2012年5月22日火曜日

ルポルタージュの魅力

日本には良いジャーナリズムが無いと嘆いていた最近の私ですが、書籍に目を向ければ、この数ヶ月の間に素晴らしいルポルタージュが沢山出版されていました。

「父・金正日と私 金正男独占告白」は、あの北朝鮮の金正男とインタビューすることに成功した日本人ジャーナリストによる著書です。空港で偶然出会って名刺を渡したことから始まるやりとりは、最初は警戒されつつも、徐々に本音を引き出すことに成功します。

150通のメールと、7時間のインタビューからなる本書では、金正男が良識有る常識的な人物であることを描き出すとともに、北朝鮮はもはや指導者層やその近くに居る人間であっても制御不能になってしまっていることを伺わせます。北朝鮮が改革・開放に舵を切る日はいつ訪れるのでしょうか?

韓国語が堪能な著者が、単身切り込んで世界的なスクープを獲得した迫力が本著の最大の魅力でしょう。「いま出版されると立場がまずい」という金正男氏を押し切って出版された本書は、ジャーナリズムの持つ非情な側面も伺わせます。本著が正男氏の立場を悪くしないことを切に願うばかりです。


「毒婦。木嶋佳苗100日裁判傍聴記」は、あの木嶋佳苗の裁判を、昔からネットで有名なフェミニストであった著者が傍聴したルポルタージュです。連載が話題になっていたそうで、実家の母もこの本の話をしていました。本屋で見かけたとき、何気なく立ち読みして、その迫力に思わず買ってしまいました。

著者は、この事件の背景を、おもに木嶋佳苗と被害者との関係性から描いていきます。フェミニストや女性の視点を交えながら、ときには揶揄するような軽い口調で、この奇怪な事件を解きほぐしていきます。この視点はとても成功しており、事件の全体像を男女関係という切り口からシンプルに説明することができています。

木嶋佳苗そのものは、単なる反社会性人格障害の連続殺人者であり、それほど興味のもてる対象とは思えませんでしたが、その周りにいる被害者たちとの不思議な関係性が少しもの悲しく、興味深いものでありました。


「ネットと愛国 在特会の「闇」を追いかけて」は、「在日特権を許さない市民の会」という最近目立っている排外主義運動のグループに深く切り込んで書き上げた力作です。

ネット右翼や在特会については、私も憂慮して見ていましたが、これまで良い書籍などがなく実態をつかめないままでいました。本書は、在特会という実体に対しジャーナリストとして肉薄して取材を重ねることで、もやもやしたネット右翼というものの一片を見えるようにした点で大きな意義があります。

本書では、在特会の会員や、それを取り巻く人々と、多くのインタビューを重ね、在特会はなぜ生まれたのかを探ろうとします。

週刊誌上がりのフリージャーナリストである著者は、まさに我々が日本のジャーナリストというと想像するような人物です。やたら熱く、フットワーク軽く取材をして、対象との距離をどんどん縮めていきます。こうした従来型のジャーナリズムがまだまだ活躍しており、素晴らしい本を書いていることに、とても勇気づけられました。日本のジャーナリズムというのも捨てたもんじゃ無いな、と思います。

ネット右翼といった危険な差別思想を生み出すことになったインターネット業界も真摯に反省し、対策を打っていく必要があるのではないでしょうか。Winny裁判の壇俊光弁護士が言うように、発信者情報開示請求を行いやすくする法整備をするなどの法改正も必要でしょう。匿名で何を言っても責任を問われないネット社会というのは、言論のあるべき姿ではないと思います。

この三冊はどれも素晴らしい書籍なので、ぜひ一度、書店で手に取ってみることをお勧めします。

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