2013年10月3日木曜日

オープンブックによるエンパワーメントと、管理会計としてのアメーバ経営

(本稿はアメーバ経営について基礎知識がある人を対象にしています。アメーバ経営は京セラが発明した経営システムです。基礎知識のない方は、京セラの創業者である稲盛和夫氏が書いたアメーバ経営 (日経ビジネス人文庫)を読むと良いでしょう)

アメーバ経営の本を読み終えて思ったが、アメーバ経営には二つの側面がある。

一つには、オープンブック(従業員への会計データの公開)によるエンパワーメント(権限委譲)という側面である。

もう一つには、管理会計の一つの合理的な手法という側面である。


アメーバ会計が管理会計の一つの手法であることは自明であり、論を待たない。

管理会計の書籍などに記載されている既存の管理会計の手法は、合理的で緻密な手法とは言いにくいものが多いように思う。ざっくりした恣意的な数値しか得られず、管理会計は過去の遺物のようにも見える。IT化などが進展した現在では、もっと細かい数値が容易に得られるので、恣意的な金額の配賦には合理性がないように思う。

それに対して、アメーバ経営は数人の細かい経営グループごとに利益を算出し、社内の財やサービスのやりとりを売買交渉で配賦することにより、経済学的にみて正当な数値が求められるように工夫している。

小単位の利益データが日次で得られるという点で、一人一人の従業員が利益=経営品質を把握しながら経営することを容易にするようにしている。

きわめて合理的で分かりやすく優れた手法であるとおもう。

しかしながら、管理会計の手法としてみた場合、製造業・流通業などのように日々のオペレーションから利益が生み出される、オペレーション重視の企業には適用しやすいが、そうではない企業には必ずしも適用できないように思う。

研究開発が重要な企業や、もしくは純粋なサービス業のように、利益や売上などの経営データが日々の経営品質よりもだいぶ遅行して反映されるような企業では、アメーバ会計はそのままでは適用しにくいのではないか。

そうした企業では、管理会計とは別にプロセス自体の品質を管理する手法が必要であると同時に、ポートフォリオ理論のような投資・ファイナンスの手法によって経営管理を行っていくことが求められるのであろう。


もう一つのオープンブックによるエンパワーメントという側面であるが、私にはこちらこそがアメーバ経営の本質であるように思われた。

通常の被雇用者である労働者には、経営マインドが欠落している。

すなわち自分のやっている仕事が、どのように自社にたいして利益をもたらしているのか、それが理解できていない。どういう仕事をすれば利益があがるのか分かっていない。

これは労働者にとっては自分の仕事の価値や、やるべきことを見いだすことができず、ストレスフルな状況である。

それと同時に、企業としてみれば、労働者の行動が必ずしも利益につながるとは限らず、経営の成績を落とす原因となる。

とくに問題となるのは、何が会社にとって利益になるのかわからない労働者は、正しい価値観や評価尺度を持たないので、迷走して自分勝手な行動に走ったり、意味のない派閥やルールなどを作ったりすることであろう。

利益という共通の目的と尺度があれば、それに向かって全社が共同して働くことができるので、無益なセクショナリズムや官僚主義は自ずと減ることになろう。

また管理職の育成という観点から見れば、経営マインドの持たない管理職は極めて有害な存在であるが、そもそも経営の意味を分からないまま働いてきた従業員にいきなり経営マインドを持て、というのは無理な話である。

アメーバ経営では、個々のアメーバに利益などの経営数値を開示するとともに、アメーバごとに経営の裁量権を持たせて、アメーバ単位で自由な経営活動が行えるようにしている。

これはアメーバのメンバー一人一人が経営者としてのマインドをもって、利益につながる活動を裁量を持って行えるということであり、従業員をいっぱしの経営者に育てるという目標がある。

これこそがアメーバ経営の本質であると私は思う。

経営の数値もわからず、何をやれば会社の利益につながるのか、それが分からない状態で働けというのは酷な話であるし、無駄な話であると思う。

一人一人が経営者としての意識を持ち、業務に主体性をもって利益を向上させるという共通の目標を持って働けば、仕事はずっと楽しいものになり、能力向上の余地も増えるだろう。

そのためには会計データを全社で共有することは必須である。KPIなどという言葉が最近は流行だが、会計データこそ企業にとって最も大切なKPIの一つであることは論を待たない。

その会計データを分かりやすくするために、一人一人のメンバーが自分の業務に関わる経営成績を理解できるように、細かく細分化するための一つの手法がアメーバという会計方式なのである。


ここで信賞必罰の人事体系などを導入すべきと思う人もいるかもしれないが、アメーバ経営では、アメーバの成績と報酬などを連動させることはしない。

これは、あくまでも会社全体の利益を重視し、偶然にも左右される結果によって社員を評価しないという哲学でもある。また、アメーバが暴走し、会社を犠牲にして自分の利益を極大化させようとすることを防ぐためでもある。

アメリカ式の業績連動人事は、一見すると合理的なようにも見えるが、本当に業績主義が良いのであれば大企業などに勤めず、自分でベンチャー企業を立ち上げれば良いのである。あくまで組織内であれば、業績ではなく、プロセスで評価されるべきであろう。

アメーバ経営について詳しく学ぶには以下の書籍"アメーバ経営論―ミニ・プロフィットセンターのメカニズムと導入"をお勧めする。書店で探した中では、もっともアメーバ経営について具体的に書かれた本のように思われた。学術書であり研究手法などについての能書きが長いので、そこを飛ばして読めば読みやすい。

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