2010年11月5日金曜日

新しい機序の睡眠薬 Almorexant が開発最終段階に

本ブログでは、ビジネスやITにとどまらず科学や医学の話題なども時折書いていく予定です。

今日は、新しく開発中の睡眠薬についてお話しします。少し内容が専門的過ぎたらごめんなさい。次の医学・科学記事はもう少し分かりやすいものにしますね。

Almorexantは、スイスのActelion社が臨床試験中の新しい睡眠薬です。これまでの睡眠薬とは異なり、覚醒と食欲や報酬探求に関連したオレキシン受容体をターゲットとしています。

2009年12月、Almorexantは開発の最終段階である第三相臨床試験の一部を完了しました。短期の臨床試験の結果、中途覚醒時間を有意に改善することが確認されました。

これまでの睡眠薬は、GABA受容体(ベンゾジアゼピン受容体)に働きかけるものが中心でした。GABA受容体は、鎮静に関連しており、そこに結合する薬を飲むことで、不安を抑えたり、眠りやすくしたりします。効き目の強い薬は、麻酔薬としても使われます。

オレキシンは1990年代に発見されたリガンドであり、まだオレキシン受容体に作用する薬は一つも発売されていません。各社が睡眠薬やナルコレプシー治療薬として開発競争を行っていますが、その中で最も開発が進んでいるものがAlmorexantです。

オレキシンは覚醒状態の維持に必要な物質と考えられ、ナルコレプシー患者では脳脊髄液中のオレキシン濃度が減少していることが判明しています。すなわちオレキシンが減少すると眠気をもたらし、増加すると覚醒をもたらすと考えられています。

そこでAlmorexantなどのオレキシン受容体阻害剤は、オレキシンの受容体への結合を妨げ、それにより眠気をもたらします。Almorexantは、経口で摂取することができ、血液脳関門を超えて、脳内の視床下部にあるオレキシン受容体を可逆的に阻害します。

オレキシン受容体にはOX1とOX2の二種類が判明していますが、Almorexantは両方に作用します。

オレキシン受容体阻害剤は、これまでの睡眠薬とは全く異なる作用機序を持っており、安全性や有効性などの上で、より優れた薬となることが期待されているのです。これまでのベンゾジアゼピン系睡眠薬は、効き目が強ければ強いほど翌日にふらつきなどが生じる副作用があるのが大きな弱点でした。

懸念される点としては、この薬が食欲を増進ないし減退させたり、報酬系に働くために依存性や精神神経副作用があったりするのではないかという疑いです。それは、これからの長期臨床試験で明らかにされるでしょう。

Actelion社はGSK(Glaxo Smith Klein)社と共同での全世界販売プログラムを準備しています(ただし日本を除く)。

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参考文献:

  1. Actelion, News release 2009 Dec 21: Investigational dual orexin receptor antagonist almorexant meets primary endpoint in two-week phase III study in patients suffering from primary insomnia 
  2. Wikipedia, Orexin: http://en.wikipedia.org/wiki/Orexin
  3. Glaxo Smith Klein, Product Development Pipeline, February 2010: http://www.gsk.com/investors/product_pipeline/docs/GSK-product-pipeline-Feb-2010.pdf

2010/11/5: 一部誤訳がありましたので修正しました。