合国による無差別爆撃も明らかに人道的犯罪であったと明らかにし、今後も同じようなことが起こることを避けるべきであると断じます。アメリカ空軍は市民への攻撃を禁止したジュネーブ条約第一追加議定書に署名しておらず、依然として無差別爆撃を攻撃オプションとして保持しているとしています。

真珠湾攻撃を「軍事拠点への攻撃に過ぎない」と断じ、9/11のテロと原爆投下を同列に論じる本書がアメリカやイギリスで主流として受け入れられるとは思いませんが、刺激的であり、読む価値のある本であると言えます。

もちろん著者にはナチスドイツの侵略やホロコースト、大日本帝国の侵略や捕虜虐待などを連合国の罪と相殺して軽くしようという意図は少しもありません。そうではなく、勝者の行為であれ、敗者の行為であれ、人道に対する罪は厳しく断罪されるべきであるとの立場です。



目次

  1. 空襲=無差別攻撃は犯罪だったのか 
  2. 爆撃戦 
  3. 空襲された人びとの体験 
  4. 空襲した側の考え方 
  5. 良心の声 
  6. 無差別爆撃への反対論 
  7. 無差別爆撃への擁護論 
  8. 結論