2011年2月6日日曜日

IPv4アドレス枯渇の経営への影響

ちまたではIPv4アドレスがついに枯渇すると話題になっています。本稿では、エンジニアではない事業家に向けてIPv4枯渇問題を説明します。

本稿の筆者もネットワークの専門家ではないので、間違った記述や偏見にもとづいた記述があるかもしれないことをお断りしておきます。ただしネットワークの専門家による記事は、末端の事業家やエンジニアには何の役にも立たないことが通例ですので、そうした記事とあわせてお読み頂ければと思います。

* IPv4枯渇問題とは何か

我々はインターネットを利用するときにIPアドレスという電話番号のような番号を利用しています。利用者はIPアドレスを一切意識しないで利用しているかもしれませんが、実際は、全ての機器にIPアドレスが割り振られています。

インターネットは、IPアドレスに完全に依存して作られており、IPアドレスが無ければ、通信は不可能です。

そのIPアドレスが現在足りなくなりつつあります。2011年中には新規割当の在庫は底をつくと予想されています。

いわば電話番号の桁数が足りなくなって新規の利用者が加入できなくなりそうだ、という状況なのです。

* IPv4アドレス枯渇したらどうなるのか

現在、IPアドレスの桁数を増やしたIPv6アドレスという新しい形式が準備されつつあります。新しい形式に乗り換えることができれば、とてつもない桁数のIPアドレスが提供されるので、枯渇の心配はなくなります。

しかし、残念なことにIPv6アドレスを利用するためには、既存の全世界にある全ての機器や通信網を置き換える必要性があり、切替には長い時間と大きな費用がかかるのです。

IPv4アドレスが枯渇したら順調にIPv6に切り替わると言う論者もいますが、その切替には最短でも数年以上かかると考えられています。そのあいだ、我々は限られたIPv4アドレスを何とかやりくりして事業を続けていくしかありません。

IPv6がうまく普及するかどうか私にはわかりませんが、差し迫ったIPv4枯渇問題に対してIPv6は全く無力なのです。

* 一般企業やユーザへの影響

インターネットにおいて専ら利用者に止まる企業は、当面IPv4アドレス枯渇の影響を気にする必要はありません。

なぜかと言うと、ユーザがインターネットを利用するとき、通常はファイアウォールやルータなどの内側からアクセスしています。その内側では、内線番号にあたるプライベートIPアドレスを利用してますので、IPv4アドレス枯渇の影響を受けません。

外側のIPv4アドレス(グローバルアドレス)は複数の企業やユーザ間で共有することができますし、そうした有効活用に必要な方策はインターネットプロバイダが講じることになるでしょう。この技術をネットワークアドレス変換(NAT)と呼びます。

例えば、電話番号が一つしかない会社であっても、外線発信は同時に何人もできる場合が多いでしょう。そのようにIPアドレスも発信側であれば電話番号はあまり重要ではないのです。

現在は電話番号(グローバルアドレス)が一つの利用団体ごとに一つ以上割り当てられていますが、それを複数の利用者や企業で共通のものを利用するということです。乱暴な話だと思われるかもしれませんが、外部に交換手となるサーバがあれば、理論的にはうまく通信をさばくことは可能です。

そのため、ユーザはインターネットを利用するときにIPv4アドレス枯渇の影響をあまり気にすることなく利用することができると思われます。多少影響があるとしても、接続速度が若干低下したり、接続料金が若干あがる程度でしょう。(ただし今後大幅に発展する途上国においてはユーザのIPv4アドレスも大幅に不足する恐れがあります)

IP電話(VoIP)や仮想専用線(VPN)などを利用していたり、自社でメールサーバを運用しているなど受信側の機能がある場合には、なんらかの影響が出る恐れがあります。対策にはコストがかかるかもしれませんが、IPv4アドレス枯渇によって事業に大きな影響が及ぶことはないでしょう。

* インターネットインフラ事業者への影響

インターネット接続やインターネットサーバなどを提供しているインフラ事業者には枯渇の影響があります。が、その程度は業種、業態、規模、社歴などにより様々であると考えられます。

ユーザにインターネット接続を提供する消費者向けインターネット接続事業者(いわゆるプロバイダ)は先ほど述べたようにアドレス変換(NAT等)によって、少ないIPv4アドレスを多数のユーザに提供することができます。そのためビジネスへの影響は限定的と考えられます。

消費者向けプロバイダにおいても、技術的にはコストのかかる多くの難しい問題を解決していかなければなりませんが、それによってビジネスの成長がストップすることは考えにくいのです。

IPv4アドレス枯渇により最も深刻な影響を受けると考えられるのがホスティング事業者です。ホスティングとは、インターネット上でビジネスをするためのサーバ機器を多量に運用して、それをインターネット事業者へ貸し出す事業です。

サーバ機器を動かすには、通常、一台につき一つのIPアドレスが必要になります。

大規模なホスティング事業者においては、数千台、数万台のサーバを運用しており、その一台ごとにIPアドレスが必要となります。もしIPv4アドレスが枯渇すれば、事業拡大ができなくなってしまいます。

既存のホスティング事業者がどのような解決策を講じているのか、まだあまり明らかになってはいませんが、これから先、IPv4アドレスの不足がビジネス上の制約になることは避けられないと思われます。

またサーバ向けのインターネット接続事業においても、同様にIPアドレスの数がビジネス上きわめて重要ですので、事業拡大に深刻な影響が生じます。

プロバイダも含め、インターネットインフラ事業領域においては今後の新規開業が難しくなると予想されます。新規開業に必要なIPアドレスの割当が受けられず、もし他社から購入するとすれば大幅な費用がかかり、既存の事業者との競争上不利になるためです。

そのためインターネットインフラ事業領域においては競争が低下し、値段が高止まりすることが予想されます。

ホスティングやデータセンター向け接続などの事業領域においては、新規開業ができなくなり、既存の事業者も事業拡大が困難になり、サーバ設置の価格は高騰する恐れがあります。

* その他のインターネット事業者への影響

IPアドレスが足りなくなることは、インターネットの発展にとって大きな阻害要因となる可能性があります。

楽天やmixiのようなインターネット事業者にとってもIPアドレスの確保は重大な問題です。彼らも数千台以上のサーバ機器を抱えているからです。ただ既存事業者は恐らく当面必要なIPv4アドレスを十分に確保しているはずで、今後有効活用の方策などを講じれば、ビジネスに深刻な影響がでることはないでしょう。

問題は、これからスタートする新しい企業や、資金の余裕がなくIPアドレスを十分に確保できない事業者です。

インターネットで事業を行うには、基本的にサーバ機器が必要となり、IPアドレスを確保する必要があります。

彼らはIPアドレスの割当を受けることができず、高いお金で購入する必要がでてくることが考えられます。そうなった場合、新規事業のコストは大きく跳ね上がり競争上きわめて不利な状況に置かれます。

こうなるとインターネット事業領域では新しい発展や改革が起こりにくくなることが考えられます。インターネット領域でのイノベーションが起こりにくくなることは、世界経済やベンチャーキャピタルなどの産業にとって大きなマイナスをもたらします。

* ではどうすればいいのか

皆様の会社がインターネットを利用者としてのみ使っているのであれば、大きな心配は不要です。あと数年して状況が明確になってから、インターネット関係の業者に相談して、対策を検討すれば良いでしょう。(現時点で相談してもはっきりした答えは得られないと思います)

インターネットインフラ事業者の方々は、そもそもこんな素人のページを読まないでしょうし、私が申し上げるようなことは何もありません。

インターネット上で事業を展開している事業家の方々は、これから来るIPv4アドレス枯渇時代に備えて、十分な検討と対策を行うべきです。

現時点では情報が交錯しており、まだ確固とした対策を決められるわけではありません。慌てて、業者やコンサルタントなどの口車に乗って高額の対策を打ったりしないほうが良いでしょう。

もし近い将来にIPアドレスが不足したりサーバを増設したりする予定があるのであれば、前倒しにIPアドレスを確保すべきです。遠い将来の分のIPアドレスを確保すべきかどうかはまだわかりません。予算があれば検討しても良いでしょう。その確保は信頼できる接続業者等に依頼すべきです。

また将来におけるIPアドレスの枯渇対策や有効活用の方策などについて、エンジニアに情報収集と検討を始めるよう指示すべきです。ただし現時点では時期尚早ですので、具体的な計画までは決めないほうが良いでしょう。

* なぜ問題が深刻化しているのか

なぜIPv4枯渇問題はここまで深刻化しているのでしょうか。

これまで日本でも電話番号の桁数が足りなくなって桁が増えるようなことが何度もありましたが、それによって電話が止まったり、多くの会社の事業計画に影響を及ぼすようなことはありませんでした。

石油も枯渇すると何十年前から言われ続けていますが、まだいまのところ、すぐに枯渇するという状況ではないようです。地上波デジタルテレビへの移行も、大きな混乱を伴いつつも何とかやれています。

なぜインターネットだけが深刻な危機に直面しているのでしょうか。

インターネットは一つの企業や組織によって運用されているわけではなく、多数の機関や事業者の集合体であり、そのうち誰一人としてIPアドレス枯渇に責任を負っている人がいないのです。

インターネットの技術面を指揮するIETFなどの団体は、現在の事態にあまり危機感を抱いていないようです。本来であればIPv4枯渇対策技術を緊急に策定する必要があるはずですが、あまりそうした技術の話を聞くことはありません。不思議です。

本来であればIPアドレスを提供することに責任があるはずのJPNIC(アドレス割当団体)内のIPv4枯渇対策タスクフォースに至っては、彼らが熱烈に推進するIPv6を普及する絶好の機会として、IPv4枯渇を歓迎するようなプレスリリースを発表するという倒錯ぶりです。

インターネットに大きな影響力を持つ既存の事業者(とくに米国の事業者)は、既に膨大なIPアドレスを確保していることも考えられます。その場合、彼らにとってはIPアドレスが枯渇するほうが得になります。

また個々の接続事業者は、通例、自社の持っているIPアドレスの活用状況や在庫状況を明らかにしておらず、どれくらい事業拡張・事業継続の見込みがあるのかを公開していません。

そのため末端のインターネット企業やエンジニアにとっては、今後どのように事態が展開するのか全く予想が付かないのが正直なところです。弊社でも、利用している接続事業者に今後の対応について問い合わせていますが、営業担当者からは何の情報も持っていないとの回答がありました。

このような状況下で、情報が錯綜して、誰も正しい判断を下せない状態になっているようです。

とくにインターネットを主導する諸団体の人々は、IPv6という一つの新技術に固執し、それが枯渇に当面間に合わないことが分かった後になっても他の技術をないがしろにして危機を招いた責任があると言えます。

これから先、新技術や新対策が急ピッチで用意され、枯渇が各社の事業に深刻な影響を及ぼすことは回避される可能性も十分あります。いずれにせよ、対策には大きなコストがかかるでしょうが、それが決算書を大きく毀損することにはならない可能性もあります。

その一方で、IPv4が完全に枯渇し、IPアドレスの価格が暴騰し、インターネットの新規起業のコストがかなり増大する可能性も考えられます。

ただしそれで起業成功例が減るかは疑問です。そもそも起業家とは、どんな逆境も乗り越えて困難に打ち勝って成功するものです。たかだか技術的にIPアドレスが足りないという問題が、本当に起業を殺すことにはならないでしょう。

万が一、最悪の事態になれば、インターネットがIPv4とIPv6の二つの世界に分断され、お互いが通信できない極めて混乱した事態になることも考えられます。しかし、そうした事態は当面は起こらないでしょうし、日本で起こるとは考えにくいです。

IPv6への全面移行が完了したのちには、IPv6移行コストを負担できない小企業、個人、大学研究室などのサーバが停止し、インターネットから幾らかの古い情報が消える可能性もあります。それも遠い未来の話です。

以上、現時点でのIPv4アドレス枯渇問題の解説でした。

状況は移り変わりますので、常に最新の情報を参照しながら行動されることをおすすめします。

2010年12月18日土曜日

ライフサイクルイノベーション

「キャズム」の著者、ジェフリー・ムーアの「ライフサイクルイノベーション」を読みました。いろいろと重要な示唆があるのですが、書籍としてはどうも読みにくく退屈な本でした。ウェブで検索すれば要約をまとめている方々がいますので、そういうのを読めば良いかもしれません。経営者としては読むべき本だとは思うんですが・・・・

本書の主旨は、事業や事業領域にはライフサイクルがあり、そのライフサイクルに適した各種のイノベーションを行うことと、成熟した事業領域から資源を引き抜き、本質的かつ成長する「コア」に資源を集中投入する、ということです。

本書ででてくるいくつかのテーマを以下にまとめます。
  • イノベーションは、市場の成熟度合いによって、いろいろなパターンがある。
  • 成長が期待でき、かつ、他社と差別化して競合優位を得るための本質的な部分である「コア」と、自社として特化していない部分、または成長への期待がもてない「コンテキスト」にわけて、コアに資源を集中する。
  • 事業の領域には、重要かつ実行の難しい「ミッション・クリティカル」領域と、実行の容易な「非ミッション・クリティカル」領域がある。コンテキスト領域は、なるべく単純化して非ミッションクリティカルに持ち込む。
  • イノベーションとは集中特化であり、数多くの方向の揃っていないイノベーションを行うと、中立化して意味が無くなってしまう。
  • 事業スタイルには、反復プロセスを重視して比較的低コストで大量販売を行う「ボリューム・オペレーション」と、個別の顧客に密接した営業を行い個別のプロセスで複雑かつ高額の販売を行う「コンプレックス・システム」型がある。この二つのスタイルは、主流となる型が交互に入れ替わっていく。
以下に本書にでてくるイノベーションの分類をまとめます。

初期市場・成長市場における製品リーダーシップイノベーション:
  • 破壊的イノベーション: 新規製品による新規市場創造
  • アプリケーション・イノベーション: 既存技術の新しい分野への応用による市場創造
  • 製品イノベーション: 既存市場に前例がない機能を投入して差別化
  • プラットフォーム・イノベーション: 下位にある既存テクノロジーの複雑さを隠蔽する
成熟市場における顧客インティマシーイノベーション:
  • 製品ライン拡張イノベーション: 既存製品を一部変更してサブカテゴリーを作る
  • 機能強化イノベーション: 既存製品に斬新な機能を追加して価値を増やす
  • マーケティング・イノベーション: 購買プロセスでの潜在的顧客とのやりとりで差別化する
  • 顧客エクスペリエンス・イノベーション: 製品そのものではなく、利用プロセス全体の体験を向上する
成熟市場におけるオペレーショナル・エクセレンスイノベーション:
  • バリュー・エンジニアリング・イノベーション: 製品の外部属性は保ったまま、仕様や設計や調達を変えてコストを下げる
  • インテグレーション・イノベーション: 多様な構成要素を一つにまとめて、顧客の維持管理コストを下げる
  • プロセス・イノベーション: 製品ではなく、その製造・提供プロセスからムダを省く
  • バリュー・マイグレーション・イノベーション: バリューチェーン内のコモディティ化した要素から離れて、より利益率が高い領域へシフトする
衰退市場におけるカテゴリー再生イノベーション:
  • 自立再生イノベーション: 自社内の資源を使って新規成長市場に乗り出す
  • 企業買収再生イノベーション: 外部企業を買収して新規成長市場に乗り出す
  • 収穫と撤退

2010年12月5日日曜日

医薬品販売規制パブリックコメント

首相官邸IT戦略本部による『「一般用医薬品のインターネット販売及びテレビ電話等を活用した医薬品販売」に関するパブリックコメントの募集』に応募しましたので、パブリックコメントの内容をこちらに掲載します。

インターネットによる一般医薬品販売の規制については、こちらの記事などをご参照頂ければと思います。

インターネットによる一般医薬品の販売が厚生労働省の省令により禁止され、ケンコーコムなど既に事業を行っていた事業者が撤退せざるを得ないという異例の事態が生じたものです。それに対して、ケンコーコムは訴訟を提起し、ヤフーや楽天などの事業者はeビジネス推進連合会という業界団体を組織して、厚生労働省の動きに対抗しています。

私の意見としてはパブリックコメントに書いたとおり、理論的にも実際的にも対面販売よりもインターネット販売のほうが安全性が劣るという理由がなく、規制は不当であるというものです。

インターネットによる一般医薬品販売の規制は極めて不当な物です。厚生労働省の省令として、正当な理由もなく、一つの業界が完全に潰されたという異例の事態です。私には、対面販売によって安全性が確保されるという理由の一つも見いだすことができません。

法規制にも、どういった経緯により誰がどのように意思決定したのかという透明性、法規制を必要とする現状や将来に関するデータと予測、法規制によってどのように目的を達成するのかという論理とシナリオ、そういったことを説明する責任があるのではないでしょうか。

厚生労働省が新薬を認可するときには製薬会社にとほうもなく詳細なデータを要求しているはずですが、自分が何かをやるときは一つの根拠もなくてよいのですから、役人というのは良い商売ですね。

以下、パブリックコメント本文です。少し論点が整理不足気味で申し訳ありません。



(1) 一般用医薬品のインターネット販売及びテレビ電話等を活用した医薬品販売の規制緩和への賛否
(2) 賛否の理由
(3) 一般用医薬品のインターネット販売及びテレビ電話等を活用した医薬品販売を行った場合でも、安全が確保される仕組みがないか。また、もしあるとすればその具体的アイデア


(1)賛成する。
(2)理由1: 対面での医薬品販売時にくらべてインターネット販売が安全性で劣るという主張には根拠がない。

対面における一般用医薬品の購入時に薬剤師から説明や質問を受けることは実質的に行われていない。薬剤師は店頭には限られた人数しかおらず、通常の販売時に質問を受けたり説明を行うべく待機している状態ではない。実際に薬店薬局で調査してみればわかることだが、第一類医薬品であっても、単に薬剤師がレジを打って販売するだけという店も多い。

説明や質問が行われているとしても、購入時にレジで行われるのみであり、時間的に限られた中で、十分な質問や応答を行うことができない。顧客が質問や疑問を持っているとしても、限られた時間内であるので十分な質疑を尽くせることは期待できない。客の並んだレジでどのようにどの程度の説明を行うというのか。

かといって、処方箋医薬品の交付のようにカウンターなどで座って数分の説明時間をかけるとするのは経済的にも顧客の利便性の面からもあり得ない話である。問診を望む客は薬局ではなく診療所へ行くだろう。顧客は利便性と迅速性をもとめて一般用医薬品を買うのである。

すなわち対面販売では十分な説明が行われて安全性が確保されるというのは虚構である。

もし対面での医薬品販売時にくらべてインターネット販売が安全性で劣るという主張により規制を行うのであれば、実際の販売の実態を無作為に調査して、通常の利用シナリオにおいて、インターネット販売では情報提供等が有意に劣っており、かつ、その情報提供の不十分さにより実際の健康被害につながり、かつ、その予想される被害の大きさと頻度が許容できるリスクを超えている、という調査結果がなければならない。その証拠がなく規制をすることは不当である。

そもそも今回の規制において厚生労働省は、インターネット販売において具体的に実際の対面販売とどのように異なることによりどのような危険が予期されるのか、その根拠を提示していない。パブリックコメントで規制緩和の理由を聞く前に、まず厚生労働省が規制の根拠を提示すべきである。


理由2: インターネットでの医薬品販売では、対面販売に比べて優れた情報提供を行い、より高い安全性と顧客の利便性を確保することができる。

A.顧客に十分な情報提供を行い、選択肢を与えることにより、顧客自身が商品の購入判断を行うことが、最も安全性を高めるのに適した方法である。

現在の薬局薬店では、薬をレジの後ろの棚に隠すなどしており、顧客に情報や選択肢を与えない方針をとっている。それは顧客の情報へのアクセスを阻み、安全性を阻害する行為である。

薬剤師による対面の情報提供といっても、薬剤師は顧客の個別の健康情報を把握しているわけでもなく、顧客個別の健康情報を把握するのに十分な時間も権限も手段もない。患者に検査や診断などを行うことができる医師とは異なり、薬剤師は単に薬の一般的性質やリスクを説明できるに過ぎず、注意書きを超えた本質的な安全性向上策が講じられるわけではない。全ての顧客に対して個別の健康情報を聴取するというのは現実的に不可能である。

それどころか、薬局薬店の薬剤師は売っている個々の製品がどのような成分を含有しているかすら把握していない場合がある。

それに対して、顧客本人は自らの既往症、体質、服用している薬などについて、薬店薬局の薬剤師よりも多くの情報を持っている。そのため、薬剤に関する十分な情報が提供されれば、薬剤師よりも的確な判断を行うことができる。

B.インターネット販売では、詳細な添付文書を掲載し、禁忌条件などのチェックリストを作成してチェック必須とすることができる。

インターネットでは、その性質上、顧客に豊富な選択肢と詳細な情報を提供することができる。箱に記載された小さな成分表や注意書きとは異なる、安全性や効能に関する詳細な添付文書を掲載することができる。

また顧客も時間的制約などにとらわれることなく、購入前に詳細な文書を閲覧して、ゆっくりと比較・考慮・検討することができる。

それにより、上記Aの理由により、顧客により高い安全性と利便性を提供できる。

また薬によっては、服用禁忌条件のチェックリストなどを作成し、全ての項目にチェックした場合のみ販売できるようにすることができる。

さらにインターネットであれば、特定の薬に限らず、医薬品のカテゴリや疾病や健康などに関する詳細な情報提供を行うページを作成することも可能である。インターネット医薬品販売サイトにおいて、薬剤師が広く認められた学術的知見に基づき、情報提供のページを作成することが許可されるとすれば、安全な医薬品選びなどを助けることができる。

C.インターネット販売であれば、薬剤師に時間をかけて詳細な質問を送り、それにたいして十分な回答を受けることができる。

一般の薬局薬店とは異なり、インターネット販売店であれば薬剤師は顧客への情報提供に専念することが容易である。メールによって質問を受けるのであれば、顧客、薬剤師ともに時間を有効に活用して余裕を持って詳細な質問と回答を行うことができる。

以上の理由から、医薬品のインターネット販売を規制する省令には一切の根拠がなく、安全性を低下させ、薬局薬店の利益を保護するための極めて不当な規制であると言える。ただちに廃止するべきである。


(3)理由1で述べたとおり、インターネット販売が薬局薬店での販売よりも安全性が劣ることはないので、特別に安全を確保することは不要である。

それどころか薬局薬店での対面販売においても有害無益な規制を緩和すべきであると考える。高度な教育を受けた薬剤師を店でレジ打ちさせることは多大なムダである。

もしインターネット販売を、店頭よりも安全な販売手段として優位に位置づけるのであれば、理由2に述べた施策を全ての店舗が行うことにより、店頭よりも安全な販売手段となる。その場合は、第一類医薬品の販売を含む、全ての一般用医薬品の販売を可能とするべきである。また将来的には、処方された医薬品を通販で購入・受け取りできるようにすべきである。

また安全確保策は必ずしも個々の店舗で行う必要はなく、政府や業界団体によって一般用医薬品のデータベースや薬剤師へのメールや電話での相談窓口などを整備しておけば、全体のコストを抑えることが出来る。

2010年11月5日金曜日

新しい機序の睡眠薬 Almorexant が開発最終段階に

本ブログでは、ビジネスやITにとどまらず科学や医学の話題なども時折書いていく予定です。

今日は、新しく開発中の睡眠薬についてお話しします。少し内容が専門的過ぎたらごめんなさい。次の医学・科学記事はもう少し分かりやすいものにしますね。

Almorexantは、スイスのActelion社が臨床試験中の新しい睡眠薬です。これまでの睡眠薬とは異なり、覚醒と食欲や報酬探求に関連したオレキシン受容体をターゲットとしています。

2009年12月、Almorexantは開発の最終段階である第三相臨床試験の一部を完了しました。短期の臨床試験の結果、中途覚醒時間を有意に改善することが確認されました。

これまでの睡眠薬は、GABA受容体(ベンゾジアゼピン受容体)に働きかけるものが中心でした。GABA受容体は、鎮静に関連しており、そこに結合する薬を飲むことで、不安を抑えたり、眠りやすくしたりします。効き目の強い薬は、麻酔薬としても使われます。

オレキシンは1990年代に発見されたリガンドであり、まだオレキシン受容体に作用する薬は一つも発売されていません。各社が睡眠薬やナルコレプシー治療薬として開発競争を行っていますが、その中で最も開発が進んでいるものがAlmorexantです。

オレキシンは覚醒状態の維持に必要な物質と考えられ、ナルコレプシー患者では脳脊髄液中のオレキシン濃度が減少していることが判明しています。すなわちオレキシンが減少すると眠気をもたらし、増加すると覚醒をもたらすと考えられています。

そこでAlmorexantなどのオレキシン受容体阻害剤は、オレキシンの受容体への結合を妨げ、それにより眠気をもたらします。Almorexantは、経口で摂取することができ、血液脳関門を超えて、脳内の視床下部にあるオレキシン受容体を可逆的に阻害します。

オレキシン受容体にはOX1とOX2の二種類が判明していますが、Almorexantは両方に作用します。

オレキシン受容体阻害剤は、これまでの睡眠薬とは全く異なる作用機序を持っており、安全性や有効性などの上で、より優れた薬となることが期待されているのです。これまでのベンゾジアゼピン系睡眠薬は、効き目が強ければ強いほど翌日にふらつきなどが生じる副作用があるのが大きな弱点でした。

懸念される点としては、この薬が食欲を増進ないし減退させたり、報酬系に働くために依存性や精神神経副作用があったりするのではないかという疑いです。それは、これからの長期臨床試験で明らかにされるでしょう。

Actelion社はGSK(Glaxo Smith Klein)社と共同での全世界販売プログラムを準備しています(ただし日本を除く)。

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参考文献:

  1. Actelion, News release 2009 Dec 21: Investigational dual orexin receptor antagonist almorexant meets primary endpoint in two-week phase III study in patients suffering from primary insomnia 
  2. Wikipedia, Orexin: http://en.wikipedia.org/wiki/Orexin
  3. Glaxo Smith Klein, Product Development Pipeline, February 2010: http://www.gsk.com/investors/product_pipeline/docs/GSK-product-pipeline-Feb-2010.pdf

2010/11/5: 一部誤訳がありましたので修正しました。


2010年10月26日火曜日

ストーリーとしての競争戦略 - 楠木建

一橋大学の教授による競争戦略の本です。

「ストーリーとしての競争戦略」というと、物語のようなもので競争戦略を語るのかと思ってしまいますが、そうではありません。戦略を、時間軸上に展開されるビジネス上の打ち手、すなわち決定や目標(構成要素)と、それらをつなぐ因果関係の線で、一つのグラフとして捉えるということです。そのグラフを本書では「ストーリー」と呼んでいます。

私はこれまで競争戦略の本をあまり読んでいませんので、本書が初めて読む本格的な競争戦略論の書籍ということになります。

本書は、著者独特の考え方の紹介に止まるものではなく、競争戦略の全体像を広い視点で分かりやすく描いています。競争戦略の初学者にとっては、うってつけの本と言えるでしょう。本書の説明と論理は非常に明確であり、本書を読み終えてから、私が企業戦略を考えるときの視野が一気にクリアになった観すらあります。

弊社でも全員でこれを読んで「戦略とは何か」ということについて共通の視点と語彙を持てるようにする予定です。

私にとって一つの嬉しい驚きは、これを書いたのが日本人であるということです。日本人には、分厚くて、網羅的で、事例が豊富で、分かりやすく、面白く、論理的で、学習的であるような教科書的な本を書くことは出来ないと思い込んでいたので、本書には驚かされました。

また、このような骨太の本がベストセラーとなって話題になっているのも、とても嬉しいことです。日本には優秀な方がまだまだ大勢いるのでしょうね。

以下、しばし本書の内容を紹介します。

本書の骨子は、ビジネス上の打ち手と、それをつなぐ因果関係を組み立てて、全体の相互作用として他社が真似の出来ない優位性を手に入れ、長期的な利益を確保するということです。

打ち手は、差別化要因(SP)と、組織能力要因(OC)に分かれており、即効性のあるSPと、徐々に蓄積していくOCの組み合わせによって、強力なストーリーを組み立てるというものです。

ストーリーは、個々の打ち手が一つのコンセプトのもとに、一貫性を持ってつながり、それによって競争優位を確立します。そして、そこには他社が真似出来ないクリティカル・コア(奇手、妙手)があり、模倣を防ぐということです。

一貫性とは、すなわち各打ち手の間が、明確に実証された因果関係でつながり、さらに一本ではなく複数の線でつながっているということです。ゴール(競争優位)に向かって、複数の点と線が絡み合いながら突き進んでいくということです。

本書の視点は、経営全体を捉えており、そして論理的ですので、この枠組みは経営を理解する上で、確実に視界をクリアにします。また細かい部分まで作り込まれており、実務と照らし合わせて理解することが容易です。

ただし完全に新規起業する会社や新規事業にとって、創業当初から徹底した競争戦略の打ち手を考えるというのは難しいでしょう。実際には試行錯誤しながら試せる打ち手を全て試していくというものが最初のフェーズになります。それから顧客が見つかり、組織として回るようになってから、本書にあるような競争戦略の出番となると思われます。

試行錯誤しながら打ち手を決める方法については、「アントレプレナーの教科書」のような書籍が参考になると思われます。

もし当初から完全にシナリオを決めうちに描いて突撃すると、本書にあるウェブバンの事例のような破滅的展開が待ち受けてるかもしれません。そのシナリオは、想像に基づくもので、因果関係の確かさが不明確すぎるからです。

経営戦略に興味のある方であれば、皆さん読まれることをおすすめします。

2010年10月23日土曜日

プロフェッショナル・サービス・ファーム

日本のソフトウェアビジネスの95%を占める受託開発産業についての理解が深まるのではないかと思い、本書を読んでみました。

本書は米国におけるコンサルティング、法律事務所、会計事務所、投資銀行などの専門的サービスを提供する組織の経営について書かれた本です。そうした「ファーム」といわれる組織のパートナー(経営者)に向けた書籍です。

おもに米国におけるパートナー経営の「ファーム」について書かれています。日本では同種の組織は、数量や歴史も数少なく、とくにIT業界においては皆無に近いので、あまり参考にならない部分も多いかと思われます。

「専門的サービスとは何か」というような基礎的な事項よりも、高度なレベルの経営論が中心ですので、本書を役立てられるのは、既に大所帯の「ファーム」を確立している一部の組織だけではないかと思いました。

充実した内容の書籍ですが、私にとっては無用の本でした。ただし、クライアントとの関係確立や営業論などを書いた部分は有用でしたが。



目次:

  1. 基本的問題
  2. クライアントの問題
  3. 人材の問題
  4. 経営管理の問題
  5. パートナーシップの問題
  6. 分散と集中の問題
  7. 総括

大空襲と原爆は本当に必要だったのか

刺激的な邦題の本です。原題も刺激的で"Among the Dead Cities - Was the Allied Bombing of Civilians in WWII a Necessity or a Crime?"というタイトルです。

英国人の哲学者である著者が、おもに第二次大戦における英国によるドイツ都市への無差別爆撃をテーマに、連合国によるドイツや日本の都市への無差別爆撃は、不可避のことであったのか、道義的犯罪であったのかを緻密に分析した書籍です。

本書では、イギリス空軍の戦略、爆撃を体験した人の話、爆撃に反対した人々、爆撃に賛成した人々など様々な視点から、無差別爆撃の犯罪性を明らかにしていきます。

著者は、連合国による無差別爆撃も明らかに人道的犯罪であったと明らかにし、今後も同じようなことが起こることを避けるべきであると断じます。アメリカ空軍は市民への攻撃を禁止したジュネーブ条約第一追加議定書に署名しておらず、依然として無差別爆撃を攻撃オプションとして保持しているとしています。

真珠湾攻撃を「軍事拠点への攻撃に過ぎない」と断じ、9/11のテロと原爆投下を同列に論じる本書がアメリカやイギリスで主流として受け入れられるとは思いませんが、刺激的であり、読む価値のある本であると言えます。

もちろん著者にはナチスドイツの侵略やホロコースト、大日本帝国の侵略や捕虜虐待などを連合国の罪と相殺して軽くしようという意図は少しもありません。そうではなく、勝者の行為であれ、敗者の行為であれ、人道に対する罪は厳しく断罪されるべきであるとの立場です。



目次

  1. 空襲=無差別攻撃は犯罪だったのか 
  2. 爆撃戦 
  3. 空襲された人びとの体験 
  4. 空襲した側の考え方 
  5. 良心の声 
  6. 無差別爆撃への反対論 
  7. 無差別爆撃への擁護論 
  8. 結論