2011年12月30日金曜日

日経サイエンスより: がんワクチン新時代

日経サイエンス」という雑誌があるのをご存じでしょうか。

この雑誌は、米国のScientific Americanという一般向け科学雑誌の翻訳ですが、とても高い水準で編集されており、素晴らしい雑誌です。科学者や技術者だけでなく、知的読み物を楽しむ多くの人に愛されています。面白いところでは芥川賞作家にはこの雑誌を購読している人が二人もいるそうです。

今の時代、すべての知的職業人は科学的思考法を身につけるべきだと私は考えます。世の中に氾濫する情報から嘘を見抜き、有効性のある行動や思考をするためには、科学的思考法なくしては不可能です。この雑誌の記事は、原則的に科学的手法に基づいて書かれていますので、自然に科学的思考を身につけることができます。

この雑誌からは、科学的思考法だけでなく、知的な文章を書く方法、知的な議論をする方法を学ぶこともできます。日本語で読める定期刊行物としては、最も知的水準の高いものではないかと考えます。

全ての日本人は「日経サイエンス」を定期購読すべし! と私は強く推薦します。私は中学生の頃からこの雑誌をずっと読んでおり、知的発達に大いに役立ちました。自分のためにも、お子さんのためにも、この雑誌をぜひ購読しましょう。書店にも置いてありますので、まずは書店で一冊買ってみてください。少し難しい記事もあるかと思いますが、その骨太の知性こそが知的発達につながるのです!

さて、宣伝文句だけつらねていても説得力がありませんので、これから折に触れて当ブログ上で「日経サイエンス」の記事の紹介をしていこうと思います。

今日は2012年1月号より「がんワクチン新時代」という記事を紹介します。


癌の免疫療法というものは長らく研究が進められていましたが、これまでは残念ながらほとんどうまくいった例はありませんでした。癌の免疫療法というものは、人間の持つ免疫系を刺激して、それによって癌を攻撃するというアイデアですが、これまでの試験結果は落胆に終わるばかりで先行きが極めて危ぶまれていました。

それが2010年に米国でプロベンジという初の癌治療用ワクチンが承認されたことで変わってくる可能性が見えてきました。

ターニングポイントとなったのは、2002年の発見でした。患者の体内から癌細胞を取り出してそれをヘルパーT細胞に憶えさせて、そのT細胞を大量に培養して、体内に戻したところ、癌が大きく縮小したのです。それまではキラーT細胞のみを増殖させていましたが、その方法は失敗に終わっていました。この発見により、キラー細胞とヘルパーT細胞の両方を刺激すれば、癌を殺せるということが分かりました。

プロベンジも、患者の体内の免疫細胞を取り出して、それに癌細胞の断片を攻撃するよう教え込ませて、それから体内に戻すという手間のかかる方法をとっています。問題はその費用で、生存期間を4ヶ月延長するために750万円の費用がかかるのです。

他の製薬会社では、癌細胞に特徴的なタンパク質の断片(ペプチド)を作りだし、それを患者に投与する方法を模索しています。この方法であれば、多くの患者に共通のペプチドを使うことができるので、コストは大幅に安くなります。

この記事は、実際に癌ワクチンを開発している会社の社長が書いているので、臨場感があり、面白い記事でした。

日本版のみのコラムでは、大阪大学が開発しているWT1ペプチドワクチンが紹介されていました。これは多くの種類の癌に効く可能性があるワクチンで、既に国内で臨床試験に入っており、これまでのところ有望な結果が得られているそうです。

注: 誌面では「癌」ではなく「がん」という表記が使われていますが、本記事中ではPC上で読みやすくするため、癌という表現を使いました。医学的には「がん」という表記のほうが広く使われています。

恋するプロセス: 非モテ男性は間違った考え方をやめれば彼女ができる

近頃、「女性と付き合ったこともないし、その望みも全く無い」というようなことを言う男性がネットでは増えてるなあ、と思いました。現実にも、プログラマなどの仕事をしている人にはそういう人がいるようです。

彼氏や結婚相手を探している女性が大勢いるのに、女性とのつきあい方が分からない男性が増えているのは、非常にもったいないことだと思います。

こういうことをソフトウェアビジネスのブログで書くのもなんですが、独身男性プログラマの皆さんのお役に立つのではないかと思い、こちらに書かせて頂きます。

自分はモテないと思っている男性は、間違った考え方を持っていて、そのためにモテない状態になっているのです。それらを改めれば、モテモテとは行かないまでも、普通の一般男性と同じくらいにはなれるでしょう。


最大の間違った考え方は、どのようにして女性と交際を始めるかについてです。

非モテ男性は、しばしば、そのプロセスを

女性と知り合う→好きになる→恋に落ちる→告白するorデートに誘う→付き合う

と考えています。しかし、現在の日本においては、自然なプロセスは、

女性と知り合う→とりあえず食事に誘う→お互い気に入れば付き合う

となります。

前者の「惚れてから告白」メソッドの問題点は、多数あります。惚れてから告白だと振られれば傷つきますし、そもそも恋愛の機会が大きく減ってしまいます。それに、どうしても高望みしがちになります。最大の問題は、惚れてからデートに誘うと、気負いすぎて、女性に「気持ち悪い」と思われがちになることです。

女性を食事に誘うときは、なるべく気負い無く自然な感じで誘うほど成功の可能性は高まります。ですから、特別な感情を持つ前に、少しだけ好意がある人を誘うのが一番良いのです。それなら振られても傷つきませんしね。

特別惚れた相手じゃなくても、女性と付き合うというのは良いことです。人間として成長させてくれますし、付き合えばどんどん好きになっていくということもあるでしょう。

ですから、気軽に多くの女性を食事に誘って、交際のスキルを高めて、誰かと付き合うことを強くお勧めします。


次に多くの人が間違っているのは「自分は男として魅力がないからモテない」と思っていることです。それは90%以上の確率で間違っているでしょう。いえ、べつにあなたに魅力がないことを否定するわけではありませんが、現実には、多くの魅力のない男性が女性と付き合っているわけです。魅力がないことは付き合えない原因ではないのです。

女性にモテないのは、自分を売り込む方法が下手で、売り込む回数が足りないだけです。すなわち営業努力が足りないのです。

経営の世界には「商品2分に売り8分」という言葉があります。商品自体の力よりも、営業の力のほうがずっと大切だということです。

ビジネスの世界では誰もが営業マンにうんざりしていますので、営業とは非常に難しい仕事です。ですが、ありがたいことに、日本では美女以外の独身女性は男性の誘いを待っていますので、無難にアプローチすることができれば、あまり嫌がられることはないでしょう。

とにかく気負い無く、自然に誘い、断られたらすんなり諦めることです。あとは、それを繰り返していれば、どんどんスキルがあがっていき、うまく行くようになるでしょう。

そもそも女性と知り合う機会がないという人もいるかもしれませんが、ちょっと行動範囲を広げれば色々なところに女性はいるものです。プログラマの狭い世界にいる希な女性を口説くよりも、女性が多いところにいる女性を口説くほうが難易度はずっと低いでしょう。

参考書としては「モテる技術」という本をおすすめします。この本はアメリカの本なので、日本の社会には合わない点もありますが、とても具体的で正しいことが書いてあるので良い内容です。モテ本をあまり読んだことがあるわけではないので、これがベストとは言い切れませんけど。この本はセックスだけが目的みたいに書いてありますが、そうではない人にも役立つはずです。

ま、本来はこんな本を読んで難しく考えずとも、とにかくお食事の回数をこなせば良いのです。べつにデートや恋愛と考えずとも、女性とお食事して悪いことなど何もないのですから。

2011年12月9日金曜日

動画販売のXCREAMが英語、韓国語、中国語での販売に対応!


数年前から私が開発を行っている動画販売のXCREAMが英語韓国語、中国語(簡体字繁体字)での販売に対応しました。

XCREAMは、誰でも簡単に動画やファイルを販売することができるコンテンツ販売ショッピングモールです。固定費用無料で、売れた分だけ手数料を頂くモデルにより、小規模な制作者であってもお気軽に動画販売を行うことができるのが特徴です。

今回の外国語対応により、海外への動画販売が誰でも簡単に行えるようになりました。

日本には、アニメやアダルトビデオを初めとした世界的に人気のコンテンツが多数あります。しかし、これまではその販売経路が確保されていないために、海賊版などでしか流通しておらず、折角の商機を逃しているという傾向がありました。

XCREAMでは、既に既存売上の15%が海外からの売上となっておりますので、今後とも海外比率を高めて行きたいと考えております。

ぜひ、これを機会にXCREAMでのコンテンツ販売をご検討ください。

固定費無料ですので、リスクゼロでの海外市場参入が可能です!


さて少し技術的な内幕もお話しします。日本のIT産業はこれまで国内市場にとどまっていましたので、多言語化のノウハウが不足しているように思います。これから世界市場を目指すビジネスは多言語化ウェブサイトの実装が不可欠になるので、なにかの参考になれば幸いです。

ウェブサイトの多言語化には3つの要素があります。

  1. HTMLの多言語化
  2. 表示するメッセージの多言語化
  3. データベースの多言語化
このうちメッセージの多言語化に関しては、gettextなどのモジュールを使うのが一般的でしょう。今回は、その代わりに弊社独自フレームワークのフィルタとしてメッセージの変換を実装しております。

HTMLの多言語化にどのような方式があるのか、私はよく調べていませんが、今回はHTMLの中の文字列をマッチして置き換えすることにより多言語化をしております。HTML自体に手を加えることはなるべく避けたいという判断です。

ここまではアプリケーションコードに一切手を加えることなく、フレームワーク側だけで対応することができました。

データベースの多言語化はアプリケーション固有の問題ですので、アプリケーション側で対応する必要があります。これに関しても、データベースから取得した結果の配列を一括で変換するメソッドを記述したことにより、一行の追加でデータベースの多言語化が可能になりました。

フレームワークの改修から始めて、リリースまで数ヶ月で完了しましたので、意外と多言語化は難しいものではないな、という印象です。

但し、正しいやり方でやらないと管理するHTMLやコードの数がふくれあがったりする恐れがありますので、必ずフレームワーク側で適切な対処を行うべきだと思います。

海と物流の物語たち

今回は、海にまつわる物流の物語を書いた本を3冊ご紹介します。


コンテナ物語―世界を変えたのは「箱」の発明だった」は、現在のグローバル経済の礎となっているコンテナ海運の歴史について語った本になります。

コンテナ物流は、アメリカの一人の小さなトラック運送業者によってスタートされました。

それまでの物流というと、すべてバラで小さい荷物を船などの輸送手段に積み込んでいました。そのために船が港に着くたびに、数多くの港湾労働者が船にむらがり、一つ一つ手作業で荷物を運んでは積み替えていました。そのためにかかるコストと時間は膨大なもので、それが輸送を非効率的にしていました。また、そのさいに盗難や紛失、破損なども無数に発生していました。

コンテナが登場したことで、船の荷物の搭載や引き下ろしは巨大なクレーン(ガントリークレーン)によって一瞬で終わる時代になりました。コンテナは施錠されており、荷物が盗まれる危険性も減っています。港に着いた船は数日で出航してしまうので、船乗りも港で浮き名を流す暇すらない、というわけです。

いまやほとんどの荷物は、コンテナによって工場から目的地まで一気に輸送されます。超大型の船により、多数のコンテナを大型港から大型港へと安価に輸送できるようになりました。そのために物流のコストは大きく下がり、グローバル経済の時代をもたらしました。

コンテナという「単なる箱」の発明が世界を変えたのです。

この「単なる箱」が世界の物流を一変させるまでには、無数の抵抗勢力の抵抗にあいます。また発明者のビジネスも、自らがもたらした海運業界の熾烈な競争と価格低下の渦に巻き込まれてしまいます。

この本は、ちょっと中だるみする箇所もありますが、全般として分かりやすく良く書かれており、一流の経済史の本ということができます。とても読みやすく、グローバル物流の成り立ちについて知ることができますので、起業家やビジネスマンにはお勧めの一冊です。


築地」はアメリカ人の人類学者が築地市場でフィールドワークを行って書いた人類学の書籍です。

若い頃、日本に留学していた彼が、近所の鮨屋のなじみになり、築地市場での仕入れに同行させてもらう、引き込まれるような魅力的な導入部から話がスタートします。

この本では、市場の歴史や人物模様や情景などが、躍動感たっぷりに、これでもか、と言わんばかりに細かく描写されています。

はっきりいって分厚くて、読みにくい箇所も多々あるので、読書マニア以外にはお勧めできませんが、読書マニアにとっては秋の夜長にぴったりの一冊です(もう冬だけど)。築地市場の運営がどのように行われているかなど、知らなくても人生に全く影響ないようなどうでもいい雑学に詳しくなることができます。

とりあえず書店で手に取ってみて、導入部だけでも読んでみると、ついつい全部読みたくなってしまうかもしれませんよ。


スシエコノミー」はアメリカ人のジャーナリストが、寿司がいかに世界に普及して、魚介類の生産・物流・消費のスタイルを如何に変えてきたかを描いた本です。

日本での握り鮨の歴史から、テキサス州オースティンで鮨屋を経営する白人男性の板前の話、初めてカナダからマグロを日本へ空輸したビジネスマンの話まで、魅了されるような物語が詰まっています。

テキサス州でちゃんとした鮨屋を経営するためには、良い魚は全て築地から空輸で仕入れなければならないのだそうです。航空便で品物が届いてみるまでどんな質かわからない、そんなリスクを抱えながらも、良い鮨を出そうと奮闘しています。

この本は前二冊とは打って変わってジャーナリストが書いたポップな本ですので、ちょっと気分転換にでも気軽に読むことができる一冊です。なかなか良い本です。

2011年11月27日日曜日

メイシーに並べ替え機能がつきました


株式会社もぐらで運営している超簡単な名刺管理のメイシーですが、複数のお客様よりご要望のありました「名刺の並べ替え機能」を実装いたしました。

名刺一覧の画面で「会社名」または「名前」の項目をクリックしますと、会社名または名前のフリガナ順に並び替えが行われます。

フリガナは、一般的な読みを入力しておりますので、本来の読み方と異なったフリガナが登録されている場合もあります。その場合は、虫眼鏡マークをクリックして頂き、名刺詳細画面より変更が可能です。

今後とも新機能を随時ご提供して参りますので、ご要望などありましたらお気軽にお聞かせ頂ければと思います。

2011年11月19日土曜日

経営の教科書の決定版: 60分間・企業ダントツ化プロジェクト

もし、あなたが経営書を一冊だけ読むのであれば、この60分間・企業ダントツ化プロジェクトをお勧めします。経営の本質が過不足なくきっちりまとまった教科書と言って良いでしょう。

著者の神田昌典さんは、これまでに数多くのベストセラーを著してきた有名なダイレクトマーケターです。その経営ノウハウを惜しみなくつぎ込んだのが、この本だと言えます。

世の中に、読んで面白い経営書はいくらでもあります。何らかの意味で参考になる経営書もそこそこあるでしょう。しかし一冊だけ本を読んで全容を把握できるような本は、これまでに無かったのだ、と思わされました。

本書では、戦略とは何か、商品戦略、顧客戦略、競合戦略、価格戦略、営業戦略、コミュニケーション戦略などの本質を一気に学ぶことができます。

この本には、偏った考え方や、一部の企業や事業にしか適用できない点がなく、全ての事業にたいして適用できる極めて正統的な本質が書かれているので、誰にでも安心して薦めることが出来ます。

またベストセラー著者の神田昌典さんが書いているので、文章も大変読みやすく、誰でも苦労なく読み通すことができるでしょう。

初心者から上級者まで、全ての経営者にお勧めです。とくに初心者やこれから起業する人は必ず読むべきでしょう。


以下は復習用の要約です。読み終わって復習したい方はどうぞ。

第一章: 戦略は足し算ではなく、掛け算からうまれる。

- 戦略が間違っていれば忙しくて儲からない会社になる。
- 戦略のある会社は楽して儲かる。
- 戦略とは選択すること。そして優先順位をつけること。
- 60分で戦略をつくれない経営者は10年経っても戦略をつくれない
- 戦略はかけ算であるので、一つでも0点の要素があれば全体が0点になる

第二章: 商品(1) ライフサイクル分析

- いまの日本で松下幸之助がエアコンを売って億万長者になれるか?
- 商品にはライフサイクルがある。導入期、成長期、成熟期の3つ。
- 成長期にさしかかった商品が一番売れるし、儲かる。
- 導入期は冬の時期であり、売れないし、失敗の確率も高い。
- 最近は商品ライフサイクルが短いので、導入期に参入する必要もあるが難しい。
- 商品ライフサイクルの計算をして、事業の寿命を予測する。

第三章: 商品(2) さらに3つの分析法

- 黙っていても売れる「上りのエスカレーター」に乗れる商品を選ぶ。
- その商品を待っている顧客がどのぐらいいるか?
- 商品コンセプトが顧客に伝わるか?
- その商品を入り口に、その後、広がりを持つか?
- 分析1: ニーズ(必要性)とウォンツ(欲求)はどれくらいか?
- 分析2: 直感的に理解できるか? 使いこなせる自信があるか?
- 分析3: 水平展開しやすい? 垂直展開しやすい?
- 「使ってみれば分かる」商品は、下りのエスカレーター
- 効果的なネーミングをする

第四章: 顧客 - 理想の顧客に出会う方

- 顧客を選ぶ会社は、顧客に選ばれる。
- 顧客を選ばない会社は、顧客にも選ばれない。
- 説得しないで買ってくれる理想の顧客は誰か?
- 理想の顧客を獲得するコストを下げるにはどうしたらいいか?
- 顧客を連れてくる、影響力のある顧客は誰か?
- 分析4: どういう顧客がどれだけのニーズとウォンツを持つか?
- 分析5: 見込み客特定の難易度は? 価格に対する営業コストは?

第五章: 競合 - 愚者は俺ならできると考える。賢者は愚者でもできることをやる。

- 最強の競合戦略とは、戦わないことである。
- のんびりしながら儲かってる市場を探す。電話帳の厚いところを見る。
- 分析6: 市場の成熟度、商品スイッチの難易度
- 分析7: 顧客から見て競合より魅力的な商品か? 優位性を簡潔に伝えられるか?
- 優位性を簡潔に表わす表現(USP)を作る。
- 分析8: 顧客から見て、価格の明朗性は? 価格の妥当性は?
- 分析9: 参入障壁は高いか? 撤退コストは高いか?
- 事業を始めるときには、撤退するときのことを考える。

第六章: 収益シミュレーション

- 顧客獲得コストとは、日本の1億3000万人の中から見込み客を探して買わせるコストである。
- 顧客獲得コストはいくらなのか、顧客の生涯価値はいくらなのか。
- 顧客から短期間に得られるキャッシュと、顧客獲得コストを比べてみる。
- 頻繁なリピート購買が期待できる商品なら、粗利率は7~8割以上なければならない。
- 頻繁なリピート購買が期待されない商品なら、初回購入の粗利額は10万円以上なければならない。
- 分析10: 購買リピート性と粗利率・粗利額は?
- セールスに使いやすい媒体と特徴 (本書 pp.231-235)
- ライフサイクル季節別にメッセージ伝達方法を変える

第七章: タイミング - 害虫になるか、それとも天使になるか?

- 営業マンは声をかけるタイミングによって害虫扱いされたりも天使扱いされたりする。
- 顧客獲得コストが下がるタイミングというのがある。そのときに一挙獲得する。
- 分析11: 購買タイミングは把握しやすいか? 購買頻度は高いか?
- 理想の世界と現状を埋めることが戦略発想の根源。理想の世界を想像してみる
- 分析12: 顧客はその商品のことを日常的に考えているか? 差し迫った必要性はあるか?

第八章: メッセージ - 購買欲求をシステマチックに高める方法

- 顧客の購買欲求と必要性をシステマチックに引き上げる。
- 顧客が怒り・悩み・不安を感じる場面を、五感をを使って描写する。
- 分析13: 問題を視覚化しているか? 問題を焦点化しているか?
- 分析14: 行動に対する障害・不安は大きいか? 自己正当化は容易か?
- 行動するメリットだけではなく、行動しないデメリットを感じさせる
- 現状の危険性を認識させること。
- この方法を適用すると、インチキ商品ですら売れるので危険もある。

最終章: 統合 - ヒラメキは、集中した思考の後に降ってくる

2011年11月18日金曜日

仕事は楽しいかね?

仕事は楽しいかね?は、自己啓発本的なビジネス書です。私の仕事のパートナーの書棚で見つけて手にとって以来、何度か再読しました。とても読みやすくて、示唆に満ちている素晴らしい本だと思います。

仕事や事業を進めていく上では「試すこと」が必要不可欠である、ということがこの本のメッセージですが、そのことを色々な視点とストーリーから分かりやすく語ってくれます。

会話仕立てのこの本は、とても温かい雰囲気に包まれており、仕事や事業に行き詰まりを感じている人にぴったりの本ではないでしょうか。

あまり詳しく書いてしまうと興ざめですので、説明はこのくらいにとどめておきます。ちょっと疲れた日に気持ちよく読める小品として、ビジネスに携わる全ての人におすすめの一冊です。

この本を読んで人生が変わったという人も少なくないという、そんな一冊でもあります。


すでに読み終えた方には、こちらのブログの書評が復習にぴったりかと思います。

2011年11月14日月曜日

自転車と死亡事故統計

最近、警察庁が自転車の歩道通行禁止を徹底するというニュースが話題になっているようです。

これは私にとっては困った問題です。私は福岡ではつねに自転車に乗っていますが、そのとき自動車の交通量の多い道では、たいてい歩道を走っています。いまはそうした歩道には、だいたい「自転車通行可」の標識がたてられていますが、この自転車通行可もなくなる方向性だそうです。

私は歩道を走るときは非常にゆっくりした速度で走りますし、いつでもすぐ停止できる状態なので、万に一つでも歩行者を傷つける可能性はないと考えています。

車道を走ることになれば、転倒したりよろめいたりするだけで、私の命は容易に失われてしまいます。だから、もし歩道が通行禁止になれば、私は自転車に乗るのをやめるでしょう。

さて、古いデータで恐縮ですが、手元にある「交通事故統計年報 平成14年版」からデータを見てみましょう。

まず平成14年におきた死亡事故 7,993件中、自動車(自動二輪車含む)が絡む事故が97.8%を占めています。自転車と歩行者による死亡事故は、たった3件にすぎません。逆に、自動車(自動二輪車等含む)と自転車の死亡事故は1,997件に及びます。

もし自転車の歩道通行を禁止することになれば、このたった3件の死亡事故を減らすために、1,997件の死亡事故を大幅に増加させるということになります。

警察庁の狙いは一体どこにあるのでしょうか? 警察庁にとっても交通事故を減らすことは大切な目標のはずですし、こうした統計もじっくり見ているはずだと思うのですが。

何のために歩道から自転車を追い出すつもりなのか、私には全く理解出来ません。いまのまま歩行者通行可の歩道を残したまま、そうした歩道では速度制限を厳しくするなどの対応をとれば良いのではないでしょうか。

もしくは警察庁は全ての道路から片側1車線を自動車用から自転車用に転換したりする予定なのですかね。それなら大英断ですが・・・

2011年10月20日木曜日

例外ログをメール送信してウェブシステムの品質を無料改善しよう

今日は久しぶりにソフトウェアの話を書きます。独自システムによるウェブサイトを運営している会社なら、どこでも役に立つちょっとしたテクニックの話です。

ソフトウェアの品質管理は大変です。バグを取るにしても、どのようなテストをするべきか、どのようなテストを書くべきか、テストにも多大なコストがかかります。

バグ発見を無料でできてしまう一つのテクニックがあるのです。

それは簡単な仕組みです。

ウェブシステムでは、もしシステム内でエラーや例外が発生したら、それをキャッチしてユーザにエラー画面を表示していると思います。そして、そのログを記録しますよね。

弊社で行っている仕組みは、その例外ログを毎日1回まとめてメールで管理者に送信するということです。

そして管理者は、それをみてバグを直します。メールには、例外の名前とスタックトレースの最初の一行目を乗せていますので、一つのバグはほんの数分で直せるのです。

弊社では新システムにこれを実装してから、あっという間に数十個のバグを直すことができました。そして新しいバグを埋め込んでしまっても、翌日には気づいて直すことができます。これにより気づかずに一部ユーザに不便をかけ続けることがなくなりました。

また、サーバの一部が故障して冗長性が失われているときにも、この方法でログを記録していますので、同じ仕組みでハードウェアトラブルも管理することができて楽ちんです。

そのようにユーザには表示しないエラーが発生している場合でも、ログを記録するようにすることで、トラブルを早期に発見・治療することができます。

ウェブシステムを長年運用している会社ならどこでもやっているだろうテクニックですので、いまさら書くことでもないかとは思いましたが、知らない人もそれなりにいると思い、書くことにしました。

2011年9月23日金曜日

リチャード・ブランソンも講演したソウルのWorld Knowledge Forumは超一流カンファレンスだ!

ソウルで毎年秋に行われるWorld Knowledge Forumは、すごいカンファレンスです。

なんと去年はあのリチャード・ブランソンやポール・クルーグマンなどが講演を行いました。毎年そのような超大物がやってきて講演をするという、ものすごいイベントなのですが、日本ではまだあまり知られていないようです。

このカンファレンスは、韓国の経済新聞である毎日経済新聞社が主催しているものです。あのダボス会議(World Economy Forum)を意識した命名がされていますが、招待制ではなくお金を払えば誰でも参加することができ、超一流の経済人の講演を聴くことができます。

今年はサラ・ペイリン(笑)や前原誠司の講演から始まり、アメリカ財務長官やハーバード大学学長を務めたラリー・サマーズ、英国前首相のゴードン・ブラウン、あのマイケル・サンデル教授、"タイガー・マザー" エイミー・チュアあたりが目玉となるようです。他にもPwC、ブルッキングス研究所、東芝、ウォルト・ディズニーの代表などの講演もあります。

こうした超一流の人々の講演が生で聴ける機会は世界的にも極めてまれで、ましてやアジアでは殆どこうした機会はないでしょう。外国人なら、割引価格の$800という、ただみたいな値段で参加可能です。

この値段にはランチやディナーなども含まれています。昨年のディナーでは、なんと少女時代の公演を見ることができました。プログラムにはディナーの内容までは記載されていませんので、今年はなにがあるかわかりませんが。

このカンファレンスの弱点は、参加者の90%が韓国人で企業のお金で来ているスーツ族なので、交流をするという観点からはいまいちなことです。会社のお金で来たスーツのおじさんと話してもしょうがないですからね。気を抜くと、ぼっちになりがちです。

もう一つ気をつけるべきことは、目玉講演はときとしてビデオ中継になったりすることです。世界の超一流の著名人を呼んでいるので、どうしてもスケジュールが合わないことなどあるので、仕方ないとは思いますが、期待していた場合はとてもがっかりしますね。

このカンファレンスを開催するのにかかる労力とお金を考えると、開催者の熱意には本当に感心します。日本でこうしたカンファレンスが開かれないのは極めて残念でなりません。

今年は、10月11日~13日までソウルのシェラトンウォーカーヒルホテルで開催されます。もしお時間があれば是非参加するべき!だと思います。

2011年8月29日月曜日

ベンチャー起業家が会社設立前に必ず読むべき本 - Venture Deals

米国のベンチャーキャピタリストBrad FeldとJason Mendelsonによる、つい最近出版されたばかりの書籍「Venture Deals: Be Smarter Than Your Lawyer and Venture Capitalist」は、ベンチャー起業家が必ず読むべき一冊です。

この本は、ベンチャー企業が投資を受けるとき、会社を売却するときに直面する契約条件などについて実践的な知識がふんだんに盛り込まれています。

皆さんは、米国の法律と事例に基づいた専門的なファイナンス契約に関する書籍を日本人起業家が読む必要があるのか、と疑問をお持ちになることでしょう。しかし、ここまで実践的な経験と知識に基づいて書かれた該博な本が、日本では出版されていないのですから、これを読むほかありません。

日本では「ベンチャー投資」という言葉だけが先行していて、それに関する知識もまったく流布されず、こうした実務に関する情報も殆ど皆無なのですから、現状は笑止千万としか言いようがありません。せめて一人でも多くこうした本を読んで、知識を身につけることを切に願います。この本が日本語に訳出されることを願いますが、読者層の少なさを考えると望み薄ですね。

ベンチャー起業家とは、VCから投資を受けて、IPOや会社売却を目指す起業家のことですが、もしあなたが投資を受けるつもりがなくても、誰かと会社を共同所有するのであれば、読む価値はあるかもしれません。

[以下やや逸脱]

企業や組織を他人と運営していくときに、もっとも大切なのはガバナンス(組織統治)の方法です。この本には、アメリカで実際に無数に試されてきたガバナンスの一つのベストプラクティスが載せられています。

株式会社などの設立時や投資時には、素人では、せいぜい持ち分の設定と取締役の選任をして終わりです。しかし、実際には、他にも取り決めておくべきことは沢山あります。とくに、新株発行(増資とストックオプション)についてのルールと、Vesting(創業者退任時の株式の買い取りルール)は、会社設立時や増資時に確実に書面にしておくべきでしょう。さもなくば、確実に揉め事の元になります。私もそれで何度もトラブルを経験しました。

また共同経営者にもこうした本を読ませるべきでしょう。日本ではガバナンスの知識が浸透しておらず、頭が良く優秀で誠実な経営者であっても、ひどく間違った考え方を持っている人もいます。株主の権利を軽視して、不当または不公平な増資を行うような不誠実な経営者が多くいます。そのために、まともな経営者ですらそうした行為を当たり前だと思うような始末です。

[逸脱おわり]

この本は、平易な英語によって書かれてはいますが、ベンチャー投資について事前知識がなければ読むのは難しいでしょう。あらかじめ磯崎氏の「起業のファイナンス ベンチャーにとって一番大切なこと」を読んだり、TechCrunch等のブログを読んで米国ベンチャー用語について学んでおく必要があります。また、もちろん株式会社に関する常識的な知識も必要です。

私も、もっと会社運営の法的な実務と、ガバナンスの知識について学ぼう、という思いを持ちました。ちょっとしたことに気をつけるだけで、将来のトラブルを未然に防げるのですから。

以下、内容概略:

第1章: "Players". 起業家、ベンチャーキャピタリスト、エンジェル投資家、シンジケート、弁護士、メンターなどのベンチャー投資関係者についての概略。
第2章: "How to Raise Money". 投資を受けるための心構えや用意すべきプレゼン書類など。アーリーステージでは、実際に動くデモが重要であって、ビジネスプラン(とくに予測売上)は重要ではない。
第3章: "Overview of the Term Sheet". タームシート(投資条件についての合意書)の要素について。タームシートに金銭的な要素と会社支配権の要素がある。
第4章: "Economic Terms of the Term Sheet". タームシートの金銭的な要素について。価格、Liquidity Preference、Pay-to-play、Vesting、Employee Pool、Antidilution (稀薄化防止条項)。
第5章: "Control Terms of the Term Sheet". タームシートの会社支配に関する要素について。取締役の選任権、重要事項の拒否権、Drag-Along Agreement、転換権。
第6章: "Other Terms of the Term Sheet". タームシートのその他の要素について。これらの要素はそれほど交渉の余地はない。
第7章: "The Capitalization Table". Cap Table、すなわち会社価値、持ち分、株式数、株式購入金額などの表の計算方法。
第8章: "How Venture Capital Fund Work". ベンチャーキャピタルがどのような仕組みで動いているか、組織や運営原理についての説明。
第9章: "Negotiation Tactics". どのようにVCと交渉するか。
第10章: "Raising Money the Right Way". 投資を受けるときにやるべきでない6つのこと。これをやると、すごく素人くさく見えるし、場合によっては案件がぽしゃる。例: NDAを求めるな。一人ぼっちで起業するな。
第11章: "Issues at Different Financing Stages". 段階別の投資について。シードステージ、アーリーステージ、ミドル・レイターステージ。また転換社債を使った投資など。転換社債を使うと債務超過になるので、その期間の行為について取締役が法的責任を負う恐れがある。
第12章: "Letters of Intent - The Other Term Sheet". Letters of Intent (買収を受けるときの条件合意書)について。どのような条項があり、なにに気をつけるべきか。
第13章: "Legal Things Every Entrepreneur Should Know". 起業家が知っておくべき法的事柄について。知的所有権や雇用関係など。

参考:

2011年7月25日月曜日

RapidSSLの超柔軟なSSL証明書

SSL証明書というと、これまでは単に高額なだけでなく、サーバごとに一ライセンスが必要であったり、一年間~二年間ごとに更新しなければならなかったり、ホスト名ごとにライセンスが必要であったりしました。

しかし弊社でこないだ新しく導入したRapidSSLのSSL証明書は、最長5年間の有効期限、サーバ数無制限、さらにサブドメイン名が自由なワイルドカード証明書、と極めて柔軟でかつ激安な証明書でした。

これからのクラウド時代では、多数のサーバを組み合わせて使うことが一般的ですから、このような条件の証明書でないと運用コストが増大してしまいます。

クラウド時代に適した証明書を提供してくれているRapidSSLさんに感謝です。

最新のIntel CPUには、AES暗号化を高速化する機能も搭載されていますし、こうした安価な証明書と組み合わせれば、全通信をSSL暗号化するのが当たり前な時代が到来するかもしれませんね。

ただし、証明書発行業者の乱立により、悪者が証明書を入手しやすくなったりすれば、元も子もありません。とくに中国のような国家であれば、国家ぐるみで不正証明書を入手しようとしたりする可能性もあります。またCIAやFBIのような米国機関であれば、不正証明書を入手するなどお茶の子さいさいでしょう。不安な時代がやってきたものです。

また私の実体験では、中国ではSSLによる接続をあえて不安定にしたり接続不能にしたりして、市民の暗号通信を防いでいるようです。なぜ、このようにインターネットすら、まともに使えない国で商業活動をしようとする外国人が多くいるのか、私には理解出来ません。タイのようにもっと自由で発展中の国が多くあるというのに。

話がそれましたが、Rapid SSLさんの証明書、おすすめです! ぜひどうぞ。


英語本家サイトはこちら: http://www.rapidssl.com/

日本語の代理店も多くあるようです。

2011年7月22日金曜日

知的生産者にとっての福岡の魅力

先日の「福岡をシリコンバレーに」の記事では、福岡を辛く評しすぎた面もあるかもしれません。本稿では、福岡の魅力はなにか、その魅力をどう伸ばすべきかを考えます。

福岡の魅力はコンパクトで充実した都市の魅力です。世界的にも住みやすい都市としてランキングされるほどの魅力があります。以下に私が感じている魅力を挙げます。





  • 都市のサイズが小さく、家賃が安いので、都心に住んで、自転車でどこでも移動できる。
  • 巨大なジュンク堂がある。世界でも有数の巨大書店であるジュンク堂福岡店があります。
  • スターバックスが多数ある。福岡は世界でも有数のスタバ集積地帯です。
  • 魅力的な飲食店が多数ある。
  • 文化的魅力もそれなりにある。
  • 公園や海などが近くにある。

このように知的生産者(知的階級)にとって、これ以上ないという魅力的な条件が整っています。

自分が資本である知的階級にとって、通勤などの移動時間は大敵です。また大きな書店が必要であることは言うまでもありません。知的階級は、スタバなどのカフェで、読書や仕事を進めることも重要です。また知的階級は、魅力的な飲食店のない文化的でない街に住みたいなどと思いも寄らないでしょう。

文化都市(クリエイティブ都市)についての第一人者であるリチャード・フロリダは、自転車にフレンドリーで、チェーン店でない素敵な飲食店が数多くある都市こそが、知的生産者を引きつけると言っています。

福岡は、こうした魅力を活用して、日本で最も知的階級の集まる街とならなければ生き延びていくことは到底叶わないでしょう。


現在の福岡にもっとも欠けているものは、知的階級の集積です。福岡にも魅力的な条件は揃っているものの、日本では知的階級はすべて東京に行ってしまうので、福岡には知的階級が少ないのです。これを打破せねばなりません。

それには前回わたしが述べたようなシリコンバレー化計画を実施するとともに、福岡をもっともっと知的階級が住みやすい街にする必要があります!


まず、大名や今泉、警固、薬院、春吉といった中心市街地は、早急に歩行者中心の街に転換する必要があります。一方通行化や、タクシー空車の禁止、信号や一時停止の増加、歩道の拡充、自動車の通りにくい街作りをすることによって、歩行者が安全かつ快適にショッピングや飲食を楽しめる街にする必要があります。いまは歩くと危険が多すぎます。

文化面では大幅な拡充が必要です。現在の福岡は文化的に東京から大きく遅れています。行政は、音楽や芸術にもっと支援をしなければいけません。箱物は不要です。良いアーティストがいれば良いのです。NPO Tiempo Iberoamericanoのような素晴らしいNPOにも多額の資金をいますぐ投入すべきでしょう。またダンスクラブ特区などを作って、ダンスクラブ営業を適法化するなど、若者文化を振興する施策も必要です。

リチャード・フロリダは、ゲイ・フレンドリーな街が伸びる、と言っています。住吉のようなゲイ地区を、もっとアピールしてオープンなゲイ地区として外国人を呼ぶなどと言った方策はどうでしょうか。アジアでは、ゲイがオープンに楽しめる街は少ないので、特色を作り出すことができます。

禁煙条例などを策定して、都市全体の飲食店を禁煙にすることも必要ですね。知的階級はタバコを嫌いますからね。

もちろん「屋台」という福岡唯一の観光資源を捨てるなどあり得ないことです。規制を緩和して屋台を振興させねばなりません。福岡には他に観光資源など一つもないのですから。

行政はよく「福岡はアジアのゲートウェイ」などと言っていますが、アジアでの福岡の存在感など微々たるものです。この飛行機時代に地理的な近さなど何の意味もありません。もし本当にアジアのゲートウェイになりたいのであれば、ビザ緩和、雇用支援など、大幅な外国人招聘策が必要です。


私は、世界中いろいろなところに旅をしますが、最近「福岡から来ました」というと、「あのBachata en Fukuokaの街ですね!」と良く言われます。前述のNPOが招聘した、たった一人の世界的歌手が、福岡に感動して福岡の歌を作った、それによって福岡の名前が世界的に知れ渡ったのです。

既存産業に投資をしても、たった数億円~数十億円では、なんの成果もあがらないでしょう。しかし若者文化や知的階級に直接投資をすれば、数億円~数十億円とはすさまじい威力を持ったお金になります。いまこそ生きたお金を使うために何が出来るかを考えるべきです。

福岡をシリコンバレーに?

私はここ数年間、福岡市中央区に住んでいます。

福岡は住むには良い所です。日常の移動距離が短いため時間を有効活用でき、素晴らしい飲食店などの娯楽も多くあります。NPO Tiempo Iberoamericanoなどの素晴らしい団体のおかげで、日本有数の音楽文化環境に身を置くことができます。

さて、福岡では、東京とちがって行政と市民の距離が近く、福岡県職員の方々などとお会いしたりお話ししたりする機会があります。

福岡県ではIT産業振興のために色々な施策を行っています。「福岡Rubyビジネス拠点推進会議」などの団体を設立してRubyを振興したりと、色々な施策を実施しています。

我々の会社もその恩恵にあずかっており有り難いかぎりなのですが、政策の実効性という点ではいくつか改善点があるのではないかと考えます。

政策の目的と期待する効果をよりはっきりさせ、それを実現するための道筋と戦略を規定し、一貫した強力な政策を実施すれば、より大きな効果がでるはずです。それには、IT産業振興になにをすればいいのかをまず把握する必要があります。それについての私の考えを以下に述べます。

先進国における新産業振興は、発展途上国における産業振興とは大きく異なります。資本を投入してキャッチアップをすればよい時代から、資本が余っており超高度な知的職業人が足りない時代に変わっているわけです。

先進国では、ほぼ全ての産業で供給過剰であり、新規参入者は需要をつかむために大きな困難に直面しています。それを乗り越えるためには、イノベーションにより新たな需要を作り出さなければいけません。そのためには資本ではなく、特別な才能をもった知的職業人が必要なのです。[1]

アメリカを代表するベンチャー企業育成家であるPaul Grahamは、第二のシリコンバレーを作るには、住みやすくて文化的な土地に、多くの優秀な人材を引っ張ってくれば良い、と言っています。[2]

福岡の最大の弱点は、まさにその知的人材の質と量にあります。

残念なことに、福岡では優秀で意欲ある人材が定着しないのです。定着しない理由としては、良い就職先がないこと、他に優秀な仲間がいないこと、などがあげられます。良い就職先ができない理由の多くは、良い人材がいないことなので、悪循環の状況にあると言えます。

良い就職先を増やすためには、良い人材が必須ですが、良い人材は、予算さえあれば直ちに増やすことができます。それこそが行政が行うべき施策なのです。

たとえば英語がきちんとできて、高い技術力やビジネス能力をもった人材が多くいるのであれば、企業はすぐにでも進出してくるでしょう。いまの福岡では、東京にごろごろいるような「英語がきちんとできて、なにか技術やビジネスで一流のスキルを持った人材」が全くいないのが現実です。

それどころかプログラマーのレベルを見ても、東京で活躍しているような高度なスキルを持った人は殆ど居ないのが現状です。

残念ながら、そうした人材を教育で増やそうとしてもうまくいきません。福岡の技術者やビジネスパーソンは、そもそもモチベーションが低く、目標をきわめて低く設定しているからです。また私のこれまでの経験では、素晴らしい人材が発掘されたとしても、すぐに東京などに引き抜かれてしまうのが実情です。

この悪循環に終止符を打つには、無理矢理にでも世界中から優秀な人材を集めてきて、囲い込みを行うしかありません。

ITなど、何か一つの領域に的を絞って、世界中から優秀なベンチャー起業家を集めてくるのです。一流の成功した人間や一流企業を集めてくるのは大変ですが、これから成功を狙っている起業家であれば、すぐに集めることができます。

先述のPaul Grahamが運営しているY Combinatorにならって、自分自身の起業経験が豊富なベンチャー育成家によって、日本中、いや世界中から集めた優秀な人たちに投資をして、その人々に必ず福岡に住んでもらうのです。いっそのことPaul Grahamに福岡に来てもらうのもいいでしょう。

そのかわり、条件として、週に一度くらい外部の人を交えた交流会を行うか、そうした会に参加してもらうこととします。それによって福岡人の目を覚まします。また、面白い人が集まっているという風評によって、福岡に呼び寄せられてくる人もいるでしょう。

福岡には九州大学のような国立大学もありますから、優秀な起業家の活躍によって皆が目覚めれば、優秀な人材が輩出され、福岡に定着することになるでしょう。

ベンチャー起業家を集めるには、一人当たり年間数百万円の投資で十分です。優秀な人々を福岡に呼んで、そのうえ彼らが成功すれば、お金は帰ってくるのですから、これほどお得な投資はありません。

いまどきのITベンチャーは、事業の費用が極めて低いのです。そのため大勢の優秀な人を、生活費レベルで呼び寄せることができます。これがバイオベンチャーとなると、一社が最低限スタートするだけでも数億円ですから、話は大きく違ってきます。

一人年間600万円で100人に投資をして、たった6億円。運用費とプロジェクトマネージャ数人への報酬を払っても10億円以下です。福岡県さん、福岡市さん、どうでしょうか? やりませんか?

参考文献:
  1. クリエイティブ資本論―新たな経済階級の台頭、リチャード・フロリダ
  2. How to be Silicon Valley, Paul Graham

2011年7月11日月曜日

マクロ経済学 - ポール・クルーグマン

私は、なにかの学習をするときは、基本的にアメリカ人の書いた大きな教科書を使って学ぶことにしています。アメリカの学者は、教科書を書くことに大変な重きを置いていて、とにかく詳細で分かりやすい教科書を苦心して書こうとするので、日本の教科書とは比べものになりません。

本書は、ノーベル賞経済学者ポール・クルーグマンが書いたマクロ経済学の教科書です。ポール・クルーグマンは、ニューヨークタイムズのコラムニストとしても有名で、文筆の才能にも恵まれています。そのため、この教科書も極めて分かりやすく、経済学の素人が読んでも理解することができるでしょう。

マクロ経済学という学問は、普通の人が生きていく生活上ではあまり関係のない学問です。なぜなら、この学問は、国の経済など、大きな規模の経済の動きについて学ぶものだからです。ミクロ経済学は、経営者やビジネスマンにも関係があることを学びますが、マクロ経済学はそのような意味で役に立つことはないでしょう。

では、私はなぜマクロ経済学を学んだのでしょうか?

それは、一人の有権者として、国政に票を投じ、国政を論ずるためには、最低限のマクロ経済学の知識がなくてはならないからです。

世の中には、わかったような顔をして、国政についてああでもないこうでもないと論じる人々が多くいます。しかし、その多くは、経済学を少しでも学んだ人間からすれば笑止千万の幼稚園レベルの議論なのです。そうした轍を踏まないために、本書を読みました。もちろん本書のような学部レベルの知識だけで、国政を論じるには足りませんが、少なくとも大きな誤りには気づくことができます。

私は、マクロ経済学というと、IS-LMモデルなど複雑怪奇な抽象論や数式が多数でてくる印象を持っていました。しかし、本書には数式は殆ど出てきませんし、IS-LMモデルのような複雑な話も少しも登場しません。あくまで一般常識、一般教養レベルで、簡単に読みこなせる内容です。

もし国政について少しでも興味があるのなら、ぜひマクロ経済学を学んでみませんか? なるべく毎日読めば1~2ヶ月もあれば読み終えることができると思います。



ミクロ経済学もあわせてどうぞ。

2011年5月17日火曜日

ダイレクト・マーケティングの実際

世の中にマーケティングの本は数多くありますが、私がこれまで読んだ数十冊のなかで感動した本は一冊だけです。それが本書「ダイレクト・マーケティングの実際 (日経文庫)」です。

本書は1987年に書かれた本で、内容には古びた点が数多くありますが、それでもベストの本であると自信をもって言うことができます。

なにが良いかというと、本書ではダイレクト・レスポンス・マーケティングという一分野に絞って、実際に実践できるだけの具体的な知識を数多く書いていることです。他書は概要レベルに止まるのに対して、本書はコンパクトなのにもかかわらず実用レベルと言えます。

著者のルディー和子さんは、エスティ・ローダーのマーケティングマネジャー、タイム社のダイレクトマーケティング本部長などを務めたバリバリの実践派の方です。それが本場アメリカのダイレクトマーケティングの実践知識を本書に詰め込んだのだから、非常に有意義です。日本では未だにこのレベルの実践ができている会社は少ないのではないでしょうか。

ダイレクト・マーケティングが通常のマーケティングと異なるのは、直接に反応を得ることができるということです。広告や販促の効果を計測し、データに基づいた販売ができるということです。この概念は、インターネット時代になり、重要性がさらに高まっています。

実験と統計学に基づいた科学的な経営は、これからさらに重要になってくるでしょう。本書には統計表なども載っていますので、統計学の知識がなくても経営に統計を活かすことができます。

皆さんがダイレクト・マーケティングを行っていないとしても、全ての経営者とマーケターにとって必読の一冊であると言えます。本書から科学的経営、科学的マーケティングのエッセンスを学ぶことができるでしょう。

経営書の多くは概念的な本であり、実際の経営にすぐ役立てられない本ばかりです。逆に、通俗経営本のたぐいは、断片的な知識だけであり、大局観をもった科学的な経営の役には立ちません。

本書のような素晴らしい経営書がもっと出てくることを望むばかりです。

とっくの昔に絶版ですが、amazonマーケットプレースで安く購入可能ですので、至急いますぐ購入を!

2011年5月16日月曜日

福翁自伝

福翁自伝福澤諭吉の自伝です。

たまたまジュンク堂で旅行用に携帯しやすい文庫本を探しているときに見つけました。とりたてて福澤諭吉に興味があるわけではないのですが、私は歴史が好きですし、口語体で現代かな遣いで印刷も新しく読みやすそうなので、これを買いました。

私は福澤諭吉に特段興味が無かったのですが、本書を読んですっかりファンになりました。本書は福澤諭吉が口語体で書いた唯一の長篇と言われており、非常にユーモアに富んだ語り口で、現代人にとっても極めて読みやすいものです。ユーモアと、その自由な精神が非常に魅力的です。

福澤諭吉を一言で表すとしたら「独立自尊」でしょう。

幕末から明治期という、政府について大きな仕事をしよう、会社をつくってボロ儲けしようという人々が大勢いるなかで、福澤諭吉はひたすら自分を信じて学問に励み、そして政府の誘いを断って民営の学校として慶應義塾を運営していきます。

お金にはあまり興味はないようですが、慶應義塾の分校をどんどん作り拡大していったり、既存の出版社があまり役に立たないと見るや、自分で出版社を作って自著の印刷製本を行ったり、新聞社を設立したり、事業意欲には満ちあふれています。

暗殺の恐怖におびえて隠れて過ごしたり、さっさと武士をやめてしまったり、福澤諭吉は、我々がいま想像する武士や侍のありかたとは大きく異なっています。政治闘争に奔走する志士とは全く違うやり方で大きな成功を収めた点が興味深いものです。

とにかく組織に属することを嫌い、独立と自由を愛した福澤諭吉の生き方は、いまの日本人にとって最も必要なロールモデルだと考えます。このような人々が多くいれば、日本も確実に良くなるでしょう。

次は「学問のすすめ」も読んでみようと思います。こちらは文語体なので、少し読みにくそうですが....

2011年5月14日土曜日

週四時間だけ働く

連休中は海外旅行に行っていました。そこで読んだ二冊の本が、福翁自伝と、「週4時間」だけ働くです。この二冊はたまたま意外と似通った主張を持った本であったことが面白い点です。どちらも「独立」がテーマである点で共通しているのです。

本稿では、まず「週四時間だけ働く」をご紹介します。


「週四時間だけ働く」は翻訳された当時は結構な話題となったようです。いかにして自分の働く時間を減らしていくかという本です。そのためにアウトソースを活用したり、雑用などを減らしたりしていくことが載っています。

私は、現在推進中のメイシーという事業では、小林というパートナーと一緒に仕事をしています。が、新規事業をやるにあたり、小林が既存事業の運営で手一杯のため、次は久しぶりに自分一人で推進することになりました。

一人で事業を推進するためには、とにかく雑用や人との面会などを極限まで減らす必要があります。もし雑用をしていたら、事業戦略や研究開発に十分集中できなくなって、私の強みを活かすことができません。

そのために本書を読んで、週四時間の考え方や実践法を学ぶことにしました。本書は、自己啓発本的な要素と、事業の構築法、事業の自動化方法などの実践的な要素が、半々くらいの割合で混ざっています。いかにもADHDの人が書いたような飛び飛びの本で、すこしごちゃごちゃしてるのですが、読みにくい本ではありません。

本書の主張は、以下のようなものです。

1.とにかく雑用や不要なタスクを減らせ、断れ。そして自由を勝ち取って旅行しまくれ!
2.自分の事業や副業を立ち上げて、それをITやアウトソースを活用して完全自動化しろ! そうすれば一切働かなくても金が入ってくる。

いかにも怪しい主張です。普通の人がこれを読んで真似をしてもうまくいくかどうか定かではありません。しかし事業家にとっては非常に役立つ考え方が多いと思います。しばしば雑用に埋もれてしまい、本来、社長がやるべき重要な仕事ができてない人が多いですから。

本書の著者の事業では、秘書、サポートセンター、物流(フルフィルメント)などを全てアウトソースすることで、自分はマーケティングだけに注力すれば良いという仕組みになっています。アメリカはアウトソース先進国なので、容易にここまでのことができるようですが、日本でもこうした仕事のアウトソース先は色々あるだろうと思います。

ITの世界で普及してきたelanceodeskのようなクラウドソーシングも紹介されています。

とくに面白いと思ったのは、秘書をインドにアウトソースする方法です。個人的な秘書から、ビジネス上の秘書まで、オンラインで完結する仕事はすべてインドにアウトソースできるとのことです。これは英語圏ならではの強みですね。

マーケティングについては、ダイレクトレスポンスマーケティングの初歩が説明されています。ダイレクトマーケティングについては、稿を改めて良い本を紹介したいと思います。

こうした工夫を活かすことで、著者の事業では一人も従業員を雇うことなく成功を収めています。

経営者には一読の価値のある本です。経営者でない人も、独立心を養うために読んでみても良いかもしれません。

2011年4月26日火曜日

フォーム作成ツール Wufoo


アメリカのフォーム作成ツール Wufoo が、3500万ドルで買収されたというニュースがTechCrunchに掲載されました。見てみたところ面白そうなツールなので、こちらのブログでも紹介することにした次第です。

この手のフォーム作成ツールは日本にも数多くあるようですが、このWufooは機能と利便性の点で非常に優れています。主な機能だけでも以下のようになっています。
  1. 使いやすい画面操作でフォームを作成することができる。
  2. フォームからのファイルアップロード可能 (有料)
  3. フォームに条件ルールを設定して、それによって動作を変えることができる。すなわち、入力した内容によって、フォームの一部分を動的に開閉したり、完了時の動作を変更したりすることができる。これは画期的。
  4. 充実した支払い機能付き。PaypalやGoogle Paymentなど複数の支払い方法に対応しており、さまざまな支払いオプションを実現することができる。
  5. アクセスレポートやコンバージョンを見ることができる。これはマーケティング用途には必須。素晴らしい機能。
  6. グラフなどを駆使したレポート画面を作ることができる。フォームに入力されたデータから自動的にグラフや表などを駆使した報告書画面を作ることができる。すごい!

いくつかの項目は完全なアメリカ仕様になっていますが、自分で作る項目は日本語もちゃんと通りますし、日付の項目などは「年月日」の部分を日本語で表示してくれたりもします。


試しに一つフォームを作ってみたので、お試しください。またサイトで登録すれば無料版で思う存分に試用もできます。

殆どのウェブサイトは静的なページと少しのフォームさえあれば十分であり、こうした多機能なフォーム作成ツールを使うことでお客様とのやりとりを全て済ませることができます。それを考えると、値段もかなりお手頃だと思います。

本ブログでは、これからもビジネスに役立ちそうなSaaSツール等をご紹介していきたいと思います。

2011年3月29日火曜日

IPv6がダメなら、どうするべきであるのか

この記事はわりとコンピュータ専門家向きです。ただし、IT企業経営者やコンサルタントの方であれば、わかりにくい点があっても読んで頂くとよろしいかもしれません。

この記事の著者はネットワークの専門家ではありません。開発者・経営者・システム運用者としての観点から述べているものであり、ネットワークの専門的内容には誤りが含まれている可能性があることをご了承ください。

さて先述の記事のようにIPv6がダメというだけでは意味がありません。では、IPv4枯渇対策としてどのような方法が考えられるのかを列挙してみましょう。

* IPv4ヘッダのオプション導入 (難易度: いまさら遅い)

前の記事にも書きましたが、アドレス枯渇対策としては、IPv6のような互換性のないプロトコルではなく、IPv4ヘッダのオプションとして拡張アドレスを導入するという方法でアドレス空間を拡張する手法をとるべきでした。

IPv4ヘッダのオプションであれば、途中経由するルータが未対応であっても、そのまま通してもらうことができます。発信元と発信先の最終目的地部分だけが拡張アドレスに対応していれば良いのです。

10.1.1.1.256のように記述されたアドレスの場合、10.1.1.1までは通常のIPv4アドレスと同じように送信され、10.1.1.1のルータが256番のコンピュータへ送信を行います。この場合、末端のコンピュータが本形式に非対応であればアドレス変換を行ってもいいでしょうし、そうでなければそのままの形式で送ることができます。

この方法であれば上位互換性がありますので、OS、ブラウザやルータが新しいものに置き換わっていけば自然と対応が広がっていきます。ネットワークも末端部分だけを置き換えれば良いので、非常に容易に対応ができます。

P2P通信を使うようなSkypeなどのソフトウェアから徐々に有用性が認知されて広がっていったことでしょう。

いまさら普及が間に合わないので、枯渇対策としては時既に遅しですが、この方法であれば上位互換性を持ったままアドレス空間を十分に広げることができたので非常に残念です。

* プロバイダでのユーザ向けNATの導入 (難易度: 低)

ユーザの接続に関しては、NAT(ネットワークアドレス変換)を利用することで、TCPやUDPのポート番号を使ってアドレス空間を拡張することができます。

大規模NATではポート番号が足りなくなるという説がありますが、宛先アドレスごとに65536個のポートがあることを考えると、実際にはすぐに足りなくなることは考えにくいでしょう。

ただし、大規模NATを行うためのルータへの投資額はそれなりに大きなものになりそうです。

外から内への通信に関しては、NATを超えた通信を行う仕様の標準化さえ行われれば問題ないでしょう。またサーバ側に多少負荷はかかりますが、サーバを経由して通信することには何ら問題はありません。

この方法は、実際に行われていくだろうと考えられます。

* サーバへのNATの導入 (難易度: 低)

では、サーバにはNATが導入できないのでしょうか?

サーバへのNATの導入には、いくつかの問題があります。例えば、メール送信に使うSMTPはポート番号が固定されていますので、現状ではNATを利用することはできません。

ウェブ閲覧に使うHTTPであれば、ポート番号を自由に変更することができますが、URLが「http://example.com:4000」のようにダサい感じになってしまいます。これは顧客を直接相手にするサイトにとってはユーザの安心感や信頼度を下げてしまう大問題です。そのため、使われるとしてもアドレスバーに表示されないサーバ(画像やコンテンツの配信サーバ等)への適用になるでしょう。

他のプロトコルに関しても、多少ダサくなったり、多少設定が面倒だったりする以外は、何とかなるのではないかと思います。またトラフィックの大多数を占めているHTTP/HTTPSが何とかなるだけで、大きく状況はマシになると考えられます。

サーバネットワークにNATを導入している事例はまだ少ないと考えられるので、対応したネットワークスイッチが存在しないか、存在しても高価で設定が難しいかもしれません(調べてないけど)。ヤマハなどのルータには本方式を実現できる機能がありますが、速度的にはスイッチよりもだいぶ劣ると思われます。そのため現時点では実現可能性に難があります。

* サーバNATのためのSRVレコードへの対応 (難易度: 中)

サーバNATは、サーバ側におけるIPアドレス節約の王道ですが、先に述べたようにURLがダサくなってしまうことが難点です。これではメインのウェブサーバをNAT内に置くことができません。

ブラウザがhttp://example.comのような通常のアドレスを見たときに、ポート番号まで合わせてDNSで取得するように実装を変更されれば、サーバNATも普通に利用できるようになります。

このためにはブラウザがHTTPでアクセスするときにもDNSのSRVレコードに対応するようになればOKですが、これにはだいぶ時間がかかりそうです。

またHTTP以外の他のプロトコルに関してもNAT対応の標準化を急ぐべきでしょう。全てのプロトコルのNAT対応が完了すれば、実質的にIPアドレスは数万倍となり、当面は枯渇問題をしのぐことができます。

* SNI(Server Name Indication)の導入 (難易度: 低)

HTTPでは、サーバ側が一つのIPアドレスであっても複数のURLを割り当てることにより複数のサーバがあるかのように振る舞うことができます。これをVirtual Hostと言います。

これを利用することによりサーバやIPアドレスを集約して、アドレスを節約することできます。しかし、それには障壁がありVirtual HostではHTTPSが使えないのです。HTTPSでは、一つのサーバ名ごとに必ず一つのIPアドレスが必要となっていました。

それを解決するのがServer Name Indicationです。SNIが実装されると、HTTPSでもVirtual Hostを利用することができます。それによってIPアドレスが多少節約できる場合があると考えられます。但し、あくまでVirtual Hostにしか有効ではないので、アドレス枯渇の救世主とはならないように思われます。

SNIは実装が進められていますが、Windows XPのInternet Explorerには実装されない見通しなのが残念です。

* IPアドレス保有を有料にする (難易度: 高)

IPv4アドレスの枯渇には政治的な側面もあります。

IPv4アドレスの分配は市場メカニズムではなく、管理団体により恣意的に行われています。

たとえば、昔にIPv4アドレスを取得した団体ほど審査は緩く、容易に(ムダに)多数のアドレスを取得することができました。そのためアメリカには膨大な数(数千万)のIPアドレスを保有する組織がいくつもあります。

また自分でIPアドレスを保有申請できるプロバイダは容易にIPアドレスを取得出来るのにたいして、プロバイダを介して保有申請しなければいけないエンドユーザは、たった32~256個程度のIPアドレスを取得するにも毎月多額の接続料を支払わなければなりません。

アドレス枯渇のトレンドが明確になってからも、IPアドレス自体に課金することは行われていません。そのためIPアドレス取得が容易な組織にとってはIPアドレスを節約するインセンティブはありませんでした。

それどころか、IPアドレスを多量に消費すれば、もっとIPアドレスを所有する申請ができるのですから、IPアドレスを浪費するインセンティブがあることになります。

このような間違ったインセンティブと不公平な分配がIPアドレス枯渇を加速させた一因となっていることは間違いありません。

枯渇が心配された早期の段階でIPアドレス取得を有料にするべきでしたし、今からでも遅くはないのでIPアドレス保有を有料にするべきでしょう。しかしながら、それは政治的に難しいのかもしれません。

* まとめ

以上のように、IPアドレス枯渇対策には色々な手があります。もう枯渇が差し迫った今となっては、姑息的な打ち手しかないのが残念です。

またIPアドレスが米国において実際に逼迫するまでは、これらの実装は進まないと考えられるので、そうなると米国よりも先にIPアドレスが枯渇する諸国にとっては苦難の時期となることも考えられます。

日本としてはこうした手段がスムースに実装されるように努力しなければなりませんね。

2011年3月26日土曜日

レッツノート CF-J10で大失敗

私はレッツノートの熱烈な愛好者でした。これまでにCF-Rシリーズを3台買って使ってきました。

しかし今回新しくCF-J10を買って大失敗しました。
これは全く使い物にならないので、ヤフオクで売るかなんとかしようと思います。ビジネスでお金が一番大事な時期に痛い失敗をしてしまいました。実機を見ずに買ったのが失敗でした。

使い物にならない理由は縦幅が短いことです。これまでのCF-Rシリーズに比べて、パームレストの縦幅が1.5cm短くなっているために、キーボード下段のキーがまともに打てない状態になっているのです。指を異常にまげないと打てないのでは、使っていたら健康を悪くしてしまいますし、生産性も非常に下がるでしょう。それでは全く使い物になりません。

また画面の縦幅も3cmも短くなっており、コーディングをするには文字が小さすぎて不便です。見た感じもいかにもサブノートという感じで、仕事で使えるマシンという感じではありません。

他にも筐体がすべてプラスチックで異常に安っぽくなっており、とても30万円の商品とは思えません。これではDELLやHPの6万円のノートと同じレベルです。本当にがっかりしました。外で使うのが恥ずかしいレベルです。

問題は、1kgを切る重さのノートPCは他に選択肢がほとんどないことです。私は、常にPCを持ち歩くライフスタイルが当たり前だと思っているのですが、軽いノートPCの選択肢がないようでは、PCの市場はどんどんスマートフォンやタブレットに奪われてしまうのではないでしょうか?

私は、PCというものが人間の知性や創作性を引き出す素晴らしい道具だと思っています。PCを本当に活用するためには、つねに持ち歩いていなければ意味がありません。そのためには、もっと1kg以下のノートPCが登場すべきです。

スマートフォンや携帯電話のように知的創作活動ができない製品ばかりが世の中にあふれるのは良いことでしょうか?



追記: もしこれまでRシリーズを使っていた人が、つぎもレッツノートを買うとしたらJではなくNを買うほうが良さそうです。店頭でみたところ、これまでのレッツノートの遺伝子をJよりも濃く受け継いでいるようです。Jの安物っぽさとは無縁でした。Rに比べて300gも重くなってしまうのが難点ですが。

2011年2月28日月曜日

Yahoo! Japanの検索エンジンがなぜGoogleになったか

先日、Yahoo! Japanの検索エンジンがGoogleに切り替えられました。このことは「検索エンジンがGoogleの独占になる」などといった話題にはなりましたので、ご記憶の方も多いかと思います。[1]

そもそも、なぜYahoo!は検索エンジンを切り替えようと考えたのでしょうか?

元々Yahoo!もGoogleと似たような検索エンジンを自社で作成して運用していましたし、わざわざ自社製品を捨ててライバルの検索エンジンを採用する必要性があったのでしょうか。そこまでせねばいけない動機は何だったのでしょうか。

弊社の運用しているあるショッピングサイトのデータを見ていたところ、面白い事実が判明しました。

Yahoo!の検索エンジン切替の前後で、きわめて興味深いデータがでていたのです。

検索エンジンがGoogleに切り替えられたことで、弊社サイトへのYahoo!経由でのページビューは半分以上減少しました。しかし、それにもかかわらずYahoo!経由での購入者数と売上は変わっていないのです。

すなわちYahoo!経由でのコンバージョンが大幅に改善されたことになります。

これは、Googleの検索エンジンが、ユーザに、よりよい検索結果を提示しているということを意味します。本当に興味のある人にだけ弊社のサイトを案内していることになります。ムダな、興味のないサイトへのアクセスが半分に減ったのですから、ユーザに取ってみれば大きな改善を意味します。

Yahoo! Japanとしては検索エンジンを他社製に乗り換えてでも、結果を改善しなければ、ユーザに離れられてしまうと考えたのではないでしょうか。

なかなか分かりにくい検索エンジンの質の差ですが、サイトの運用者から見ると、このように明白に大差がついていることがわかるものですね。面白い結果だと思いましたので、皆さんにお伝えする次第です。それでは、また。

参考文献:
  1. Yahoo! JAPAN、Googleの検索エンジンと検索連動型広告の採用を発表 - Internet Watch 2010/7/27

2011年2月27日日曜日

IPv6はなぜダメなのか

IPv4アドレス枯渇対策として喧伝されているものに、IPv6があります。

私はIPv6が普及して使われるようになる可能性はこの期に及んでもまだ半々くらいと考えています。なぜならIPv6というプロトコルへの移行はきわめて難しく非経済的だからです。

IPv6は既存のネットワークと全く互換性がなく、移行のためにはハードウェアを買い換えたりソフトウェアをアップデートするだけでは足りず、新たなネットワーク設定を作成して運用するという膨大なコストが必要になるからです。

IPv4アドレスが大いに不足したとしても、依然としてIPv6を導入するインセンティブは働きません。なぜならIPv6を導入しても、IPv6だけではIPv4サイトに接続することはできず、接続のためには必ず一つのIPv4アドレスを必要とするからです。もしIPv4アドレスが一つでも入手できるのであれば、IPv6を導入する意味はありません。[1]

ユーザがIPv4にとどまりつづけるならば、サーバ側もわざわざコストをかけてIPv6へ移行することはしないでしょう。先日はIPv6デーというイベントが開催され、Googleなどの大手サイトが当日だけIPv6で接続可能にするという実験が行われました。ことここに至っても、たった一日だけしかIPv6を有効に出来ないことからも、IPv6のニーズのなさとコストの高さを印象づけるイベントとなりました。

そのような状態では、IPv4アドレスが入手できないインターネット事業者が、苦肉の策でIPv6でビジネスをしたとしても、ユーザが集まらずビジネスはうまく行かないでしょう。

このような全く互換性のないプロトコルを推進するのではなく、IPv4のオプションの形で拡張アドレスを定義して、末端のルータによってアドレス変換を行うような形で実装するべきでした。そうすれば少ない非互換性でアドレス枯渇問題に対応することができたのに!

IPv6の極めて高い非互換性を考えると、単純に「非互換」と言っても、非互換性の程度には大きな幅があるのだな、と考えさせられます。

IPv6の普及が遅々として進まず、批判が上がっていることを無視しても、強引にIPv6を推進しようとしているインターネット団体の人々はIPv4枯渇の戦犯と言ってもいいでしょう。

なぜIETF等の聡明な人々が「全てのインターネットのネットワークがIPv6に置き換えられる」という非現実的な期待を抱いたのか、私には理解できません。インターネットの構成員にたいして命令を強制することのできる人は、世界のどこにもいないのですから。

参考文献:

  1. 覚悟はできてますか? - トンでもなく高価なIPv6

2011年2月6日日曜日

IPv4アドレス枯渇の経営への影響

ちまたではIPv4アドレスがついに枯渇すると話題になっています。本稿では、エンジニアではない事業家に向けてIPv4枯渇問題を説明します。

本稿の筆者もネットワークの専門家ではないので、間違った記述や偏見にもとづいた記述があるかもしれないことをお断りしておきます。ただしネットワークの専門家による記事は、末端の事業家やエンジニアには何の役にも立たないことが通例ですので、そうした記事とあわせてお読み頂ければと思います。

* IPv4枯渇問題とは何か

我々はインターネットを利用するときにIPアドレスという電話番号のような番号を利用しています。利用者はIPアドレスを一切意識しないで利用しているかもしれませんが、実際は、全ての機器にIPアドレスが割り振られています。

インターネットは、IPアドレスに完全に依存して作られており、IPアドレスが無ければ、通信は不可能です。

そのIPアドレスが現在足りなくなりつつあります。2011年中には新規割当の在庫は底をつくと予想されています。

いわば電話番号の桁数が足りなくなって新規の利用者が加入できなくなりそうだ、という状況なのです。

* IPv4アドレス枯渇したらどうなるのか

現在、IPアドレスの桁数を増やしたIPv6アドレスという新しい形式が準備されつつあります。新しい形式に乗り換えることができれば、とてつもない桁数のIPアドレスが提供されるので、枯渇の心配はなくなります。

しかし、残念なことにIPv6アドレスを利用するためには、既存の全世界にある全ての機器や通信網を置き換える必要性があり、切替には長い時間と大きな費用がかかるのです。

IPv4アドレスが枯渇したら順調にIPv6に切り替わると言う論者もいますが、その切替には最短でも数年以上かかると考えられています。そのあいだ、我々は限られたIPv4アドレスを何とかやりくりして事業を続けていくしかありません。

IPv6がうまく普及するかどうか私にはわかりませんが、差し迫ったIPv4枯渇問題に対してIPv6は全く無力なのです。

* 一般企業やユーザへの影響

インターネットにおいて専ら利用者に止まる企業は、当面IPv4アドレス枯渇の影響を気にする必要はありません。

なぜかと言うと、ユーザがインターネットを利用するとき、通常はファイアウォールやルータなどの内側からアクセスしています。その内側では、内線番号にあたるプライベートIPアドレスを利用してますので、IPv4アドレス枯渇の影響を受けません。

外側のIPv4アドレス(グローバルアドレス)は複数の企業やユーザ間で共有することができますし、そうした有効活用に必要な方策はインターネットプロバイダが講じることになるでしょう。この技術をネットワークアドレス変換(NAT)と呼びます。

例えば、電話番号が一つしかない会社であっても、外線発信は同時に何人もできる場合が多いでしょう。そのようにIPアドレスも発信側であれば電話番号はあまり重要ではないのです。

現在は電話番号(グローバルアドレス)が一つの利用団体ごとに一つ以上割り当てられていますが、それを複数の利用者や企業で共通のものを利用するということです。乱暴な話だと思われるかもしれませんが、外部に交換手となるサーバがあれば、理論的にはうまく通信をさばくことは可能です。

そのため、ユーザはインターネットを利用するときにIPv4アドレス枯渇の影響をあまり気にすることなく利用することができると思われます。多少影響があるとしても、接続速度が若干低下したり、接続料金が若干あがる程度でしょう。(ただし今後大幅に発展する途上国においてはユーザのIPv4アドレスも大幅に不足する恐れがあります)

IP電話(VoIP)や仮想専用線(VPN)などを利用していたり、自社でメールサーバを運用しているなど受信側の機能がある場合には、なんらかの影響が出る恐れがあります。対策にはコストがかかるかもしれませんが、IPv4アドレス枯渇によって事業に大きな影響が及ぶことはないでしょう。

* インターネットインフラ事業者への影響

インターネット接続やインターネットサーバなどを提供しているインフラ事業者には枯渇の影響があります。が、その程度は業種、業態、規模、社歴などにより様々であると考えられます。

ユーザにインターネット接続を提供する消費者向けインターネット接続事業者(いわゆるプロバイダ)は先ほど述べたようにアドレス変換(NAT等)によって、少ないIPv4アドレスを多数のユーザに提供することができます。そのためビジネスへの影響は限定的と考えられます。

消費者向けプロバイダにおいても、技術的にはコストのかかる多くの難しい問題を解決していかなければなりませんが、それによってビジネスの成長がストップすることは考えにくいのです。

IPv4アドレス枯渇により最も深刻な影響を受けると考えられるのがホスティング事業者です。ホスティングとは、インターネット上でビジネスをするためのサーバ機器を多量に運用して、それをインターネット事業者へ貸し出す事業です。

サーバ機器を動かすには、通常、一台につき一つのIPアドレスが必要になります。

大規模なホスティング事業者においては、数千台、数万台のサーバを運用しており、その一台ごとにIPアドレスが必要となります。もしIPv4アドレスが枯渇すれば、事業拡大ができなくなってしまいます。

既存のホスティング事業者がどのような解決策を講じているのか、まだあまり明らかになってはいませんが、これから先、IPv4アドレスの不足がビジネス上の制約になることは避けられないと思われます。

またサーバ向けのインターネット接続事業においても、同様にIPアドレスの数がビジネス上きわめて重要ですので、事業拡大に深刻な影響が生じます。

プロバイダも含め、インターネットインフラ事業領域においては今後の新規開業が難しくなると予想されます。新規開業に必要なIPアドレスの割当が受けられず、もし他社から購入するとすれば大幅な費用がかかり、既存の事業者との競争上不利になるためです。

そのためインターネットインフラ事業領域においては競争が低下し、値段が高止まりすることが予想されます。

ホスティングやデータセンター向け接続などの事業領域においては、新規開業ができなくなり、既存の事業者も事業拡大が困難になり、サーバ設置の価格は高騰する恐れがあります。

* その他のインターネット事業者への影響

IPアドレスが足りなくなることは、インターネットの発展にとって大きな阻害要因となる可能性があります。

楽天やmixiのようなインターネット事業者にとってもIPアドレスの確保は重大な問題です。彼らも数千台以上のサーバ機器を抱えているからです。ただ既存事業者は恐らく当面必要なIPv4アドレスを十分に確保しているはずで、今後有効活用の方策などを講じれば、ビジネスに深刻な影響がでることはないでしょう。

問題は、これからスタートする新しい企業や、資金の余裕がなくIPアドレスを十分に確保できない事業者です。

インターネットで事業を行うには、基本的にサーバ機器が必要となり、IPアドレスを確保する必要があります。

彼らはIPアドレスの割当を受けることができず、高いお金で購入する必要がでてくることが考えられます。そうなった場合、新規事業のコストは大きく跳ね上がり競争上きわめて不利な状況に置かれます。

こうなるとインターネット事業領域では新しい発展や改革が起こりにくくなることが考えられます。インターネット領域でのイノベーションが起こりにくくなることは、世界経済やベンチャーキャピタルなどの産業にとって大きなマイナスをもたらします。

* ではどうすればいいのか

皆様の会社がインターネットを利用者としてのみ使っているのであれば、大きな心配は不要です。あと数年して状況が明確になってから、インターネット関係の業者に相談して、対策を検討すれば良いでしょう。(現時点で相談してもはっきりした答えは得られないと思います)

インターネットインフラ事業者の方々は、そもそもこんな素人のページを読まないでしょうし、私が申し上げるようなことは何もありません。

インターネット上で事業を展開している事業家の方々は、これから来るIPv4アドレス枯渇時代に備えて、十分な検討と対策を行うべきです。

現時点では情報が交錯しており、まだ確固とした対策を決められるわけではありません。慌てて、業者やコンサルタントなどの口車に乗って高額の対策を打ったりしないほうが良いでしょう。

もし近い将来にIPアドレスが不足したりサーバを増設したりする予定があるのであれば、前倒しにIPアドレスを確保すべきです。遠い将来の分のIPアドレスを確保すべきかどうかはまだわかりません。予算があれば検討しても良いでしょう。その確保は信頼できる接続業者等に依頼すべきです。

また将来におけるIPアドレスの枯渇対策や有効活用の方策などについて、エンジニアに情報収集と検討を始めるよう指示すべきです。ただし現時点では時期尚早ですので、具体的な計画までは決めないほうが良いでしょう。

* なぜ問題が深刻化しているのか

なぜIPv4枯渇問題はここまで深刻化しているのでしょうか。

これまで日本でも電話番号の桁数が足りなくなって桁が増えるようなことが何度もありましたが、それによって電話が止まったり、多くの会社の事業計画に影響を及ぼすようなことはありませんでした。

石油も枯渇すると何十年前から言われ続けていますが、まだいまのところ、すぐに枯渇するという状況ではないようです。地上波デジタルテレビへの移行も、大きな混乱を伴いつつも何とかやれています。

なぜインターネットだけが深刻な危機に直面しているのでしょうか。

インターネットは一つの企業や組織によって運用されているわけではなく、多数の機関や事業者の集合体であり、そのうち誰一人としてIPアドレス枯渇に責任を負っている人がいないのです。

インターネットの技術面を指揮するIETFなどの団体は、現在の事態にあまり危機感を抱いていないようです。本来であればIPv4枯渇対策技術を緊急に策定する必要があるはずですが、あまりそうした技術の話を聞くことはありません。不思議です。

本来であればIPアドレスを提供することに責任があるはずのJPNIC(アドレス割当団体)内のIPv4枯渇対策タスクフォースに至っては、彼らが熱烈に推進するIPv6を普及する絶好の機会として、IPv4枯渇を歓迎するようなプレスリリースを発表するという倒錯ぶりです。

インターネットに大きな影響力を持つ既存の事業者(とくに米国の事業者)は、既に膨大なIPアドレスを確保していることも考えられます。その場合、彼らにとってはIPアドレスが枯渇するほうが得になります。

また個々の接続事業者は、通例、自社の持っているIPアドレスの活用状況や在庫状況を明らかにしておらず、どれくらい事業拡張・事業継続の見込みがあるのかを公開していません。

そのため末端のインターネット企業やエンジニアにとっては、今後どのように事態が展開するのか全く予想が付かないのが正直なところです。弊社でも、利用している接続事業者に今後の対応について問い合わせていますが、営業担当者からは何の情報も持っていないとの回答がありました。

このような状況下で、情報が錯綜して、誰も正しい判断を下せない状態になっているようです。

とくにインターネットを主導する諸団体の人々は、IPv6という一つの新技術に固執し、それが枯渇に当面間に合わないことが分かった後になっても他の技術をないがしろにして危機を招いた責任があると言えます。

これから先、新技術や新対策が急ピッチで用意され、枯渇が各社の事業に深刻な影響を及ぼすことは回避される可能性も十分あります。いずれにせよ、対策には大きなコストがかかるでしょうが、それが決算書を大きく毀損することにはならない可能性もあります。

その一方で、IPv4が完全に枯渇し、IPアドレスの価格が暴騰し、インターネットの新規起業のコストがかなり増大する可能性も考えられます。

ただしそれで起業成功例が減るかは疑問です。そもそも起業家とは、どんな逆境も乗り越えて困難に打ち勝って成功するものです。たかだか技術的にIPアドレスが足りないという問題が、本当に起業を殺すことにはならないでしょう。

万が一、最悪の事態になれば、インターネットがIPv4とIPv6の二つの世界に分断され、お互いが通信できない極めて混乱した事態になることも考えられます。しかし、そうした事態は当面は起こらないでしょうし、日本で起こるとは考えにくいです。

IPv6への全面移行が完了したのちには、IPv6移行コストを負担できない小企業、個人、大学研究室などのサーバが停止し、インターネットから幾らかの古い情報が消える可能性もあります。それも遠い未来の話です。

以上、現時点でのIPv4アドレス枯渇問題の解説でした。

状況は移り変わりますので、常に最新の情報を参照しながら行動されることをおすすめします。