2013年1月23日水曜日

学習の方法 / Courseraと拡大する格差


いま私の東京の友達の間ではCourseraというオンライン学習サイトが小さなブームになっています。これは、米国のトップ大学のトップ教授たちの講座が無料で受けられるもので、すごい面白くて役立つ授業がたくさんあります。

Courseraや学習について、とりとめのない話をいろいろと書いてみます。本当にとりとめがない随筆なので、軽く読み飛ばしていただければと思います。つまらなかったらごめんなさい。


私はCourseraでは、Machine LearningとAlgorithms: Design and Analysis Part1の授業を修了し、いまはPart2に取りかかっています。そこまでの感想などをまずお話しします。

Courseraは真に革新的なオンライン授業を提供していると思います。画期的である理由は以下の通りです。

1. (これらのコースでは)教授がものすごく教えるのが上手であり、熱意をもって、素晴らしい講義や教材を提供している。
2. 適切な試験や課題などを提供することで、講義を聞くだけにとどまらず、きちんと手を動かして学ぶためのコースとして成立している。
3. 修了するとpdfで修了証がもらえるので、ちょっと頑張ろうかなという気になる。
4. 授業のスケジュールが決っているので、いちど登録したらスケジュールに沿って学ばなければならない。そのため独習とちがって、ペースが遅くなりすぎて投げ出してしまうことが少ない。

私がとったコースは本当に素晴らしい授業内容であり、こうしたものが提供できるのであれば、大学で教授がライブで講義する必要というのはゼロですね。講義はすべてビデオにして、わからないところだけ教えてあげたり、試験や課題だけ大学においてチェックするような仕組みになっていくのではないでしょうか。

私は中卒で独学でプログラミングを学んだので、計算機科学もわかりませんし、数学もちんぷんかんぷんです。それが、これらの授業を受けたことで、プログラマーとしての可能性が大きく広がったと思います。弊社の事業にもいろいろと活かす方法が思いつき、とにかくわくわくします。

ただし、ビデオ講義だからといって優れているとは限らないのですよね。日本の放送大学は長年にわたってビデオ講義を提供していますが、その品質は「悲惨」の一言です。どの講義も、あまりに退屈で意味不明すぎて、とてもじゃないですが見られた代物ではないですね。なぜこれほど品質に差がでるのか、正直いって不思議です。Courseraでも、今後、コースが増えてきたら品質が下がってしまうのではないかと不安です。

もしCourseraがこの水準の授業を数百~数千コース提供できるとしたら、高等教育は完全に変わってしまうでしょう。英語圏の大学はすべてCourseraによる授業に切り替えるのではないかと思います。そうなれば、日本も政府が予算をとってCourseraを翻訳提供するなどの措置が絶対に必要になるでしょう。それほどレベルが高い授業です。

ちなみに社会人がCourseraを受けるなら、一度に一つの授業を受けるのが限界だと思います。一つに絞って、なんとしても修了する気概で食らいついてください。正直、Algorithm Part2は終盤かなり難しくなってきて、かなり苦労しております・・・


今月、東京でCourseraユーザーの小規模なオフ会を開きました。日本では、どういう人がCourseraをやっているのか、何の目的でやっているのか、興味があったからです。

結果から言うと、参加者は外資系超一流企業のエリートの方ばかりでした。

まぁ英語で大学レベルの授業を自主的に受けようという人は、そりゃエリートに決っているかもしれませんが、ちょっと厳しい結果だなと思いました。ちなみに、オフ会自体も英語でやったので、その点でもバイアスはあるかもしれません。

私のように高校にも大学にも行かなかった人間にとって、Courseraのような無料オンライン教育というのは、素晴らしい機会です。それによって社会の格差が縮まれば素晴らしいなあ、と思っていました。

しかし現実には、日本においてCourseraは格差を拡大する方向につながってしまいそうです。エリートほどCourseraの恩恵を受けて、スキルを強化していくでしょう。

残念ながら日本の中卒・高卒および二流大学卒の人の多くは、大学の授業が受けられるレベルで英語ができたりしないでしょうし、高校レベルの数学の知識なども欠いているでしょう。

なによりも、多くの非エリートの人に欠けているのは、自分の知識と学力でもって社会で成功してきた成功体験ではないでしょうか。

日本の教育制度や学習者の姿勢というのは、とにかく学歴と資格の二つに集中しています。学ぶことによって、それがどのような役に立つかということは二の次で、とにかく試験勉強ばかりです。

試験は「何を学べば良いか」「どれくらい達成できているか」について、大まかな枠組みを与えてはくれますが、やはり「どんな知識が得られるか」「どう社会で役立てるか」に比べれば、ずっと些末な達成目標です。試験勉強に偏重した日本の勉強法はいまの時代にそぐわないと感じます。

Courseraをいくら学んでも資格はもらえませんので、Courseraで学ぼうという人は、資格にもならない勉強を自力で学ぶだけの意欲があるということです。このような姿勢がこれからの社会ではとても大切になると思います。


じゃあ、エリートでもない人間が具体的に何をどう学べば独力で成功できるのか?

いま間違いなく役に立つのはプログラミングではないでしょうか。プログラミングができれば、中卒で地方在住でもなんとか家族を食べさせられるくらいの給与は得られますし、仕事に困ることもないでしょう。

そこそこの学歴と何らかのスキルがあるなら、英語もすごく役立ちます。大卒以上で英語とプログラミングが上級なら、東京ではすごく良い仕事が得られます。学歴やスキルがない人は、英語ができても良い仕事にありつくのはちょっと難しいかもしれませんね。残念ながら地方では英語ができても、まともな仕事はないでしょう。

ま、仕事に役立たなくても英語は学ぶ価値があると思います。英語ができなければ、文盲と同じですから。世界の99%を見ることも知ることもできずに生きていくというのは、あまりにむなしい生き方だと思います。井の中の蛙でよいのですか。

Courseraのようなものが、これからどんどん発展して、それが日本語に翻訳されないとするならば、英語を学ぶことは誰でも必須になってくるでしょうね。それくらいCourseraは画期的です。

学習法についてうだうだ書くつもりはありませんが、とにかく気合いをいれて学ぶしかないでしょうね。いまどき英語やプログラミングくらい誰でもできて当たり前という心構えで臨んでください。時間も根性も必要ですが、やるしかないのです。

2012年12月29日土曜日

いまこそ日銀法改正でデフレ脱却のとき

自民党の安倍内閣に変わりましたが、彼らに期待することはとにかくデフレ脱却により経済を回復させることです。

ウェブ上では、10年くらい前から山形浩生らのリフレ論者が、インフレターゲットによるデフレ脱却を主張してきましたが、リーマンショック以降、英米欧がリフレ策を取り始めたことにより、ようやく日本でもインフレ目標が真剣に検討されるようになりました。

デフレとは持続的に平均物価が下がっていく現象のことです。すなわち現金の価値があがっていくということです。

平均物価がさがっていくと、以下のような弊害が起こります。

1. 現金の価値があがっていくということは、来年の1万円は現在の1万円よりも価値があるということです。1万円を借りて来年に1万円を返す場合には、金利を払っているのと同じことになります。この場合は名目金利は0%ですが、実質金利はデフレ率と同等になります。名目金利は0%以下にはなりえないため、デフレ下では実質金利が高止まりするために、企業や消費者は現金を持ちたがり、設備投資などを手控えることになります。そうなると現金は死蔵されて使われなくなり景気が悪くなります。

2. デフレによって物価が下がっても、正社員の給与などは急には下がりません。そうすると、相対的な人件費が高くなり、人件費負担が大きくなるために利益が逼迫されます。そのために全体の人件費を抑制する必要が生じて、失業者や期間労働者などにしわ寄せがいきますし、企業の投資が手控えられたり、正社員の解雇が行われたりすることになります。逆に安定して高給与を保証された正社員や、現金を主に所有する資産家には有利になります。失業者やローンを抱える弱者にしわ寄せがいくという点でデフレの弊害があります。

3. デフレ下では総供給にくらべて総需要が少なく、設備や人材などの生産力が遊休状態にあります。これは産業の効率を下げたり、失業の原因となります。すなわち本来なら働けるのに、無駄にされる生産力があるということです。生産力がすべて使われた状態に比べて、経済の成長力が阻害されることになります。高齢化して社会保障費が増大する日本にとって、経済成長することはきわめて大事なことです。

4. デフレであれば、通貨の価値が上昇するので、他国に比べて通貨高となります。通貨高は輸出企業の業績を悪化させ、輸入を増大させるので、日本の経済を悪化させ、総需要は一層低下します。

そのため経済にとっては、年率2%程度物価が上昇する、ゆるやかなインフレが望ましいと考えられています。

デフレの原因については、バブル崩壊やリーマンショックなどの資産価格下落により需要が一時的に下落すると、それによりデフレが生じて設備投資や消費などが手控えられます。それにより需要が下がり、さらなるデフレを引き起こすというデフレスパイラル論がよく言われます。

原因がどうであれ、デフレやインフレなどの物価水準の変動をちょうどよい水準に保つことは日銀などの中央銀行の責務です。

日本ではデフレが20年も続いており、それが深刻な不況や失業や円高などの原因の一つと考えられています。

デフレを退治する方法はシンプルであり、インフレ目標に従って、日銀がお金を刷って様々な資産を買い続ければよいのです。それは物価がほどよく上昇する程度でやめるのですから、それによってハイパーインフレになる恐れもありません。

日本のようにデフレ下で債務が大きい状況では、公共事業の増大などの財政政策の効果は限定的であると考えられます。公共事業の増大は、増税や、債務を増加させ将来の増税をもたらしたりするため、それだけ企業や消費者の需要を低減させるからです。公共投資を行うなら、老朽化したインフラの更新など、将来の税負担を先食いするようなものが良いのではないでしょうか。

またデフレ不況下で増税を行うことは絶対に避けるべきです。増税した分だけ需要が低減して、税収の低減を招くために、政府財政の改善につながりません。

デフレを退治するためには、日銀法改正が一番です。

政府が政治的圧力で日銀を脅かして従わせたように見えても、実際には日銀は裏で舌を出して、金融緩和策を骨抜きにするでしょう。自主的にインフレ目標らしきものを設定したとしても、実際にはそれを達成するための行動はとらず、デフレが続いても何の責任もとらないのではないでしょうか。これまで日銀はずっとそのような行動をとってきましたから。

日銀をきちんと従わせるためには、日銀法を改正して、インフレ目標を政府が設定できるようにして、もしそれが達成できなければ日銀総裁の解任などの政治介入が行えるようにすべきです。

政治的圧力というもやもやしたもので金融緩和するよりも、きちっとしたルールにもとづいて金融緩和するほうが、通貨の信認という観点からも望ましいのではないでしょうか。

安倍内閣に期待することは、とにかくそれだけです。全力で頑張って頂きたい。

参考文献

2012年12月8日土曜日

右傾化した自民党に政権を渡すのは危険だ

新井です。

政治的発言をして個人的に良いことなど何もありません。本人に政治色がついてしまい、反対派の人達を遠ざけることになるからです。

だからといって賢明な人たちが誰も政治の話をしなければ、この国はどうなってしまうのでしょうか? 愚かで声の大きい人たちが政治を牛耳ることになりますよね。

というわけで、私はここでもどんどん政治の話をしていきます。

さて、次の選挙の話ですが、色々と争点はありますが、私にとって最も注目しているのは、自民党の著しい右傾化と、維新の会などの右派勢力の伸張です。

「右派」という言葉には色々な意味がありますが、本記事では「政府による社会統制の強化」と言った意味で使うことにします。

自民党は政権にあった頃よりも著しく右傾化しており、いまや実質的には右翼政党となっています。

それは彼らの発表したこちらの憲法の改正案を見れば明らかです。こちらのウェブサイトは、左派寄りの見方ですが、自民党改憲案のどこに問題があるかを解説しています。

とくに私が問題だと思うのは第二十一条(表現の自由)に「公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない」という項目を追加したことですね。

(表現の自由)
第二十一条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、保障する。
2 前項の規定にかかわらず、公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない。
これは戦前のような言論弾圧を可能とするものであり、自民党がどのような政権を目指しているかが如実に表れている文言です。

さすがに、いくらなんでも、こういうことを言っている人たちに政権を取らせてはまずいだろう、と思いますよ。

片山さつきのようなネット右翼が政界に飛び込んだような人[1][2]も要職につけるつもりのようですし。片山さつきのtwitterでの発言をみてもわかるように、このような人が政権に入るのは極めて危険です。

自民党が日銀法改正に言及していることはデフレ対策の点から見て素晴らしいことだと思います。日銀はこれまでひどい仕事をしてきましたから。しかし、自民党の右傾化はきわめて危険であり、自民党を応援するわけにはいかないなあ、と思います。

言論の自由を失いたくない人は、なんとか穏健派の勢力を勝たせるべく頑張りましょう。投票したい政党がないのは事実ですが、このさい民主党でも共産党でもなんでもよいので、とにかく投票に行きましょう。個人的には「みんなの党」の経済政策にはわりと共感するのですが、彼らが右派勢力と連立する危険性が怖いですね。

「強い日本を目指すんだ!」という人もいるかもしれませんが、強い日本というのは自由なイノベーションから生み出される豊かな経済からしか生まれないのではないでしょうか。日本が中国に軍拡競争を挑んでも無益ですよね。

強い日本を生み出すのは、自由な社会によって生み出される科学技術とイノベーションだけだと思います。残念ながら日本には自由主義の政党というのがありませんが、統制主義政党にだけは政権を握らせてはならないと思います。統制主義は、時代遅れの規制によって、日本の経済や文化を滅ぼします。


ヒトラーは選挙で政権についたということをお忘れ無く。


参考情報:

  1. 朝日・東大谷口研究室共同調査:第46回総選挙:朝日新聞デジタル
  2. 各政党の政策を知ろう|「選挙に行こう」キャンペーン - 新経済連盟

2012年12月1日土曜日

選挙期間中にネットで政治を論じても違法ではない

選挙になると、ネットなどでどれだけ政治的発言をしても良いのか、ということが話題になります。

大阪弁護士会の壇俊光弁護士に問い合わせた結論から言うと、選挙期間中であっても選挙関係者以外は自由に政治的な発言をできるということです。

以下に壇俊光弁護士とのメールのやりとりを掲載します。


・新井

選挙期間中やそれ以外の期間でも、
ネットでどういう行為を行うと公職選挙法違反で犯罪になるのか、
どのあたりがグレーゾーンで、どのあたりがセーフなのか、
それについて解説して頂きたいなと思っています。

現状だと、どこまでがアウトなのか、みな分からず、
選挙が公示されたらとりあえず政治については黙っておこう、
みたいな状況になっていると思い、それはまずいと思うんですよね。

評論ならいいのか、評論でもダメなのか、などなど。
応援するのはダメなのか。○○に投票する予定というのはどうか、など。

・壇

結論としては、政治活動に該当しなければとくにいいというより、
金をもらっていなければ、何しても良いというのが基本です。

選挙活動: 特定の選挙につき特定の候補者または特定の立候補者予定者の当選を目的として、投票を得又は得させるために直接または間接に必要かつ有利な行為をすること

選挙活動は、公職選挙法上の規制あり。

政治活動: 政治上の主義、主張、若しくは施策を推進し、支持し、若しくはこれに反対し、又は公職の候補者を推薦し、支持し、若しくは反対することを目的として行う直接間接の一切の行為

政治活動は、公務員等でない限り特に規制ありません。

これに書いてますなぁ。
http://www.jsdi.or.jp/~y_ide/9610saki_qa.htm

で、実務ですが、政治活動と選挙活動の境目が難しいので、
関係者か、金をもらってなければ、まず大丈夫です。


ということで、実務的には一般の方が選挙期間中に政治について論じたところで、選挙違反と見なされることは考えにくいというご見解です。皆さん、安心して政治を論じましょう。

ただし特定の候補者への投票依頼を行ったり、明確に特定候補への支持を表明することについては注意が必要です。(公職選挙法、第百四十六条を参照)

現在の公職選挙法は不必要に禁止事項が多すぎて、公正な選挙をかえって阻害しているものであり、抜本的な改革が必要だと思います。

現在の公職選挙法では、ほとんどまともな選挙活動は行うことができず、著名人や地元の有力者などが有利な、不公正な制度になっていると思います。

単に「ネット選挙解禁」だけでなく、公職選挙法の抜本改革や、選挙公報の紙面の拡充(増ページ等)などを通じて、きちんと候補者に関する情報がうまく流通する制度とすべきです。また選挙カーのような有害無益な存在こそ禁止すべきです。

日本の法律は何でも「禁止禁止!」であり、日本の法制度全般を抜本的に改正して、規制を圧倒的に緩めることが必要なのではないでしょうか。それこそが日本の繁栄につながります。

2012年11月12日月曜日

騙されないための医学入門 - EBM(根拠に基づく医療)とは

わたしはつねづね、全ての人が、医学、経済学、法学の初歩を学ぶべきであると考えています。なぜなら、それらの知識は、人生において役立つ不可欠な知識であるとともに、実世界を理解する手助けをしてくれる大事な教養だからです。

(個人的にはそこにプログラミングも追加したいところですが、人生でどれくらい役立つかは疑問です。教養や知力を高めるという点では、すごく役に立つと信じていますし、仕事や学問の役には立つでしょう、しかしプログラミングそれ自体は人生において医学等ほど必要ではないですね。)

経済学を学ぶなら、スティグリッツの入門書か、クルーグマンのミクロ経済学を読めば事足ります。いきなり教科書だと経済学の考え方が分かりにくい点もあるので、先にエッセイ的なもの(ベッカー教授の経済学ではこう考える―教育・結婚から税金・通貨問題まで)を読んでおくのも良いでしょう。法学を学ぶなら、適当な刑法の入門書を読めば事足ります。どちらもさほど時間をかけることなくエッセンスを学ぶことが出来るでしょう。そして、それは確実にあなたの人生の役に立ちます。

ちなみにミクロ経済学と刑法を選んだのは、それらがマクロ経済学と民法よりも圧倒的にシンプルで分かりやすいからです。とりあえず分野の感じをつかむためだけなら、ミクロと刑法だけ押えておけばよいのではないかというのが、私の独断的意見です。

医学の世界だと、そこまでシンプルに一冊で全体を概観できる本というのは見当たりません。人間という複雑なシステムを扱う以上、一冊で全貌を把握しようというのは難しいのでしょう。そのうえ、世の中には「偽医学」の本や情報があふれており、本物の医者ですら偽医学を提唱したりする有様ですので、ややこしいですね。

それでも、人は医学を学んでおく必要があります。なぜなら本人の健康について最終的に責任を持つのは自分自身しかいないからです。医師の治療を受けるとしても、本人が知識を持って主体的に治療に取り組まなければ治らない病気は数多くあります。そもそも、本人が病気の危険性の認識や、治療の意欲をもたなければ、病院に行くこともなく、薬を飲むこともないのですから、どんな病気も治療できません。


残念ながら素人にとって医学を体系立てて学ぶというのは、かなり難しい行為です。そのような書籍も存在しません。そこで、本記事では、素人が医学を学ぶための一つの考え方を紹介しようと思います。

素人が医学を学ぶための切り口としては、3つの切り口があると思います。1つめが個々の病気について学ぶ方法です。2つ目が、薬について学ぶ方法です。3つめが、統計的な医学について学ぶ方法です。それに比べると、人間の身体の働きについて学ぶのは、学ぶことが膨大で難しいわりに成果があがりにくいので、素人向きではないでしょう。

本稿では、3つめの統計医学について紹介しようと思います。なぜかというと、医学にとって最も大事な考え方は統計であり、医学の発展は統計とともにあり、統計なくして医学はなりたたないからです。そして、統計医学について学ぶことは、世の中に氾濫する偽医学から身を守る方法になります。

ちなみに、個々の病気という観点から医学を学ぶことについては素人向けの良い資料が色々とあります。例えば、ウェブで読むならメルクマニュアル家庭版、本で買うならメイヨー・クリニック 健康医学大事典あたりでどうかと思います。

素人が薬学を学ぶための本は良い物が分かりませんので探してみます。見つかれば、また記事にしますね。


さて、統計医学とは言いますが、ほとんどの皆さんは「なぜ統計が医学と関係あるのか?」とお思いではないでしょうか。

なぜ統計が医学の役にたつのかというと、人間というのは個体ごとに大きなバラツキがあり、病気は確率的に発生し、薬は確率的に効果を発揮するからです。

ある病気にかかった人は、何もせずにいても20%の確率で治るとします。そのときに、Aという薬を飲んだ人も、同じく20%の確率で治るとしたら、その薬は全く効かないのと同じですね。しかし薬のメーカーは、その20%の事例を大々的に紹介して効能を謳うかもしれません。そのため薬事法などは、そうした宣伝を一部規制してはいますが、それでも偽医学やインチキ健康食品は世の中に蔓延しています。

医療では、必ず治療法を評価するときには個別の症例ではなく、統計的データによって評価しなければなりません。それも単なる統計的調査ではなく、実験によって立証される必要があります。

皆さんも「プラシーボ」という言葉について聞いたことがあると思います。

新薬の認可プロセスでは、同じ条件の患者を2つのグループに分けて、片方のグループに新薬を投与し、もう片方のグループには偽薬(プラシーボ)または既存の薬を投与して、その結果を比較します。結果を統計的に評価して、新薬が十分な効果を発揮していれば、薬として認可されます。

このプロセスには、ものすごい費用と労力がかかり、それが製薬会社の利益を圧迫し、医療費高騰の原因となっていますが、それでも省くわけにはいかない重要なプロセスです。

ちなみに、健康食品の宣伝やら、新聞の医学ニュースなどでは、「○○という薬を、試験管で○○という細胞に混ぜたところガンが消えた」とか「○○という薬を、マウスに投与したところガンが消えた」などという話がよく出てきますが、臨床医学的には全く意味のない話です。人間は試験管でもマウスでもありません。そのような新薬候補物質は無数とありますが、実際の薬として認められるのはそのうち何万分の一とか何百万分の一という世界です。


最近の臨床医学では、EBM (Evidence-based Medicine, 根拠に基づく医療)という言葉が一般的になりました。

それは臨床医学においては、常に質の高いエビデンス(証拠)を根拠として医療を行うべきである、という考え方です。エビデンスには以下の種類があります。一般的には、1が最も質が高いエビデンスであり、5はエビデンスとは通常見なされません。 [1]

1. システマティックレビュー (ランダム化比較試験のメタ解析)
2. ランダム化比較試験
3. コホート研究
4. 症例対照研究
5. 症例報告

システマティックレビューとは、ある治療に関する複数の研究成果の統計データについて、統合して統計的な分析(メタ解析)を行って、複数の研究成果を統合した質の高いエビデンスを提供します。 [2]

これによって特定の研究におけるバイアスを排除したり、複数の研究データ(症例数)を統合して質の高い統計データを得ることができます。医学研究には多額の費用がかかるので、個々の研究の症例数は限られたものになるため、メタ解析には大きな価値があります。

システマティックレビューの元祖かつ本家と言えるのが、米国のコクラン共同計画です。コクラン共同計画は世界のEBMの本山とも言え、臨床医学において最も信用できる情報源と見なされています。[3]


ランダム化比較試験は、先ほど述べたように新薬の承認などのさいに行われる研究であり、患者をランダムに2つのグループに割り付け、各グループにAという治療法と、Bという治療法のどちらかを行って、その結果を比較します。

現在は新薬の開発のさいには二重盲検法によるランダム化比較試験が必ず行われます。二重盲検とは、患者の治療を担当する医師も、患者がA/Bどちらのグループに属しているのか分からないようにするという方法です。患者と医師の双方が自分のグループを知ることができないので、「二重」盲検と呼びます。これにより、医師が治療や治療結果の判断に対してバイアスをかけることを可能な限り防ぎます。

この考え方は医学以外の分野にも容易に応用することができ、オーディオ製品や食品などの開発にも応用することができますし、マーケティングのA/Bテストなども同じ考え方ですね。人間という複雑でバラツキのあるものを研究するには、この方法しかありません。

手術などの他の治療法では、プラセボを投与することが難しいので、盲検(ブラインドテスト)を行うことは通常はできません。たまに「偽手術」といって、実際の治療を行わない偽の手術を行う実験もあるようですが、患者がそうした実験に参加したがるとは考えられないので、普通は無理でしょうね。その場合は、盲検することは諦めて、単なるランダム化比較試験を行います。

ランダム化比較試験は、個々の研究のなかでは最もエビデンスとしての質が高いと考えられています。しかし研究自体のデザインに問題があったり、発表バイアス(成果の良いものだけが広く公表される)があることもあるので、素人が個々の研究だけを見て、「この治療法はイケる!」と判断するのは危険です。

いわゆるトクホ(特定保健用食品)と言われる健康食品などは、ランダム化比較試験の結果に基づき認可されているようですが、それが優れた効能を保証しているとは限らないと私は思います。

一つには代用エンドポイントの問題があります。臨床試験の結果はエンドポイントとよばれる評価項目で評価されます。それには、「死亡率を下げる」「痛みをおさえる」など治療上の目的を達成したかどうかを評価する真のエンドポイントと、「食後の中性脂肪を下げる」など健康に利すると考えられる間接的な目標を評価する代用エンドポイントがあります。トクホの臨床試験では、短期間だけ代用エンドポイントが満たされれば良いという考え方のようです。それは必ずしも実際の健康への有用性を保証するものではありません。

いずれにせよトクホの試験は、新薬のように莫大なコストをかけて厳密に行われるのではない以上、眉に唾を付けて見た方が良いでしょう。厚生労働省がなぜこのような中途半端な制度を導入したのか不思議に思います。


コホート研究とは、ある集団についてライフスタイルや受けている治療などの要因について情報収集をしながら長期間の観察を行うことにより、何らかの要因(喫煙など)が健康に及ぼす影響について調査を行う研究手法です。

ランダム化比較試験に比べると、相関関係を見ることはできても、因果関係を直接に知ることはできませんので、その点でエビデンスレベルは低くなります。しかし、数多くの人間を長期間にわたって観察することができますので、ライフスタイルなどのもたらす長期的な影響を調べるには適しています。


症例対照研究はすでに病気にかかった人と、そうでない人がどのような要因にさらされていたかを調べて、病気の原因となる要因を探ります。研究が行いやすいのが利点ですが、統計的に質の良い情報を得るのは困難です。基礎医学研究や疫学研究では有用ですが、臨床上はあまり有用性がありません。 [4]


症例報告とは、一人または複数の患者の症例について「このような事例がありましたよ」という事例報告です。これは通常は考慮に値するエビデンスとは見なされません。ただし、発症した狂犬病という致死率100%の病気を、人類史上初めて治した症例報告には、素晴らしい価値があり、すぐに世界中の臨床家が真似をするようになりました。


治療法のエビデンスレベルについて知るには、学会等の発表している診療ガイドラインが有用な情報源です。診療ガイドラインには難解な物もありますが、一般向けに書かれたものもあり、わりとアップデートされており、役立つと思います。一般向けガイドラインのウェブサイトとしては、minds、がん情報サービス、科学的根拠に基づくがん検診推進のページなどがあります。[5]

一般的な素人が治療法の善し悪しについて判断するには、そのような診療ガイドラインを参照することが良いでしょう。mindsにはコクランレビューの抄訳も掲載されています。コクランレビューは現在の臨床医学界において最も信用できる情報源と考えて良いと思います。一般人でも容易に分かる内容、例えば電動歯ブラシなら回転振動式が良いといった内容も掲載されています。


このようなEBMという潮流のせいで、医学研究者は統計学の高い知識が問われるようになり、医学者にとって数学は極めて重要なスキルとなりつつあります。マーケティングや広告の業界人が、じょじょに統計学者やプログラマーに置き換えられつつあるのと似ていますね。

しかし実際には医師の統計の知識は限られたものです。臨床医にとっても、正しく医学情報を理解するために統計の知識が必要なことを考えると、医学教育における統計学の重みを強化しなければならないかもしれませんね。

最後に付け加えておくべきことは、自分という人間は「統計」ではないということですね。5%の人にしか効かない強い副作用のある抗がん剤を使うかどうか、それを判断できるのは自分しかいないということです。当然ですが、医者は、その情報を提供することはできても、判断を下すことはできません。

ですから、医学を学ぶことが大切なのです。さっそく医学を学び始めましょう。ちなみに英語ができる方ならCourseraにも医学や統計学のコースがいくつかありますよん。

2012年10月18日木曜日

ARM社のビジネスモデルとIntelの将来


現在のスマートフォンやタブレットの大半はARM社のプロセッサで動いているのをご存じでしょうか? iPhone, iPad, Kindle, Nexus 7も例外ではありません。

ARM社は、製造設備を一切持たない半導体企業です。しかし、ただのファブレス企業ではありません。ARM社は、自社でプロセッサを製造販売することは一切なく、プロセッサの設計図を他社に販売して稼いでいるIP(知的財産)ベンダーなのです。

ARM社からCPUの設計図を購入したSamsungやTexas Instrumentsなどのメーカーは、CPUを自社で好きなようにカスタマイズして、自社や委託工場(ファウンドリ)でプロセッサを製造して利用したり外販したりします。


ARM社の強みは二点です。

一つには、ARMは低消費電力CPUに特化していることです。モバイル機器では、消費電力が最も重要な要素です。最近では、サーバーやノートPCでも消費電力が重要視されるようになってきました。

もう一つには、ARMは組み込み向けSoC(System on Chip, 統合型プロセッサ)に強みを持っていることです。SoCは、メモリ管理・ビデオ・ネットワークなどの周辺回路をCPUのチップに取り込むことで、実装面積の低減、消費電力の低減、コストの削減を実現します。これはモバイル機器に極めて重要な要素です。

ARMはカスタマイズ可能なCPUの設計図を販売していますので、購入したメーカーは独自の周辺回路や他社から買った周辺回路などを一つのチップにまとめて製造することができます。これはIntelのようにCPUを製造販売している企業には不可能な芸当です。

いくらIntelが強力な企業であっても、一社で全ての周辺回路を開発することはできませんし、多種多様なチップを製造販売することは困難です。

これがIntelのビジネスモデルを大きく脅かしています。


スマートフォンやタブレットは、PCの領域をどんどん切り崩していますし、今後もその流れは止まらないでしょう。そのうえ、ARMプロセッサは十分に進歩しており、今後はPC用としても使われるようになるかもしれません。

初心者ユーザーにとっては、複雑で使いこなすのが難しいWindowsやMacOSのPCよりも、AndroidやiOSのような使いやすいOSを好むのではないでしょうか。そうなれば、キーボードの付いたAndroidノートPCなどが市場に進出してくるのも時間の問題でしょう。

何よりIntelにとって恐ろしいのが、サーバー分野へのARMプロセッサの進出です。

先日、私がIBM BlueGene/Qの記事でも述べたように、サーバー領域においても消費電力や実装密度などが重視されるようになっています。System on Chipによる消費電力と実装密度の向上は、サーバー分野でもどんどん活用されていくでしょう。

サーバーは、PCと異なりWintelの牙城ではありません。Linuxさえ動けば良いという世界です。

数年後には、低価格サーバーというのはSoCのCPUとDRAMとSSDが一つの基板上に実装された、小さなカードのようなものになっていることでしょう。一つのサーバーラックに数千~数万のサーバーノードが実装され、仮想化というのは、サーバー資源の切り分けではなく、単なる管理用・可搬性向上の機能になるのではないでしょうか。(スケールアップよりスケールアウトが容易なことを考えれば、仮想化によるサーバー集約というのはコスト効率の劣る方法です。)

そのときに、サーバーでの勝者はIntelになるのかARMになるのか、興味深いところです。GoogleやAmazonのように大量のサーバーを必要とする企業はARM寄りになるかもしれませんね。

追記: (2012/10/21)

HPはすでにそのようなSoCサーバーを試作しているのですね。1Uあたり72ノードとのこと。おそろしや。

レンタルCTOはじめます

注: 写真はイメージです。
こんにちは、新井です。

個人の取り組みとして、新たにレンタルCTOという活動を始めてみようかと思います。すなわち非常勤の技術コンサルタントとしてベンチャー企業などにアドバイスを行う試みです。

昨今の経営環境では、IT技術の活用が必要不可欠となっていますが、一般企業が優れた技術者を見つけることは容易ではありません。しかし、経営陣にIT専門家がいなければ、ITを高度に活用してビジネスを行うのは難しいのが現実です。

そうした企業の技術参謀役として、ビデオミーティングなどによりアドバイスを行う「レンタルCTO」業をはじめます。


私は、日本を代表する著名技術者ではありませんし、最優秀の経営者でもないでしょう。しかし技術と経営の両方を分かっていて実践している人材という点では、日本では極めて稀少な部類かと思います。いわゆるコンサルタントなどと違い、いまもプログラミングや経営を自分で行っていますので、実用的な知見を提供できます。

これまで、有料動画配信モール、名刺管理ITサービスなどの企画・開発・運用までに携わってきました。動画配信モールは、現在では100TB以上のストレージ容量を運用する巨大なサービスとなっています。

この動画配信モールは、私に開発依頼があったときには、P2P技術を使って安価に動画を配信するという企画でした。しかし私がP2P技術のメリット・デメリットをお話しして、P2Pは今回の案件には適切ではないことをご理解頂き、最終的には通常のサーバーから配信する形式で開発することになりました。

日本でP2P技術で動画配信を行う事業は一つもうまく行かなかったことを考えると、この選択によってビジネスを失敗から救うことができました。

このように、適切な判断のできる高度な技術者を経営判断に活用することは、テクノロジービジネスにおいては必須であると考えます。「プログラムが書けます」というレベルの技術者と、経営判断をゆだねる技術者に求められる知識は全く別のレベルです。


私にとっても、レンタルCTO役をやることで、これから新規事業を手がけるにあたり、様々なビジネスから知見を得たり、新しく優秀な経営者の方々とお知り合いになれるのではないかと期待しています。

私自身の新規事業開発の時間もあり、コンサルティングに使える時間は限られていますので、先着3社までの限定でお受けさせて頂きます。

お互い相性が大切かと思いますので、まずは気軽にお問い合わせ頂き、チャットなどでお話しできればと思います。

お問い合わせは arai [at] mellowtone.co.jp まで。

レンタルCTO基本プラン
* 毎月10万円 (年商1億円以下の企業や個人事業主は毎月5万円に割引します)
* 4時間のビデオミーティングを2回/月
* メールとチャットは無制限 (回答までの時間は無保証)

お手伝いすること:
* IT活用ビジネスに関する企画のアドバイス
* 技術者の採用および、ITアウトソーシングに関するアドバイス
* 基本的な開発プロセスマネジメントに関するアドバイス
* 基本的なITセキュリティに関するアドバイス
* 技術基盤(アーキテクチュア)に関するアドバイス
* システム設計、開発、運用に関するアドバイス

得意な領域:
* ビジネスと技術にまたがる領域 (テクノロジービジネスの企画等)
* ウェブビジネス
* ITベンチャー企業 (受託開発業を除く)
* システム設計
* データベースアプリケーション
* システムの高速化

得意でない領域:
* 大規模エンタープライズシステム
* 大規模プロジェクト
* 市販業務パッケージの活用ノウハウ
* ゲーム開発
* ソフトウェア受託開発業
* 先進的な開発プロセスマネジメント (アジャイル、テスト駆動開発、継続的インテグレーション等)